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異世界転生して人外娘と恋がしたい!  作者: こま
第一章 ゴブリンキング
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対人戦3

「ごほっ、げほげほっ」


オグが息を吹き返したみたいだ。


ハルトが安堵のため息を漏らす。


「どうなった?」


「――まだ戦闘中だ」


「オグ、早くヒロを助けに行って!」


まだ状況が呑み込めていないオグに盾を渡すため、置いてあった盾を拾う。


「セラ!警戒しろ!」


ヒロの声が聞こえて慌てて声のした方を見ると――ヒロがウォータに背後を取られていた。


その直後にヒロが発生した衝撃波でウォータが吹き飛ばされる。


だけどヒロが膝から崩れ落ちた。


鎧を避け、腰の少し上を刺されたみたいでヒロはそこを抑えている。


どうしよう……また私は何もできなかった――。


「――俺が回復するからオグはあいつの相手を」


「わかった」


オグがハルトから盾を受け取り、私が持っていた盾も奪い取った。


「動揺してるかもしれないけど、こういうときほど落ち着いて」


オグはそういうとウォータの方へ走り出す。


まだ目覚めたばかりでふらつくのかうまく走れていない。


落ち着いて――落ち着いている。


でも、今何をすればいいか分からない。


兎に角魔法を使おう。


今使える魔法で一番強いのは水の威圧(ハイドロプレッシャー)


圧縮された水で攻撃する魔法だけど、動きの速い相手に当てられるか自信はない。


それでも何もしないよりはきっとましだ。


「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」


初めて水の精霊ウンディーネと話したときのことを思い出す。


魔術ギルドには精霊と対話をすることができる強大な石があって、そこで初めて彼女の声を聴いた。


下級魔法は自らの魔力と使う魔法の精霊をイメージして練り上げ発動する。


中級魔法は呪文の詠唱で精霊と一時的につながり、練り上げたものにさらに精霊の力を直接加えてもらうのだ。


オグが右手の盾でシールドバッシュを仕掛けるがウォータはひらりとそれをかわす。


続けてオグが左手の盾で殴ろうとした時だった。


ウォータが口から水を吐き出す。


水というよりも霧に近く、紫色だ。


「ぐあ、あぁぁああぁあ」


霧が目に入ったオグが盾を振り回しながら片膝をつく。


水の威圧(ハイドロプレッシャー)


圧縮された水がウォータ目掛けて噴射される。


当たれば四肢を切断だってできる威力だが、ウォータは狙ったように紙一重でかわしてなかなか当たらない。


それどころかウォータは左手にナイフのようなものを取り出しオグに投げつけた。


投げられたナイフがオグの首に刺さる。


オグは今兜をかぶっていない。


全身鎧で覆われているオグの唯一露出する部分を的確に狙ってきた。


それでもオグの皮膚は厚く、致命傷にはなっていないみたいでナイフを抜くとオグは立ち上がった。


ウォータに突っ込み盾を振るう。


盾は全く当たらないが、ウォータを少しずつヒロから引き離している。


ハルトもわかっているようで、タイミングを見計らってヒロに近づいて回復するつもりだ。


だが急にオグが倒れ込んで水飛沫が起こる。


「――やっと効いたか……オークは毒のまわりが遅い」


そう言ってウォータがオグを蹴り、仰向けにする。


オグは口から泡を吐いて気絶していた。


「――月夜の呪縛(チェーンバインド)


ハルトの魔法で複数の魔法陣が現れ、そこから鎖が召喚される。


身軽なウォータを鎖が捉えることはできなかったが、ヒロから大分距離が離れた。


ハルトがヒロに駆け寄って傷の具合を見る。


今ハルトが治療を始めたら誰もウォータを止められない。


「私がやらないと――永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」


馬鹿の一つ覚えかもしれないけど今はこれしかない。


ウォータがこちらを睨んでいる。


怖い……。怖いけどせめてヒロたちとウォータの間には立たないといけない。


水の威圧(ハイドロプレッシャー)


圧縮された水が勢いよく噴射される。


勿論ウォータは綺麗にかわすが、ヒロたちの前に立つことができた。


「――その魔法はこうやって……使う……」


ウォータが右手のダガーをこちらに向け、その先に魔法陣が展開される。


「――水の威圧(ハイドロプレッシャー)


今度は自分が水の威圧を受ける番だ。


ウォータの展開した魔法陣から圧縮された水が噴射される。


明らかに自分が使う水の威圧より威力が高そうだ。


こんなのかわせる訳がない。


怖くて目を瞑る。


「――|月の護封壁」


目の前に光の壁ができて水の攻撃を防ぎ凄い音がする。


驚いて隣を見るとハルトが立っていた。


「なんで……」


「――ごめん…ヒロは間に合わない……血が流れ過ぎた」


「そんな……」


光の壁にひびが入り、その隙間から水が侵入しハルトの肩を切った。


「――この攻撃が終わったら……走って逃げるよ」


「そんなことできない!」


「――ヒロならそうする」


ウォータの魔法が終わり、ハルトが手を掴んで走り出そうとしたが、それを振りほどいてヒロの方に駆け寄る。


修復(リカバリィ)


