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「では、3ゲーム制(2ゲーム先取で勝利)で行いましょう。各ゲームは、11点先取です。10-10以降は、2点差がつくまで続けますよ。サービスは2本交代で」
そう言って小夜が、スコアボードを手にとった。このスコアボード、一部が破けていることからも、年季が入っているようで。
さっそく開始。
千沙と真紀さんは、友人らしい連携のとれたプレイをみせる。
いや、まった。よくよく観察していくと、千沙は好き勝手にやっている。それを、真紀さんがうまいぐあいにフォローしているのだ。
かくして、素晴らしいダブルスとなっている。
さすが真紀さんだなぁ。
と感心したとき、得点は2-9となっていた。もちろん2点しか取れていないのが、僕と里穂。一方的だなぁ。
里穂は肩で息をしている。
先ほどから無駄な動きが多いので、妙に疲れているのが里穂だ。
「高尾、やる気あるの?」
「やる気はあるんだけどね。相手が強すぎる」
里穂のサービス。
ここからラリーの応酬となった。ダブルスはペアが交互で打たねばならない。ので、互いに息のあったプレイが必要なのだ。
「あ、高尾、邪魔っ!」
「えっ!」
里穂がぶつかってきて、僕らは倒れた。手足がこんがらがるようにして。
吐息がかかる近さで里穂が言う。
「こら高尾、ラブコメしている場合じゃないわよ。あ、まって。いまの撤回。ラブコメしましょう。絡み合いましょう」
「いいから離れて」
渋々といった様子で、里穂が離れて立つ。
スコアボードを見ると、2-10。追い込まれているなぁ。
「小夜の賞品がくだらないものだといいけど」
「厄介なモノだと、千沙に渡すのは問題よ」
確かに。弱みの類だと、千沙にだけは渡ってほしくないものだ。
そして小夜ならば、その手の弱みを、賞品にしてきてもおかしくない。負けるわけにはいかないぞ。
里穂がラケットで口元を隠して、ひそひそと言ってきた。
「こうなったら、最後の手段よ高尾。相手を動揺させて、プレイを乱すわ。つまり、精神攻撃をするわよ」
「精神攻撃? 千沙相手に? 何か材料でもあるの?」
千沙限定にしたのは、真紀さん相手には、僕がさせないから。
「陽菜姉に対するコンプレックスをつくのよ」
狙いどころはわかるけど、どうやって攻めたものだろうか。
「水沢くん、里穂、次いくよ」
と卓球台の向こうから千沙が言ってくる。すでに余裕の様子だ。もう勝った気でいるな。
真紀さんのサービス。
里穂が返球するも、バウンドしたボールが浮き上がった。次の千沙に、スマッシュを打ってください、と言っているようなもの。
ここで精神攻撃するのだ。えーと。
「千沙、お姉さんに対して君は、コンプレックスを抱いているな──」
これじゃ直接的すぎて、まったく精神攻撃になってない。
「うるさいなっ!」
千沙のスマッシュは、僕らのコートにワンバウンドもしなかった。ダイレクトに、僕の顔面に命中しのたで。
「痛っ! 里穂、顔面にボールくらったんだけど」
「けど、一点ゲットよ。この調子でいきましょう。次は千沙の恥ずかしいところにある、ほくろについて攻めましょう」
なんだそれ。