妖精の森のオリーブ畑
マサミチの家での食事は最高だった。
見るもの全てが赤、赤、赤のトマトを使った料理ばかりで、パスタもスープももちろん美味しいのだが一番はやはりピザ。
チーズも自家製らしく味が濃く、モッツァレラチーズだと思ったが全然違う。
その関係が、デブが大好きな高カロリーピザって感じで癖になる。
食事の後は各自眠りについたのだが、ヒロは夜遅くまでマサミチにこの世界の事を聞いた。
特に一番ショックだったのは、殆どの冒険者がまず初めに教会へ行って入信し、回復魔法を覚えるらしい。
するとある特権が二つ付く。
ひとつは魔力消費無しに下級の回復魔法が日に3回使えるというところ。
しかも、魔力0の者がその特権で魔力を使うと翌日には魔力が1に増えているらしい。
つまり、必死に稼いで妖精の粉を買う必要がなかったのだ。
次にスキル『オラクル』について。
これは転生者が入信すると自動で追加されるスキルらしく、睡眠時にTIPSが表示されるらしい。
そこにはこの世界の豆知識だったり、さっきの魔力が増える話、転生者であることを隠した方がいいという話などが表示されるんだとか。
ちなみにマサミチが転生したころは他の転生者も多かったらしく、マサミチはセラのお父さんであるセイイチと酒場で出会って仲間になったらしい。
他にも自分は転生者と名乗る者はいたらしいのだが、彼らは教会から命を狙われたり、魔物側からも積極的に攻撃されたようだ。
それを見て二人は転生者であることは家族にも話さないと決めたようだ。
他にも色々と話を聞かせてもらったが、これ以外は特に目新しい情報はなかった。
というのもマサミチが冒険者を経験したのは数年で、あとはずっとこの森に棲んでいたらしい。
狩りに行く必要もほとんどなかったので、モンスターに遭遇するのもエルフの里へ行くときに運が悪い時だけだったそうだ。
それでもお手伝いの妖精が一緒にいるので幻惑の魔法などで戦わずにやり過ごしていたらしい。
一通りの話が終わり、貸してもらった空き家へと向かう。
誰が住んでいるわけでもないのだが、セイイチ達が来た時ように建てられ、妖精たちが手入れをしているらしい。
そのうち一つにオグ、ハルト、リロイ、アストリッド
ヒロはセラ、ケティと同じ空き家で寝ることになっている。
明日は朝早くに妖精の森を案内してもらい、昼過ぎにティタニアルに会いに行くことになった。
―――――――――
「うお、すげぇ」
翌朝オリーブ畑を見せてもらったのだが、やはり驚きで声が出た。
背の高い木がドーム状になった広い空間に魔法石がつけられ明かりになっているエルフの里とほぼ同じ構造なのだが、驚いたのはその収穫方法と運搬だ。
沢山の妖精たちが一斉にオリーブを収穫し籠に運んでくる。
その籠がいっぱいになると3メートルほどの巨大な木人がそれを運んでいくのだ。
その木人はトレントという種族らしく、特に言葉を話すことはない。
だが、妖精たちは彼らと意思の疎通ができるらしく仕事の指示を出していた。
運ばれたオリーブはそれぞれ加工する為の施設やそのまま出荷するための施設へ運び込まれ、またそこで別の妖精たちが作業をする。
オリーブで得た収益の殆どは魔法の粉購入費用に充てられ、残りはマサミチの生活費用にまわるのだとか。
妖精たちは食事をする事もできるが水と光だけで生きていけるらしく、妖精の粉さえ手に入れば問題がないらしい。
マサミチ達が来るまでは妖精の粉はドワーフからほぼ無償で提供してもらっていたらしく、ドワーフ達に対価を支払えるようになって妖精たちはマサミチに感謝しているようだ。
「ふふふ 凄いよね」
「フフフ 凄いんだよね」
ふと横を見ると2頭身の1メートルサイズの妖精『シルフ』が二人、いつの間にかやってきていた。
「お前たちはシルフだよな?」
「シルフだよ」
「お前って言っちゃだめだよ」
ヒロの質問に二人のシルフが交互に答える。
「ごめんごめん。ところで頼みがあるんだけど、うちのセラと契約してくれないかな?」
そう言ってセラを呼ぶとセラも「お願いします」と頭を下げた。
「契約してもいいんだけどさ」
「契約してもいいんだけどね」
「今はダメなんだよね」
「そう、今はダメなんだよ」
「なんで?」突然のお断りにセラが疑問を投げかけると、
「君はウンディーネのお気に入りだからね」
「あの変わり者のお気に入りだからね」
シルフはお互いを見てクスクス笑っている。
シルフの話によればセラはウンディーネの中でも特別変わった個体に気に入られたらしく、そのウンディーネと直接契約するほうがいいんだとか。
中級魔法の資格をくれとも聞いてみたが、それはまたの機会にとはぐらかされてしまった。
ウンディーネの事も詳しく聞いてみたが、教えたら怒られるらしく二人はどこかへ飛んで行った。
シルフは風の精霊だからか知らないが、風の噂はすべて彼らの耳に届くのだとか。
それ故に色々と知ってしまっているのだろう。
とりあえず色々片付いたらウンディーネに直接会いに行かなければならないのかもしれないな。
そうこう考えていると、ロンがやってきて瓶の蓋をあけ「みんなごくろうさま」と妖精に声をかけた。
「あぁコンペイトウだ!」
「え?コンペイトウ!?」
「本当だ!本当だ!」
どうやらロンの持ってきた瓶にはコンペイトウが入っていたらしく、それに気付いた妖精たちが一斉に群がった。
ロンのまわりは妖精たちの放つ光でほぼ何が起こっているか分からない。
しばらくすると妖精たちは一斉にちり、ロンの持っていた瓶は空っぽになっていた。
「凄いたくさん集まって来たけど、眩しくないんですか?」
「もうなれました」
何気なく訊いてみたが、ロンは嬉しそうに答えてくれた。
そう言えば昨日はマサミチとの話ばかりでロンの話を何も聞いていなかった。
ロンも同じ冒険者だったのだろうか?
体格的に魔法使いとかだろうか。
「ティタニアルの準備が整ったようですので、このまま皆さんをご案内したいのですが」
「わかりました。準備はいいかな二人とも」
リロイを見るとアストリッドがリロイの肩の上で蹲って震えている。
「アストリッド大丈夫?」
「いや、これはちがうんだ」
リロイがアストリッドの背中を指で叩くとアストリッドが顔を上げる。
「ポリポリポリ」
なんの音かと思ったら、アストリッドがコンペイトウを抱えて嬉しそうに少しずつ食べている。
「ちょ、なんだよ」
心配したのが馬鹿らしくなって少し笑ってしまった。
二人はもうとっくに準備ができていたみたいだ。
とりあえずリロイの背中を軽くたたいて、ロンの案内の元リロイたちを先頭に歩き出した。




