魔法少女とアイアンモンガー
「こ、こんにちは…」
座っている彼女は俺の挨拶に怯えながらそう答えた。
18歳くらいだろうか?いや、完全に憶測というか希望かもしれない。
腰まで伸びた茶色い髪の毛はぼさぼさで、前髪は目が見えないほど伸びている。
「話があるんだけど、座っていいかな?」
俺の言葉に少し怯えているのか、少し震えながら彼女はうなずいた。
「君もパーティ組む相手がいないって聞いたんだけど、クラスは魔法使い?」
「――あ…は、はい…」
「良かったらなんだけど、魔力の数値を見せてもらってもいいかな」
そういって、借りてきた能力石を机に置くと、また彼女はビクッと体を震わせる。
だ、大丈夫かな・・・
黙ったまま彼女が能力石に手を伸ばす。
その時だった。ふわっと彼女の匂いが鼻を刺激する。
それはもう、まるで…
――そう…まるで…
ドブの様な匂いだった。
能力石を握った手の甲に能力が映し出される。
でも、それどころじゃなかった。
「えっと、この匂いって…」
「――ご、ごめんなさい…」
とっさに訊いてしまったが、傷ついたらしく彼女は能力石を落としてしまう。
そして、机の下に転がった能力石を彼女が拾おうとしたときだ。
ふわっ
第2派がやってくる。
必死に笑顔でいるつもりだったけど無理かもしれない。
だが、彼女の能力を見てこの臭いのことは頭から吹っ飛んだ。
魔力 500
「500!?」
思わず声が出た。
俺の魔力を35億倍したって彼女には勝てない。0だから当たり前なんだけど。
そして、思わず出た声に彼女もビクッと全身を震わせる。どんだけ臆病なんだよ。
駆け出し冒険者の平均魔力は20だ。
でもなんで彼女が他のパーティから使えない宣告をされたのだろうか。
彼女は『冒険者の中で使えないって理由でパーティ組めなくて気の弱いやつ』という条件でギルドのお姉さんに紹介してもらった。
それにしてはとんでもない魔力の数値だ。
もしかして・・・
「失礼なんだけどさ、もしかして君が他の人とパーティが組めない理由ってその…臭い的な?」
「ち、違います…これはお金がなくて…」
多分また傷つけた。そして世知辛いね冒険者。
下手をすると女の子もこんな状態になってしまう。
いや、明日は我が身。というか既に片足つっこんでるんだよな。
「えっと、それじゃその、なんていうんだろ…その小動物的な感じが合わなかったとか」
精一杯だった。こんなびくびくしながら悪臭を放つ状態を上手く可愛くオブラートに包むのは今の状態じゃ限界だった。
「ち、違うんです。私の…その…」
彼女はもじもじしながら一生懸命言葉にしようとする。
「わ、私の…魔法…しょ、しょぼいって…」
「え?しょぼい?」
あーやってしまった。多分また傷つけた。
彼女に何も考えずにすぐ言葉にするのはやめよう。
すでに彼女の姿勢は猫背を通り越して机に額が付きそうなほど折れ曲がってきている。
そして、その向かいに座っているせいで全力で彼女の頭のフケが見える。
「あ、えっと、ごめんね。具体的にどんな感じなのかな?」
そう彼女に尋ねると彼女は急に立ち上がり、杖をこちらに向けてきた。
「え、えと…見せますね…ファイアボール!」
ファイアボール、昨晩読んだオッサンの本に書いてあった。
初級魔法の例として載っていた魔法で、拳大の炎の塊を飛ばし爆発させる魔法だ。
って、え?こっちに向かって撃ったよね?死ぬじゃん…
しゅぽっ
ライターだ。ライターで火を起こすときにシャッて出るぐらいの火の粉。
その程度の火の粉が、しゅぽっ、という音とともに杖先から…出たのか?
「こ、こんなだから私…仕事も…お金もなくて…」
涙ぐむ彼女に能力石を無理やり握らせる。
魔力499
多分初手で当たりを引いたと思う。
「ねえ、今日一日雇われない?1シルバーでいいかな?あと、お金は出すからお風呂入っておいで」
とりあえずのお金を渡して、彼女を冒険者ギルドから見送った。
――――――
ダメだ・・・やっぱりさっきの子が唯一の当たりだったみたいだ。
魔法使いの女の子をお風呂に行かせた後、軽くギルドのお姉さんに今残っている奴の話を聞いたけどろくなやつがいない。
仲間の金を盗む盗賊。
血を見ると気絶する戦士。
フレンドリーファイア常習犯のアーチャー。
謎の粉がないと手が震える呪術師。
今はいなかったが、女性問題で幾多のパーティーを解散or全滅させてきたヒーラーってのもいるらしい。
はぁなんとか4人揃えたいけどなぁ…
と言いながらも、自分も似たようなもんだとため息をしつつ、何か飲もうと冒険者ギルド内にある酒場のカウンター席に座る。
「よお、あんたパーティメンバー探してるのかい」
隣にいた男に声をかけられた。
スキンヘッドに立派な髭、鍛えられた筋肉に厳つい金属製の鎧を身にまとっている。
アイアンモンガーみたいだとふと思ったが口にしなかった。
「えぇまぁそうなんですけど、なかなかうまくいかなくて」
「あんた俺と同い年位だろ?クラスは何なんだい?」
「いや、それが昨日登録したばかりで」
「ガハハ、その歳で新米か」
男はバンバンと俺の背中を叩いて笑った。
「俺はタカシってんだ。もし、3人揃えることができたら声をかけな」
そういうとタカシは立ち上がって建物を出て行った。
タカシの見た目は欧米人感が全快である。
全力で欧米感出しといてタカシって!
何か言いたかったがタカシはもういない。
とりあえずあの女の子が帰ってくるのを待とう。
そういえば、名前聞いてなかったな。
戻ってきたら自己紹介だ。