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「観光地めぐりをしようかと思っていたのですが、こちらの神社以外とくになにもありませんでした」
と案内役の小夜のやる気がないため、宿に戻ることになった。
その途中でお昼はとったけど、で、これから何をするのか。
結局、千沙の「温泉宿なので卓球しましょう」という提案が通ることになったわけだけど。
ここで小夜が、不可解なことを言いだす。
「でしたら勝者には、わたくしが特別な品をプレゼントいたしましょう」
きょとんとした顔で里穂が言う。
「え? 高尾とのキスじゃなかったの?」
「一日中、発情するのはやめてください渋井さん」
「えっ!」
「プレゼントというのは、何なの?」
と尋ねたのは警戒した様子の千沙。
小夜はその質問を待っていたようで、とある小箱を取り出した。
まてよ。宿に戻ってから、ひとまず解散したが──そのときに部屋から持ってきたものか。すると小夜は、千沙が卓球を持ち出すことも読んでいたのだな。
あの小箱の中には、何か凄くヤバいものが入っているような気がする。何となく、誰かの、またはみんなの弱み的なものが。USBならば、あの小箱サイズでも入るだろうし。
これは負けられない。もしかすると小箱の中は、キットカット一枚かもしれない。しかし、万が一ということはある。
はじめはシングルでのトーナメント戦をやる予定だった。
が、小夜が「ダブルスにされてはどうですか?」と提案したので、そっちに流れる。
「ペアはどうやって決める? くじ引き?」と僕。
「誰とペアになりたいか紙に書いて、相思相愛になったら決まり、では?」
千沙が何か考えがありそうな様子で、そう言う。
メモ用紙とボールペン(人数分を宿から借りた)が配られる。
さて。勝つためには、誰とペアになるのが一番か。
真紀さんと一緒だと、意識して集中できなさそうだ。これがただの遊びならば、真紀さんと一緒になりたいのだけど。
とにかく勝つためには、えーと運動神経でいうと、千沙か里穂の二択では──。
みんなのメモ用紙は、いったん小夜の手に渡された。ちなみに小夜が審判。
「では発表いたしますね。渋井さんが指名したのが、水沢さん。滝崎さんが指名したのも、水沢さん。千沙さんが指名したのが、滝崎さん。そして水沢さんが指名したのが、千沙さん」
ひとつもペアが決まってないんだけど。
勝ちに行くため、千沙を選んだのに。
そんな感じで彼女を見ると、
「ごめんね、水沢くん。けどここは、勝ちにいきたいからね」
確かに真紀さんは運動神経がいいから。
で、そんな真紀さんはといえば、傷ついた様子で僕を見ていた。
「高尾くん……なんで」
真紀さん。それにはいろいろと事情があって。
「なら、私は千沙とにするよ」
真紀さんが心がわりしたため、千沙と真紀さんでペアが決まった。
あまりが、僕と里穂。
里穂が僕の肩をぽんぽん叩く。
「高尾。あたしたちなら、間違いなく勝てるわよ!」
「里穂って、運動神経に自信が? または卓球の経験者とか?」
「どっちもないけど、愛と平和があれば勝てるわ!」
里穂の知能指数がどんどん下がっている!