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お御籤を引く、千沙と里穂。
結果を見ると──里穂はなんともいえぬ表情で、
「あたしは小吉」
確かに小吉って、なんともいえないかも。
対する千沙は、
「私は大凶」
存在したのか大凶って。都市伝説みたいなものかと思っていた。
里穂、なんともいえない表情からの、見事に晴れやかな笑顔。で、ガッツポーズ。
「あたしの勝ちね!」
ところが千沙は、大人が子供を諭すような余裕を見せて、
「違うでしょ。誰がどう見ても、私の勝ち」
「頭がどうかしたの? 小吉の勝ちでしょ」
確かに里穂の言うことはもっともだ。しかし相手は千沙。そこは簡単には敗北を認めない。
「よく考えてみてよ。私たち、お御籤で勝敗を決めるとは言ったけど。その決め方までは、話していなかったよね。つまり『良い運勢』の定義については」
「わざわざ決める必要がないからでしょ。百人に聞いたら、百人があたしの勝ちというわよ。あたしは小吉、そっちは大凶でしょ」
「あのね。真の意味で運勢がいいって、それは希少性じゃないかな?」
「はぁ?」
小首を傾げる里穂。
僕もそんな気持ちだ。
「つまりね、小吉っていちばん高い確率ででるでしょ。対して、私は大凶よ。大凶なんて、滅多に発生しない。というより、存在していたなんてビックリ。ユニコーンみたいなものよ。だから、私の勝ち」
「そんな訳のわからないことが──」
ふいに千沙が僕に近づいてきて、
「隙あり水沢くん」
「え」
なんの隙ありかといえば、僕が見せていた隙でした。ぐっと身体を引っ張られると、隙ありのキス。または接吻。舌が入ってこようとするので、ここはとりあえずガード。唾液交換のレベルを上げさせまい。
千沙が顔を離して、無念そうに言う。
「防御が固いね、水沢くん」
さては舌の件だな。
「……それはどうも」
小夜がうんうんとうなずきながら言う。
「人前でイチャ付いて、バカップルみたいで、素敵ですよ」
真紀さんはというと、呆れてしまったのか先に行ってしまった。
思うに、僕の恋愛というのは、どこまでも後退しているような気がする。
ちなみに里穂は、『くっ、その手があったわね。隙ありという手が』という、変な悔しがりかたをしていた。
あと、ありがたいご神木のこととか、みんな忘れているよね。罰当たりな。