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Wing  作者: 光輝
■2部
5/19

2:DNAウィルス

ターミナルにも似た中枢センターのさらに奥。

正面階段を上がった一角に、総理執務室はあった。


挿絵(By みてみん)


会長は静かに書類に目を通し、苛立ちにデスクにこつこつと指先を打つ。

「……ARの将軍ロイドが、面会要請を?」

会長が眉根を寄せるは、マラーク関連の書類だ。


宇宙生物学者であるア―ロンは大きく頷いた。

「はい。おそらくマラークの引き渡し要求の直訴かと。どうしましょう……」


会長はフンと鼻でいって、書類をデスクに滑らせる。

「スケジュールに空きはないと返しておけ。13血流の総意だ、マラークは内々で処理するとな」


それにアーロンは困惑に手をもじつかせた。不服の様子に会長が軽く睨みつける。

鋭い眼光にびくと身を縮こませたアーロンは、そそと逃げるように退散したのだった。



執務室にひとり、会長が長く重い溜息をついた。

手付かずのアイスティーの水滴がグラスを伝って、テーブルを濡らしている。


呼び出しを受けたジャッドは、静かにホットコーヒーに淹れかえた。

「……ARは独裁軍事国家みたいなもんだ、うかつに面会すれば情勢にかかわる。お疲れさん」


会長はコーヒーを一口、当然に頷いた。

「……ARの将軍ロイドも、昔はあんな奴じゃなかった。ガキの頃、みんなで一緒にサッカーしたのにな。家族みたいなものだった。同じ1つの組織だったのに……枝分かれに孤立して、ばらばらになって、今じゃ俺とお前だけだ」

