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おやすみなさい
空を、見るんだ。いやなことがあった時はね。空を見るんだ。空はあんなに透き通っていてさ、僕の悩みも何もかもも吸い込まれていくみたいで…」
いつの頃だったろう。彼がそう言っていたのは。急速に遠くなる意識の中で彼が不意に思ったのはそんなことだった。体が熱い。見るのが怖くて見ていないけれど、きっと今自分の体は大変なことになっているのだろうと少年は理解した。いつもへらへら笑ってとぼけているような仲間まで、泣きそうな顔でこちらをのぞき込んでいる。少年は、そんな中にあっても不思議と冷静だった。死の恐怖を和らげようと、彼の脳が全力でアドレナリンを放出しているからだろうか。次第に前後不覚に陥り、自分が今何を見ているのかさえ分からなくなる中、少年はうわ言のように口を開く。
「泣か、ないで……笑っ、て」
彼が最後に口にしたそれは、あの日立ち上がった彼ら十人の、小さな小さな願いを孕んでいて―――
その日、世界を統べる十人の魔王「十王」の一角、第四席知の魔王シキの崩御が全世界に報じられた。