族長の娘と仲間達
「ほらドーワフ、ご飯だよ」
作業小屋で水車の部品を作っていると、オーガの族長の娘ウィズが食事を持ってきてくれた。
「ありがとう。もうそんな時間なんだね」
「ん~、実はお昼は大分過ぎてるかな」
「え?そうなのか」
作業に集中していたせいか時間がたつのがすごく早い。
いや、むしろアストリッド達の心配を誤魔化す為に作業に没頭していた。
「アンタたちも食べるでしょ?」
「食べるに決まってるだろ」
「お茶も頼むぞ」
作業を手伝ってくれていたオーガのタップルとペアーズが作業を止めてウィズの持ってきた食事の品定めをする。
「おむすびか……」
「昆布はどれだ?」
二人はそれぞれおむすびを一つとると腰掛けて食べ始める。
「ほらアンタも」
「じゃぁいただきます」
手近な一つを取って二つに割ると中にはいい香りのする鮭が入っていた。
それを一口食べると鮭のしょっぱさが丁度よくご飯がとても美味しい。
「にしてもウィズは不器用だよな。まんまるじゃねぇか」
「俺は三角がよかった」
「うっさいバーカ」
おむすびに文句をつける二人にウィズが舌を出してべーっとやった。
「でも、おむすびだから丸くていいじゃない。僕はとっても美味しいよ」
「ほらドワーフを見習いなさいって」
「いや、三角おむぎりの方がいいじゃん?いてっ」
文句を言うタップルにウィズが拳骨をお見舞いする。
「三角だとおむすびじゃなくておにぎりっていうんだよ」
「え?同じじゃないのか?」
「ヒロさんがそう言ってたんだ。三角は神様ようだから下々はおむすびを食べろって」
「なんだよそれ」
タップルと話しているうちにウィズが全員分のお茶を入れて出してくれた。
「で、水車は出来そうなの?」
「うん。水車の仕組み自体は元々見当がついてたから簡単だよ」
「え?じゃぁ私たちと水車村に行ったのは無意味だったわけ?」
「そんなことないよ。ちゃんと確認できたから作れるわけだし」
「別の用事があったんだな」
誤魔化そうと思ったが、ペアーズは気付いてしまったようで二人もマジかといった顔でこちらを見てくる。
「なに?私たちを騙してたわけ?」
「そ、そんなことないよ」
ドワーフは素直であるべきと教わったからこういう時は凄く困る。
おでこを中心に凄い量の汗が流れる。
「でも、君たちも嘘をついていたじゃないか。オーガの代表みたいに振舞ってたし」
「あ、アレねぇ……」
「お互い様だな」
ペアーズがお茶をすすりながら、あきらめろとウィズに顔で合図した。
「ところでウィズさんは族長の娘なんでしょ?なんでみんな仲がいいの?他の人たちはウィズ様って呼んでたし。それに族長さんは褐色の肌だったけどウィズさんは黄鬼っぽいよね」
「母さんが黄鬼なのよ。あと、こいつらは私の事を特別扱いしないの。だからいつも一緒にいるのよ」
「そうなんだ」
「リロイはなんで人間と一緒にいるんだ?」
既に食べ終わったらしく、タップルがこちらに体を向けて話を訊かせろよといった顔をする。
仕方がないのでアストリッドの事、妖精王の事、エンシェントドラゴンの事を話す。
ウィズは黙って聞き、タップルとペアーズは初めは疑っていたが、後半は興奮したようで鼻息を荒くして話を聞いた。
「なぁ、ウィズも頼めば助けてくれるんじゃないか?」
「え?」
「ほら、兄上の事をさ」
「いや、兄さまの事は・・・」
何やら気まずい事なのかタップルに言われてウィズが悲しそうな顔をする。
「兄さま?」
「あぁ、俺達の兄貴分だよ。今は西に稼ぎに行っているんだ」
「そうなんだ。でも、その人に何かあったの?」
「ばか、察しろよ」
タップルに肩を小突かれるとペアーズが面白そうに「くくっ」と笑う。
「ウィズは本当は兄上を追って西に行きたいんだよ」
「そうなの?」
ウィズは顔を真っ赤にして答えない。
そうか。そうなんだ。
その後、なぜそうできないか訊くとウィズは家を継がないといけないので村から出ることが難しい。
逆にその兄貴分のオーガと一緒になることはできないかと訊くと彼は家柄がよくないからダメということだ。
オーガ達は同じ村の中でも階級があるようで、どんなに腕の立つものでも家の階級が悪いとなかなか評価されない。
ウィズはそれを分かっていて気持ちを伝えていないし、だからこそ婚約者をきめられるのが耐えられないようだ。
ヒロならこの話を聞いたらなんていうだろうか。
昨日は選べるだけ幸せって言っていたけど、今の話を聞いたらきっと助けたいと思うはずだ。
戻ってきたら相談してみるのもいいかもしれない。
カンカンカンカンと突然鐘のようなものを叩く音が聞こえる。
「この音は?」
「何かあったみたい」
ウィズが合図するとタップルとペアーズが鎧を着て武器を装備する。
「リロイ、あんたも装備を着ろ」
「え?なんで?」
「あれは敵襲の時にならす鐘だ」
装備を整え小屋から出るとウィズの家、お屋敷の方から火の手が上がっている。
「どうするの?」
「勿論屋敷に向かうだろ」
「でも、何と戦っているか分からないし」
「だから俺たちが行くんだろ。期待しているぜリロイ」
初めにタップル、それに続きペアーズ、ウィズの順に背中を叩かれる。
いったい屋敷で何が起きているんだろう。
屋敷に近付くにつれ異常な光景が目に入る。
オーガ同士が殺し合いを行っているのだ。
ウィズが言うには階級が低いものが反乱を起こしているわけではない。
むしろ仲が良かった者同士でも戦っているというのだ。
「危ない!」
一人のオーガがウィズに切りかかって来たので、間に入り盾で防ぐ。
そのタイミングに合わせてペアーズが刀鞘で殴り気絶させる。
「僕が前に出る。サルと戦った時と同じ方法で」
「わかってる。私が案内するから父さんの所へ向かって」
そこからウィズの案内で屋敷の中に入り、4人で力を合わせて進んでいく。
ペアーズの予想では集団で精神が狂い人斬りになっているようで、極力気絶させるだけで殺さず進んでいく。
中庭に出て、一番火の勢いが強い場所を見ると誰かがそこに立っている。
その周りには幾人ものオーガの死体が転がっていた。
「父さん!」
ウィズが声をかけると一人のオーガがゆっくりと刀を抜いたまま中庭に出てくる。
褐色の肌に一本角のオーガ。
鎧は来ておらず、着物は動き回っていたせいかかなり乱れ、返り血をかなり浴びている。
「父さん無事でよかった」
「ちょっと待って」
ウィズが近付こうとしたのでそれを止める。
ウィズのお父さんのはずなのに何か様子が変だ。
「みんな警戒して。様子がおかしい」
そう警告をした時にはリロイに切り込まれており、ギリギリ盾で防いだがすぐさま盾に足蹴りをされてバランスを崩された。