会長は椅子に背をまかせ、天井にため息を投げる。


会長にとって、先代である父はクソ野郎であり、偉大な男だった。

その功績と威厳を切に感じたのは、会長の座を継承してからだ。

そしてなぜ父が妹マリアと子を成せと言ってたかも理解した。現状も、父なら万事こともなく終決させるであろうとさえ思った。

この若さゆえの青さを、13血流の老人どももロイドもお見通しなのだ。だからこそ、会長は引けずにいる。


心中察したジャッドはそっと、会長の肩に手をやった。

「今日のスケジュールは俺がまわしておくから、ちょっとは休め」


会長は物憂げに頷き、ちらとジャッドを見た。

「……お前さ、俺に言ってない事があるよな?」


それにジャッドが目を丸くした。ちょっと考え、やや眉根を寄せて会長を見る。

「まさか俺がスパイだとか思ってるんじゃないだろうな?」と。


会長は少し笑って、まるで男子中学生のように、活きにジャッドを肘でつつく。

「グレアに恋わずらい、だろ? 顔合わせの時にすぐわかったよ。水臭いな、俺に言えばよかったのに」


「そんなんじゃ……」虚勢を張ろうとして、開き直ったジャッドがばつが悪そうにうなだれる。

「気持ちの問題は言ってどうにかなるわけじゃないだろ」と。そうとも、どうにかなるならしている話なのだ。


「好きなら告白しちまえ、この先ずっと後悔する気か?」

会長のその言葉にジャッドがふと顔を上げる。


子どもの頃からずっと一緒にいる親友が、穏やかにジャッドに笑む。

「……俺とヘレナが出逢った時、お前が俺に言った台詞だよ。ジャッドがいなけりゃ、ヘレナもエレナもいない。

だから俺はお前の恋愛感情が悪いとは微塵も思わないし、恋愛こそ自由であるべきだと思ってる」

言って、ふと窓の外に視線を投げる。2人の目に広大なイルミナが映っていた。


「どのみち後悔はつきものだろうが……どうせ転ぶなら腹をくくらなきゃな、俺もお前も」

会長のつぶやきに、ジャッドは静かに頷いたのだった。


……・……


『ウィングはゼロを治した! テストは合格っスよ! これから北条博士の研究室までいこう』


指を鳴らしたゼロが、ご機嫌に先を行く。

先ほどまでの根暗に極みはかけらもなく、まるでミュージカル役者のように軽やかな足取りだ。


打って変わって、トンネルのように変わり映えのない廊下にウィングはしばし退屈を覚えた。

それはまるで同じ所を延々と歩かされているような気分だった。

先を行くゼロの陽気な足取りがなければ、まるで墓地に向かうような気分だったに違いない。


変わりばえといえば、時折顔を見せる小さな小窓くらいだ。

その度ウィングは、小窓にはりついては様々な世界を堪能し、気を紛らわせた。

ある小窓では、大きな実験台の上で真っ白な髪の女の子が、恨めしげにデータ採取をされていた。

またある小窓では、金の筋が入った四角いガラスが沢山の計器に繋がれていた。まるでグレアと観たSF映画のようだった。


〔すごいね!〕

ウィングはそう口パクし、手振りでゼロに伝える。

ゼロは目をしばたたき、スナック菓子のように軽く応えた。

『イルミナ生命工学研究所は、こういった人類の未来を担う生態技術の本丸なんスよ。特に珍しい光景じゃないね』


ゼロは久しぶりに話し相手ができたのが嬉しいのか、まるで客引きのように饒舌に続ける。

『そうだ! 手話を教えてあげる。手話は地域的、文化的な違いはあるけどすごく便利なんス。

ゼロは介護や健康管理を目的として作られたから全部知ってるんスよ。ウィングに教えてあげる』



そうするうちに、やがて研究室前に到着した。

ガラス張りの渡り廊下が広がり、ガラス1枚隔てた向こうで木々たちが穏やかに揺れ、遠くで研究施設たちが空と馴染んでいる。


次の大きな入り口では、入る前にエアーがかかり、変な光が消毒のように体中を照らした。


そうしてゼロ達が銀の大きな扉を開けると、今度はうんと広い研究室が目に飛び込んだ。

ガラスパーティションで隔てられた、ディスプレイのように見える研究室群はほぼ白一色だ。

大きな研究機器があちこちに設置されていて、その光景は圧巻の一言に尽きる。


高そうな研究機材を横目、ゼロが声をご機嫌なあげた。

『つれっしゃーす! 北条博士、ゼロがウィングを連れてきたよ!』


返事はなかった。うろつく研究員たちがちらとゼロを見た。見ただけだった。

気をもんだゼロがウィングの手をひき、棚の向こうをのぞき込む。

奥のスペースでは、PC画面にかじりつく女性がひとり。キーボードを右手で叩きつつ、左手は研究機器の計測器をいじっている。

その背は真剣そのもので、とても声をかける雰囲気ではなかった。


ゼロが軽くウィングにふる。

『彼女が〔北条栞〕さん。オラムの偉い人で、マラークの生態研究第一人者っスよ。彼女なくして今日のイルミナはないんス』


やがてきりのいいところか、北条博士の椅子がくるりと回り、ウィングを見た。


皺の入った白衣にスッピン、後ろにまとめた黒髪のせいで、北条栞は暗くて野暮ったい印象だ。

