いざ鉱山都市ドワーフ坑道へ
馬車に揺られて約3日、ヒロたちはサザラテラの南西の門から出発しドワーフ達の住む坑道を目指している。
ドワーフ坑道と呼ばれるその坑道は鉄などの金属以外にもあらゆる生活の必需品とも呼べる鉱石が採れる。
例えば防腐石。
初めてケチャップを作った時、冷蔵庫もないこの世界では2,3日でダメになると思っていた。
案の定、自分の作ったケチャップは3日で傷んでしまったのだが、セラに渡したケチャップは新鮮そのものだった。
理由を訊いてみると、セラはケチャップやマヨネーズの入った壺の中に小さな黒い石を入れていた。
ジャポンで調味料を買った時もそうだ。
この世界の液体の食料は防腐石と共に保管される。
防腐石は魔法の力で浸かっている液体の腐敗を遅らせることができる。
他にも魔力を込めれば明かりになる魔法石に妖精の粉の原料となるダイヤモンドなども採掘されている。
銃の製造を頼める職人がいないか探したり、色々とやりたいことはあるのだが今回の目的は討伐クエストだ。
現在、うちのパーティで各地のクエストと自分たちの力量を図れる人材が二人いる。
ケティとハルトだ。
ケティは少し高めの目標設定と食べ物前提で考える為、危険なクエストを選びがちだ。
その点、ハルトは回復役だけあって仲間全員を見ているし、前線に立つわけではないので危険なクエストも選ばないだろう。
それを踏まえてハルトに次のクエストを選ばせたのだが見事なものを選んできた。
バフォメットの討伐だ。
現在、ドワーフ坑道の周辺にバフォメットが多数確認されており、原因確認と討伐のクエストが出ていた。
オークの村での一件を冒険者ギルドに伝えたところ、バフォメットのグレーターデーモン討伐となれば報酬20ゴールドの仕事になるということだ。
勿論グレーターデーモンを倒せるとは思っていない。
前回戦った時にはオーク達がバフォメットの相手をし、チカラパワー兄弟とネグ、ケティがグレーターデーモンの腕を2本落としてくれていたことが大きい。
ならなぜ受けたかというと、バフォメットの素材は金になることが分かったからだ。
バフォメットの角は粉にして金属に混ぜると魔法耐性のある装備が作れるのだとか。
バフォメットの角が一本20シルバー、レッサーデーモンの角でも1シルバー。
つまり一匹のバフォメットと戦うと召喚されたレッサーデーモンも合わせ48シルバーになる。
グレーターデーモンの角に関しては一本5ゴールド。
つまり、ケティの変身能力やオグが上手く立ち回ればグレーターデーモン討伐だけで30ゴールド。
倒せなくてもレッサーデーモンで稼いでいけるというわけだ。
もし2匹以上のバフォメットと遭遇してしまった場合はケティに変身してもらい、逃げればいい。
その場合はケティの再変身ができるようになるまでの期間、便宜上クールタイムと呼ぶとして、その日を含め3日間はリスク回避の為にもバフォメット討伐はお休みにするとしよう。
そうこう考えていると「お客さん見えてきましたよ」と馬車の運転をしてくれているカシミール商会の商人さんが声をかけてくれた。
アルノには弱みを握られてしまったが、だからといって関わらないというわけにもいかない。
今回もカシミール商会の行商用の馬車に同行させてもらったのだ。
後方には別のカシミール商会の馬車も付いてきており、そこには護衛用の冒険者パーティが乗っている。
馬車のいく先を見ると大きな鉱山に沢山の建物、いたるところから煙が上がっている。
鉱山都市とも呼ばれているこの街はドワーフ坑道の外にドワーフ以外の種族が作り上げた街だ。
多くの商業ギルドや冒険者ギルドも設置され、ドワーフ達が作った武器や防具、鉱石などが取引されている。
「きぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
突如、聞き覚えのある声が前方から聞こえる。
続けて後方と左側からも同様の奇声が上がった。
バフォメット3匹。
幸先の悪い遭遇だ。
前方のバフォメットが道を塞いでいて突っ切ることができない。
もし仮に突破することができたとしても後方の馬車は確実にやられてしまうだろう。
「止めてください。みんな準備はいいね?」
仲間たちはもう心の準備はできているようで、全員こちらを見つめ落ち着いている。
――馬車が止まり荷台から飛び降りる。
バフォメット達は既にレッサーデーモンの召喚を終えておりこちらに向かってきている。
後方の馬車からも冒険者たちが下りたようだがこちら側の方に2匹のバフォメットとその手下のレッサーデーモンが向かってきている。
「ケティ変身を」
「必要ないニャ!!」
ケティは真っ先に突っ込んでレッサーデーモン達の合間を抜け接近していたバフォメットAを蹴り飛ばして引き離した。
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
「汝、夜を照らすもの 清らかなる乙女の象徴よ」
セラ、ハルトも特に動揺することなく呪文の詠唱を始める。
オグは盾でレッサーデーモンを弾き飛ばしながらバフォメットBへシールドバッシュを仕掛けた。
いや、8匹もレッサーデーモンがいるけどどうするんだよ。
「――月夜の呪縛」
ハルトが唱えた魔法により複数の魔法陣から鎖が召喚され、オグに吹き飛ばされたバフォメットBを拘束する。
え?そっちなの?
