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 モール内を歩いていると英樹から電話があった。隣を歩いている真紀さんに断ってから、スマホを耳に当てた。


「もしもし。英樹、他にやることないの?」


『開口一番、それがダチに言う言葉か。んなことより、デートは順調か?』


 それはつまり、上位カーストに喧嘩を売ることになったデートのことか?


「まぁ映画は楽しかったから、いいんじゃないかな」


『……いや、映画の内容とか一番どーでもいいだろ。まぁいいや。お前、これから滝崎さんと昼飯を食いにいくんだろ。オレにはお見通しだぜ。なぜなら、お前のダチだからな!』


 ダチだからというより、昼時だからだろ。

 厳密には昼時は少し過ぎてる。店内も混雑のピークは過ぎているだろうし、丁度いい。


「そう昼飯に行くから、もう切るよ」


『待てって高尾、お前デート初心者の自覚あんのか? いいから、デート大先輩のオレにちょっと相談してみろ。相談料はジュース一本でいいぜ』


「じゃ切るよ」


『まてまて! 分かった、無料相談にしてやろうじゃねぇか。で昼食はどこで取るか決めたのか?』


 決めてはいなかったので、一考した。


「僕としては、ラーメンが食べたい気分だ」


『はぁ? 初デートでラーメンだぁ? お前、それはねぇだろ、ちょっと幼稚園からやり直せ』


 親友だが殴りたくなってきた。


「なら、どこがいいんだ?」


『それは自分で考えなきゃダメだろ、高尾』


「……」


『おい高尾、聞いてんのか? どこにしたんだ? この大先輩に言ってみ?』


 無言で通話を切る。ふと視線を感じると、真紀さんが興味深そうに眺めていた。


「誰だったの?」


「3秒前まで親友だった奴。そんなことより真紀さん、昼食はラーメンでどう?」


 試しに言ってみた。


 真紀さんは「ラーメン?」と繰り返してから、笑顔でうなずいた。


「うんっ、いいよ」


 英樹も当てにならないな。




 ▽▽▽



 昼食を終えた僕たちはモールを出た。


「このあと、どうしようっか?」


 と真紀さんに問われ、僕が出した答えが「散歩するとか?」である。これは英樹にダメ出しされても仕方なさそうな回答。


 ただ真紀さんは、嫌な顔ひとつせず頷いてくれた。最上位美少女からOKが出たということは、意外と散歩っていい選択だったんじゃないか? 

 デートで散歩、バカにならない。こんど英樹にも教えてやろう。


 モールの近くには、静かな公園があった。偶然見つけたわけだが、これも散歩の効用だ。

 自然の流れで、そこのベンチに腰掛ける。


 ベンチは幅広いのに、なぜが僕と真紀さんはくっ付くようにして座った。身体の片側で密着している状態。嫌な気はしない。

 というか心地いい。真紀さんからは甘い香りがした。

 

 だが一応、言っておこう。


「真紀さん、もっと向こうに座っても平気だよ。他にこのベンチに座りたそうな人もいないし」


「……高尾くん。わざわざ言わなくていいこともあるんだよ」


「了解」


 しばらくして、真紀さんが真面目な口調で言った。


「高尾くん、ごめんね。厄介ごとに巻き込んだりして」


 長本たちの件か。


「ぜんぜん。真紀さんのせいじゃないし」


「今回は千沙のことは、私に任せてね。二度とあんなことはさせないから」


「二度と?」


「ああ、そうか。まだこの事は話してなかったね。実は、高尾くんがハブられるようになったのには、ちゃんと理由があるんだよ。私もつい先日まで知らなかったことなんだけど……始まりは、千沙が命令したことだったらしいの」


「本庄が? 確かに彼女が望めば簡単だったろうけど。本庄に恨まれるようなことしたかなぁ?」


 というか、1年から一度も喋ったことさえないんだが。

 ちなみに、うちの高校ではクラス替えはない。


「問題は千沙じゃなくて、里穂みたい。これで高尾くんも、理解したと思うけど」


 渋井しぶい里穂りほか。懐かしい名前だ。

 懐かしいといっても、学校では教室で顔を見ている。だが会話はもう1年近くしていない。


 確かに入学したばかりの頃、僕はよく里穂と話していた。仲が良かったといえるのかもしれない。


 そういえば、その頃は里穂以外にも会話する同級生がいた。いま思うと、あの頃の僕は2軍にいたように思う。

 

 だが里穂が僕を避けるようになったので、僕も空気を読んで声をかけることはなくなった。

 思うに、里穂は僕が3軍落ちしたので、無視することにしたのだろう。

 まぁ里穂を責めることはできない。


 そんな里穂は、本庄とは幼馴染だ。だから里穂は文科系の部活に入っているのに、いまは1軍に属している。持つべき者は友。スクールカーストにも人脈は有効だ。

 しかし──


「ごめん。ここで里穂がどう関わってくるのか、さっぱりなんだけど」


「えっと……高尾くんに悪気がなかったのは、私も理解しているよ。ただ、里穂も本気だったみたいだし。それで深く傷ついてしまって──それを見た千沙が高尾くんに怒ったみたい。逆恨みだよね、そんなの。とにかく、私が聞き出したこれが事の真相」


「……」


 僕は体勢を変えて、横にいる真紀さんを見た。

 真紀さんもこちらを向く。


「僕が里穂を傷つけた、というのがよく分からない。少なくとも去年の1学期のころは、里穂とは友好的だったはずだけど」


 真紀さんは怪訝な顔をした。


「……高尾くん。だって里穂が告白したのに、高尾くんはフッたんだよね?」


「……」


 僕が里穂に告られた?


 そして僕が里穂をフッた?


 やばい。

 まったく記憶にない。


 僕の表情から察したらしく、真紀さんは軽く顔を青ざめた。


「もしかして、告白されてないの?」


「されてない──たぶん」


「……たぶん?」


「……たぶん」


 真紀さんはなぜか励ますように言った。


「高尾くん。鈍感系を極めると、ただのダメ男だからね。里穂のことは仕方ないけど、次からは気をつけようね」


 え、僕が悪いのか、これ?






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― 新着の感想 ―
[一言] 悲報「ラーメン屋、根に持たれる」 何気にモテキャラの主人公ですね。どんなKY発言が飛び出すのか楽しみにしています(笑)
[良い点] 面白かったです(≧∇≦)b
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