だけどクールに整った顔つきが花を添える。モノクル(片眼鏡)がガラスのように光り、薄い桜色の唇がつぶさに動いた。

「ゼロを直すとはね」

北条栞博士はそう言って、舐めるようにウィングを見る。

「ウィング。ゼロは健康測定器としてグレイシアに作られた、自立歩行型コナトゥス生体ロボット。

半導体プロセスには化学的な阻害物質である人体と機械を組み合わせている、いわば人類初の生体ロボット。

清廉な生体モデムだったが、長年調整されていないせいで自己保持プログラムが起動し陰湿根暗な人格モジュールを形成していた。

そんな状況でも、オーバーラップによるシステムエラーは発生しなかったのはグレイシアの才といえる」


言いもって、ゼロの肩に手をやる。

「ご覧の通り、グレイシアが構築したゼロのモーターバブリング構築のシステム速度は群を抜く。

故にゼロは新しいプログラムを必要とせず様々な環境に適応し、量産型他号機も機体により習慣や個性ができた。

それをキミは直した。文句なしの合格」


その説明に、ウィングは目を白黒させた。何を言われたのかわからなかったが、とりあえず素直に頷き返す。

北条博士は近くにいた研究員に軽く指示をふって、やおら立ち上がった。

「新人ウィング。キミはイルミナの理念を知ってる?」と言いながら。


ウィングは首を横に振った。北条博士は百も承知に続ける。

「イルミナの理念は〔人類存続〕。いつか訪れる終末を越えるため、宗教や人種の枠組みを越えた人類英知の要塞……」

呟くように言いもって、ついてこいと顎でしゃくった。

「ウィング。キミの次の任務は、地球に飛来した地球外生命体マラークとのアクセス」


ゼロとウィングはその背に続いた。

北条博士が変なヒトだと思うまで5分もなかった。

ミステリアスの枠組みを飛び越え、空にぶつぶつ独り言つ姿は薬物中毒者のようだったからだ。


『気にしないで、北条博士はああいう人っスから』とゼロは軽く言う。

行き交う研究員たちも慣れた様子だった。むしろ北条博士に敬意を示し、通り過ぎてもあがめ仰ぐ者もいたほどだ。


ウィングはちょっと首をかしげたものの、大人しくその背についていったのだった。



……・……


一方その頃。


グレアはかつて所属していた、生体医工学課に到着した。

歩道に沿った屋根付きをくぐり、なつかしいエントランスに深呼吸ひとつ。


首から下げた研究証を誇らしく、かつての部署に向かった。


大きな扉を開けてすぐ広がるは、格納庫のような作業場だ。そこに1機の飛行盤が静かに根を下ろしている。

懐かしい匂いに深呼吸一つ、まるで糊付けされたシーツのような気持ち新たに1歩踏み出す。

そして、中央に鎮座する飛行盤を見上げた。

(これがマラークの搭乗していた飛行盤……)


マラークの飛行盤はいかにもな円盤型で、真珠というよりは細雪のような淡い白さがあった。

一部分解された箇所が、エメラルド色の光を放っている。


馴染みの同僚と作業の算段を組もうも、検査は難航しているようだった。

「有機混合型はややこしいわ。起動部がプリズム直線偏光を受動することまではわかったんやけど、グレアならどうする?」

グレアはふむと顎に手をやった。計測データは未知の数字を吐き出し続けている。

「そうね……でも屈折率に法則性があるみたい。媒質のX線回折結果を……」


それとなくスキップフロアを見上げると、研究長とジャッドが対談をしていた。その手には調査結果の束が抱えられている。

ふとジャッドと視線が合って、グレアは思わず視線を逃がした。


見分を終え、自分のデスクについてすぐのことだった。

「グレイシア」

ジャッドの声に同僚たちの視線が動く。その先、グレアが気まずげに振り返った。


「少しいいか」

ジャッドの表情からは、感情を読み謀ることはできない。

グレアが気まずげに背を追い、同僚たちの草が擦れるような囁き声がそれを見送った。



会長室で会って以降、初めての2人きりだった。

人目のないフロアの一角で、ソファに隣り合う。それは恋人とも友人ともいえない距離間だった。

作業場の音が夢のように遠い。グレアはふとした眩暈に無意識に深呼吸一つ。

「あの、何の用……」

言い終える前に、グレアの耳が思わず熱くなる。ジャッドが指の背で、グレアの頬をなぞったからだ。


「やっぱり顔色が悪い。グレア、毎日ちゃんと寝てるか?」

ここ最近ふいに眩暈や睡魔に座り込むことが多かったグレアは、取り出したコンパクトをみて思わず口元をおさえる。

今朝は何ともなかったのに、確かに白い顔だった。

「教えてくれてありがとう。最近いくら寝ても寝足りなくって……自己管理ができてなかったわ」


「今日はゆっくり休んでいろ。俺から話を通しておくから」

そう言うジャッドからふと差し出されたのは、温かい紅茶だった。

ありがとうと受け取ったグレアだが、どうも飲む気になれなかった。大好きな紅茶だが、今日はなんだかすごく臭く感じたのだ。

そして気付いた。隣のジャッドの肌のにおい、髪のにおい、座るソファのにおいさえも、過敏に鼻につくことに。


(あ、だめだ、また眠い……)

