合流 水車村へ
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
気が付くと辺りは変わらず霧で見えないが明るくなってきている。
目を擦り体を起こすと既にアストリッドは起きていたみたいで「おはよう」と声をかけてくれた。
「おはよう。カラスさんは?」
「私が起きた後、辺りを確認してくるって言って見に行ったわ」
「そっか。いつ戻ってくるんだろ」
「ここにおります」
『きゃっ』
いつの間にか背後にいたカラスに驚いて二人で声を上げる。
「え?いつからいたの?」
「呼ばれましたので」
「呼ばれたら急に現れるの?」
「ヒロ様よりセラ様を任せられております」
なにかちょっと求めていた答えと違うが仕方がない。
昨日の夜も話したけどカラスは口数が少ない。
それに話したくない内容は上手くはぐらかすので今のも聞かれたくない事なのかも。
「それでこれからどうするんですか?」
「寄りたい場所があります」
「寄りたい場所?」
「川に流された時に刀を失いましたので」
「え?じゃぁ丸腰だったって事!?」
「いえ、少ないですが忍具がございます」
「忍具?」
質問攻めにしてしまったせいかカラスは背を向けて歩き始めてしまった。
ついて来いと言う事だろう。
「いこうセラちゃん」
「うん」
そこからカラスを先頭に茂みをかき分け進んでいくと一軒の小屋がたっていた。
どの位の間放置されていたのだろうか。
家はボロボロで、恐らく手入れされていただろう庭も草がボーボーになっている。
中に入ると一段高くなっている場所があって畳が敷かれており、カラスはそのうちの一つをひっくり返すとなにやら床下をゴソゴソとあさっている。
何が入っているのか気になって近付くとカラスは刀を一本取り出した。
刀を鞘から抜くと、刃は手入れされていたかのように汚れひとつない。
黒い刃のその刀はしっとりと水気を帯びたようで、その刀身から何か静けさのような冷たさを感じる。
「その刀は?」
「父の刀にございます」
「お父さんの……」
カラスは刀を鞘に納めて腰に差す。
すると小屋の入り口の方を見て構えた。
「何か来ます」
「え?」
「セラちゃん」
アストリッドが妖精のサイズになって肩の近くに来る。
そのタイミングで戦闘になることに気が付いた。
耳を澄ませると何か生き物が歩くような音が聞こえる。
その音が少しずつ小屋の入り口に近付く。
何かが見えた瞬間、カラスが一気に距離を詰め抜刀する。
だが、その刃は喉元寸前で止まった。
「ニャっ!?驚いたニャ!?」
「ケティ!?」
「ニャー、やっと見つけたニャ」
小屋に近付いてきた何かは仲間のケティだった。
「どうしてケティ一人なの?ヒロたちは?」
「ニャーはヒロに言われてニャー達を探しに来たにゃ。一晩中動いたからお腹すいたニャ。」
「チョコチップクッキーならあるけど」
「ニャー!?」
アストリッドが人間のサイズになり、カバンからクッキーを出すとケティは凄い速さで受け取ってバクバクと食べ始めた。
アストリッドはいつもショルダーバッグを持っていて、その中に入れたものはアストリッドが妖精のサイズになった時一緒にサイズが小さくなる。
ヒロが一度妖精サイズの時のバッグに物を入れて人間サイズになった時に大きくなるか試していたが、大きくならず、あくまで人間サイズの時に入れた荷物が小さくなるだけのようだ。
「セラちゃんも食べる?昨日から何も食べてないでしょう」
「じゃぁ貰おうかな」
アストリッドからクッキーを受け取って口に運ぶと、甘さが口全体に広がりそこから体全体に元気を与えてくれるのが分かる。
カラスにもクッキーを渡そうとしていたが、カラスは黙って手で必要ないと断った。
「ヒロ様との合流は」
「もぐもぐもぐ、水車村に集合することになっているニャ。もし今日中に来ないようならニャー達でオーガの村に戻ることになるニャ」
「ならば直ぐに向かいましょう」
そこからはカラスが先頭で、ケティが最後尾で進んでいく。
1,2時間ほど進むとどこからか水車の動く音が聞こえてきて、うっすらと霧の中から建物が見え始めてくる。
「集合場所はホエールキャノンで薙ぎ払った辺りニャ」
「あそこには大猿が」
「大猿ならニャー達が倒したニャ」
「大猿を!?しかし、ウィズ様たちの戦力では」
「違うニャ。ニャーとヒロで倒したニャ」
「いったいどうやって」
どうやら大猿は相当の強敵だったようで、カラスは信じていないようだ。
その証拠として口数が少ないカラスが多くの疑問を口にしている。
「失礼ですが、ヒロ様はそこまでの強者のようには……」
「ニャー、確かにヒロは全然強くないニャ。仲間の中でも下から二番目位の強さニャ」
「では、どうやって」
「あのね、ヒロは誰も使わないような弱い魔法をすっごく上手に使うんだよ」
ケティがなかなかヒロを褒めないので間に割って入ると、カラスが興味を持ったようでこちらを向く。
「あと、誰でも上手に使える弓とか私たちの戦い方はヒロが全部考えたんだよ」
「では、大猿をいったいどうやって」
「ニャーが噛みついている間にヒロが動けなくさせて、最後にニャーがクビを食いちぎったニャ」
「食いちぎる?」
「ニャーの本気は計り知れないんだニャ」
多分、ケティが猫又なのを隠しているからだろう。
カラスはそれを聞いて余計分からなくなったようだ。
「村に入ってから結構歩いたけど、あとどのくらい?」
「ニャー、もうちょっとだから頑張るニャ」
水車村は霧で殆ど見えないが、水車以外の音がほとんど聞こえず少し怖い。
たまに見える建物も何年も使われていないせいかボロボロでそれがさらに不気味さを増していく。
だからこそそれが現れた時は怖かった。
他の建物より比較的新しめの小屋の前を通った時だ。
「なぜここに来たの?」と声が聞こえたのだ。
ケティもカラスも気配に気付かなかったらしく慌てて戦闘態勢に入る。
だが、そこに立っていたのは見知った人だった。
セラの事を気に入ってくれているウンディーネ。
しかし彼女なのは間違いないだろうが姿が少し違う。
髪の毛は降ろしていて、前髪は目の上で切りそろえられていて着物を着ている。
何より違うのは色が黒いのだ。
ウンディーネは水の様に透き通った肌をしているはずなのだが、今目の前にいる彼女の体はまるで墨の様に真っ黒でその体は透き通るどころか光を吸収しているようにも見える。
「ウンディーネ?」
「なんでここに来たの?」
話かけてもウンディーネは同じ言葉しか答えなかった。
「やばそうニャ。逃げるニャ」
アストリッドに手を引かれケティの先導で走って逃げだす。
カラスはギリギリまでその場にとどまり、セラ達が黒いウンディーネからある程度の距離を取れたタイミングでその場から姿を消した。




