序章 王の帰還 / ラック・ライラック その1
「大昔も大昔、この世界の天と地とが未だ別たれていた時代。この世界には十王って連中がいたらしい」
真っ赤に塗られた飛空艇、ライゼンデの操縦席に座る獣人の女は独り言ちるようにつぶやいた。
「天地の全てを統べ、人ならざる力で以て威光を示し、異界よりの侵略者と懸命に戦いこの地を守った……」
まあ、守りきれてはいないんだがな、そう彼女は笑う。伝説に残る異界よりの侵略者、その子孫たちが彼女たちだからだ。彼女の種……バロウズと呼ばれる獣人種を始めとして、この世界には数多の外来生物が満ちている。十王とかいう連中がどれだけ凄かったのかは知らないが、自分たちが栄えているという事そのものがその先人の努力が無為に終わったことを示しているのだ。獣人の女―――ラック・ライラックはクカカと笑う。普通の連中なら、こんな伝説はただの御伽噺だと一蹴して終わりだろうが、流しのハンターを営む彼女にとって十王の伝説は紛れもない事実であり、同時に彼女の商売における大事な飯のタネでもあった。
「俺達みたいな連中にとっちゃ過去の遺跡に遺物は宝の山だからな。特に十王のいた時代―――一万二千年前の遺物はバカにならないくらい便利な代物がごろごろしてるからな」
「……急にその話をしだしたという事は、今回の遺跡は十王絡み?」
黙って話を聞いていた機械族の少女、マギア・レイスはラックに問いかけた。
「十王絡みのネタはガセが多い。無駄足は勘弁……」
「ハンッ、そう言うなマギア。今回のは堅いぜ。念入りに調べに調べたからな。間違いない。しかもかなりデカいヤマだ」
自信ありげにそう言い切るラックの姿に、マギアは目に見えて落胆して見せた。
「ラックが自信満々な時は大抵碌なことにならない……今回も無駄足確定」
「なあお前船長に対して失礼じゃないか……?」
マギアの態度に怪訝そうに眉をひそめながらも、ラックはふふんとそれを笑い飛ばす。それだけ今回の情報には自信があるのだ。マギアも彼女のその自信に興味をひかれたのか、モニターから顔をあげて彼女の方を見やる。
「随分自信がある。一体何を見つけたの?」
その質問を待ってましたと言わんばかりにラックは大仰に答えた。
「聞いて驚くなよ……十王の中で最初に犠牲になった第四席、知の魔王と評される十王の参謀格……魔王シキの墓所だ」