眉間を揉んでも手をつねってもだめだった。

ふと気づけば、いつの間にか様子を見に来た同僚たちとジャッドが話し合っている。

グレアの様子について、これからの仕事について……それ以上は聞こえていてもわからなかった。


ジャッドたちを横目、まるで睡眠薬でも打たれたかのような抗いがたい睡魔に、グレアは意識を手放したのだった。



ふと抱きかかえられるような感覚に、グレアは浮かび上がるように目を覚ました。


同時に見上げ、自分を抱えるジャッドに思わず声をあげる。

「えっどうして……!」


ジャッドはそっと、グレアをベッドに寝かせた。そこが医務室だと知ったグレアは、自分がすっかり寝落ちしていた事に驚いた。

ドアで心配そうに見守る同僚が、ジャッドの目くばせにそっと退散する。


「貧血だろう、じきに医療班が来る」


そのジャッドの声に、グレアは寝耳に水に頷いた。

「ごっ、ごめんなさい、私……復帰初日でみんなに迷惑を……!」


ジャッドはなだめるように、グレアの背をさすった。

「迷惑なんてない、皆心配していたぞ。現場復帰に逸る気持ちもわかるが、慌てずゆっくりな」

ジャッドの穏やかな瞳に、グレアはなんともいえない気まずさまま俯くしかできなかった。


グレアは、ジャッドがウィングとの仲にどう感じているかを想像すると怖かった。

交際を明言しない曖昧な関係とはいえ、やることはやっていたからだ。不貞行為をしたかのような気まずい罪悪感が沈黙を作る。


「……グレア。君を長年知っている身として、相手が計測試料とは不安がある。力になれることがあるなら、いつでも言ってくれ」

その声に、グレアは顔を上げることができなかった。

まただ、と思った。心が暗く軋み、沈んでいくのだ。こんな時でもジャッドはジャッドなのだと、心の奥底で何か黒いものが噴き出る。

緩急のないその優しさで、今までどれだけの女性をその気にさせてきたのだろう?

執着の1つでも見せてくれたなら、こんな気持ちにはならなかったはずなのだ。この優しい束縛が意図的ならば、これほどの悪意はないだろうと。


なめらかな香木色の髪に遮られ、グレアの顔色はうかがえない。

ジャッドは目を伏せた。

モスマン担当になってから、グレアは目まぐるしいほど変わっていく。

隣にいれるだけでよかったのに、掴もうとすればまるで蝶のように逃げるようになった。

それでも両手を広げて待つしかできなかった。バツイチという負い目もあったし、幼いミリアムだっているのいるのだから。だからこそ、束縛なんてとてもできなかった。


ジャッドは医療班が来るまで、グレアに静かに寄り添っていた。

可憐な肩を抱き寄せればきっと、困らせるだろうなと思いながら。


……・……


北条博士の白衣が風に翻る。

歩きもって北条博士が突き出した調査書には、なんてことない男児の写真が数枚貼ってあった。

およそ2~3歳ほどだろうか、隅には【マラーク】と記載されている。


北条博士が肩越しにウィングを見た。

「それは先日、敷地内に墜落した地球外生命体マラークのデータ。飛来したマラークのゲノムは特異。

従来の生体高分子とは大きく異なり、ヒトのそれとは程遠い。基本原理自体が異なり、ゲノム自体が一種の基盤的構造に近い。

今、マラークのクローンを造っているところ。分化構造が特殊だから難儀してる」


北条博士は一呼吸おいて、順を追ってきびきびと言い表した。

「私は生物人類学者でも構造生物学者でもないから、ざっくりと話す。

マラークが墜落した日、……マラークのゲノム情報が、電波のような形で世界中のコンピュータに飛散した。

今この瞬間もなお、ネットを介しあらゆる媒体から鼠算式に増殖し続けている」


挿絵(By みてみん)