ヒロの傷口を抑えて修復の魔法をかける。


それでも血が止まらない。


ぽたぽたと自分の手に涙が零れ落ちる。


泣いてる場合なんかじゃない。


「そんな事をしても逆効果だ!」


いつもボソボソとしか喋らないハルトが声を上げた。


わかってる……。


わかっているけど、ヒロを置いて逃げられるわけがない。


もっと沢山魔法の練習をすればよかった。


今より上達が早ければ傷口を凍らせて止血できたかもしれない。


氷の魔法……氷の魔法はウンディーネの力を借りる。


もしかしたら……。


「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」


ウンディーネの力を借りる魔法はこの言葉で始まる。


その後は付け加えてもそうでなくてもいい。


つまりはこの言葉でウンディーネと繋がるんだ。


お願いこっちの気持ちが少しでもいいから彼女に届いて……。





――…………。





――……えて……。




と…え……。





「聞こえた!ハルト私たちを護って!」


「――|月の護封壁」


ハルトの魔法で光の壁が3人を包み込む。


立ち上がり呪文を唱える。


「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」


彼女を思い浮かべる。声しか聴いたことはないけれど、あの時の彼女は優しかった。


「愛を知り、愛を求めるもの 悠久を担いし永遠の乙女 」


怖いけど力が湧いてくる。


「我が力をもって今ここに顕現せよ!――ウンディーネ!!」


あたり一面の泥のように濁っていた水が、現れた魔法陣を中心に一瞬で綺麗な透き通った水に浄化される。


そして彼女は魔法陣から姿を現した。


スリットの入った細身のワンピースに少し大きめのベルトをしていて、長い髪の毛は前髪と共に頭の後ろでひとまとめにされている。


何より特徴的なのはそのすべてが限りなく薄い水色をしていて、透き通るその体は目を凝らせば反対側が見えそうだ。


「即興とはいえ酷い呪文だな」


「ごめんなさい」


「構わない、あながち間違いじゃない」


ウンディーネがヒロに向かって手をかざすと巨大な水の塊がヒロを包み出血が止まった。


「治ったの?」


「そうではない。水が血を止めているだけだ」


「血が水に混ざっちゃうんじゃ」


「私は水の精霊だぞ。いいから治療をしろ」


「――それは俺が……汝、夜を照らすもの 清らかなる乙女の象徴よ」


「アルテミスの力とは面白い――さっさと治してやれ」


ウンディーネはハルトを見て少し笑うとウォータの方を見た。


「――精霊が人間と戦うのか?」


「既に貴様らは戦っているだろう」


ザザ―っとケティがこっちに大きく飛んで後退してきた。


「ニャー、呼んだかニャ」


「本来の姿ならこんな奴ら取るに足らない存在だろうに」


「それには色々事情があるニャ」


二人は顔見知りなのか、少し言葉を交わしているうちにハリーとウォータも合流していた。


意識が戻ったのかフレイとランドも立ち上がっている。


「とりあえずこちらが先か」


ウンディーネが右腕を少し前にだし、何かを掴んで引く仕草をするとオグのまわりの水がオグを包んでハルトの横まで運んできた。


「解毒はしてある。一緒に固まっていろ」


そう言うとウンディーネの右手に水で出来た槍が現れる。


「ゴブリン退治がとんでもない大仕事になっちまったな。降参するから許してもらえないか?」


「もうそんな話をする段階は過ぎたニャ」


「まぁ言ってみただけさ」


ハリーはそりゃそうだよなと余裕に笑ってみせた。


「――奇跡の回復方陣リザレクションサークル


神官のフレイが回復魔法を唱え、ハリー達全員を回復の奇跡が包み込む。


「本気で行くから精々頑張んな」


「ニャーに手こずっていたくせによく言うニャ」


「まぁこいつを喰らってから考えな」


ハリーが顎で示す先を見るとランドが斧を掲げている。


だが、その斧がとてつもなく大きい。大きいというより今もなお大きくなっている。


ボコボコと土が集まり……と言うよりも膨れ上がり、既に3階建ての建物程度のサイズになったそれは斧というより、もはや塔だ。


「あれ防げるかニャ?」


「私にできると思うか?ノームの力とは相性が悪い」


「ニャー、やっぱりそうなるかニャ」


「ガイアインパクト!」


ランドが巨大な塔を振り下ろした。

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