レッサーデーモンA~Dがセラに飛びかかろうとした時だ。
「かかってこい!」
オグがそう叫んだが、何かがおかしい。
響く?揺れる?とにかくその声に魔力を含んでいることが感じられた。
そしてそれを聞いたレッサーデーモン達は一斉に方向転換しオグの方に走っていく。
何が起きているんだ……。
「氷結の宴」
セラが杖を掲げるとオグに集まるレッサーデーモン達の上に巨大な氷の塊が現れる。
水気のある透明な氷ではなく、ドライアイスのような乾いた感じがする氷だ。
現れたそれは地面に自由落下し、地面に触れるとともに砕け散り一気に冷気をまき散らした。
周囲にいたレッサーデーモン達は液体窒素でもかけられたように全身が凍り付く。
オグも盾で防いではいるが盾の表面は霜が降っている。
凍り付いたレッサーデーモン達をオグがランドバスターを大振りし一度に砕いていく。
レッサーデーモン達は完全には凍り付いていないが、皮膚から2センチほどはガラスのように砕け散り、中から血が溢れ出した。
3体ほどセラの氷の魔法を逃れたレッサーデーモン達がいたが、それをまたオグの魔力を帯びた声が吸いよせる。
その後ろでバフォメットBが鎖に縛られながら炎の塊をこちらに飛ばしてきた。
「ヒロ下がって」
セラがそう言って盾になるように前に出る。
「ちょ、セラ!?」
「アイスバリア!」
セラの目の前に2枚の氷でできた盾が現れ、炎の攻撃を受け止めた。
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
特に説明もなくセラが呪文の詠唱を始める。
オグがレッサーデーモン達3匹を片付けると「――そろそろ限界」とハルトがセラに伝えた。
「オグ、ハルトいいよ!」
「わかった」
ハルトが魔法を解除しバフォメットBが鎖から解放される。
オグはその直前にバフォメットBの後ろに回り、盾を使ってセラの方へバフォメットBを吹き飛ばした。
「泡の監獄」
ぽむんっという音と共にセラの杖先から巨大な水の塊が現れ、まるで無重力下のような動きをしている。
バフォメットBがそれに触れると吸い込まれるように水の中に閉じ込められた。
バフォメットBは水を飲み込み溺れ始め、やがて動かなくなる。
「ニャー、終わったかニャ?」
ケティも戦闘が終わったらしく、バフォメットAを引きずってこちらに戻って来た。
「ちょっと待って、今の戦闘何?」
「なにって実は―――」とセラが頬を掻きながら「ヒロが動けない間に魔法覚えてみんなで練習したの」と嬉しそうに笑顔で答えた。
マジか……。
正直嬉しい。
食費に金かけ過ぎなんだよと苛立ちを覚えていたが、仲間たちはしっかりと鍛錬を行っていたのだ。
だがしかし……。
今このパーティで糞雑魚状態になった自分の存在意義とは?
この複雑な状況に純粋な笑顔をセラに向けてやることはできなかった。