ウィングは想像してフゥンと頷いたが、隣のゼロはうげっと声をあげた。

北条博士は2人に構わず独り言のように続ける。

「その中の自己免疫転移因子のような存在がやっかい。悪性異物となる存在から生体防御し、破壊する補体的存在。

この免疫系を【DNAウィルス】と呼ぼうか。マラークが生きている今はまだ、【DNAウィルス】は眠った状態にある。


世界中のネットワークを介し、人類機関にまで【DNAウィルス】が浸透した今、ネットワークシステム自体が【DNAウィルス】そのものとなった。

免疫系である【DNAウィルス】にとって、〔宇宙の歪み〕によって誕生した地球の生命体は、悪性異物に他ならない。


マラークが死ねばその【DNAウィルス】が発動し、〔全生命体の殲滅〕を行う。

【DNAウィルス】を消去するには、軍事・個人問わず世界中のコンピュータを一斉に破壊するしか方法はない。土台無理な話」


適当に頷くウィングを押しのけ、ゼロがウィングの手の調査書をひったくる。舐めるように目を走らせ、驚愕に顔を上げた。

『〔生命体の殲滅〕システムをもつ【DNAウィルス】が人類機関にまで食い込んでいて、

それを消去するには、世界中のコンピュータを一斉に破壊するしか方法はない……?』


それにウィングは映画のパンフレットを共有するかのように、ゼロに顔を寄せた。

ゼロはちらとウィングを見る。そして厄介ごとに文句をつけるようにウィングに眉をひそめた。

『人類機関ってのは、ウェブの最下層のことっスよ。【DNAウィルス】が人類機関まで完全網羅したってことは、

【DNAウィルス】は今や世界中の核のボタンすら押せるし、全ての原子炉を一斉ダウンもできるってこと。

マラークが死ねば【DNAウィルス】が発動する現状は……ぶっちゃけ詰んでるし地球終了目前っスよ!』


北条博士は調子を崩さず、軽く頷いた。

「バイオコアであるマラークは、死ぬとリガンド(再生シグナル)を伝達し、ネットに飛散した別の【DNAウィルス】を呼び起こす。

呼び起こされた【DNAウィルス】は〔生命体の殲滅〕を執行する……

つまり現在、全コンピュータが【DNAウィルス】のキャリアになった、だけ。


【DNAウィルス】は単体のみではただの自己免疫転移因子配列。

リガンド(再生シグナル)がレセプター(受容体)に作用するのは、あくまでマラークの死のシグナルを受けてから。

墜落時に飛散した【DNAウィルス】が、人類のショボい技術中に適応するため幾分か端折られ、感染経路に限りができたのは不幸中の幸い」


ゼロはまるで生命保険の仕組みを訊ねる老人のように、困惑に追い訊ねる。

『でもでも、マラークが死んだらDNAウィルスによって人類終了なんでしょ?』と。


北条博士は全く動じることなく返した。

「だからマラークのクローンを造ってる。マラークが死んでも、マラークのクローンさえあれば再生シグナルは相殺される。

マラークのクローンを量産している限り【DNAウィルス】は発動しない。

時間はかかるがいずれ、【DNAウィルス】はデータの海に自然飛散していく」


それにゼロが、気抜けに肩の力を落とした。

『ああ驚いた、てっきり人類消滅必須かと! 対策ではなく事後処理段階なんだね。北条博士もヒトが悪い』


北条博士は事ともせず、静かに付け加えた。

「20万年前、もっと重篤な事態があった。当時を思えば稚拙な現代科学でも十分に可能性はある。

それに一点突破じゃない。可能性があれば対策手段もある。現状は収まっているけど、今後の変異展開は未知数。

科学技術の進歩で【DNAウィルス】が変化する可能性もあるから、悠長はできないよ。

上は早急な対策を望んでいる、善処するため私たちがいる」


20万年前という単語に、ゼロとウィングが見合った。見合って、北条博士を見る。

北条博士の細く冷たい手が差し出され、ウィングが握手を返し、それにゼロの手が重なった。

「これは極秘任務。私たちのチーム名は〔(アイオーン)〕。同じ研究チームとして、これからよろしく」


合いの手を打つように、エレベータが9階で停止した。

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