08.新たな目標
「なに、やっているんですか?」
言葉に詰まりそうになりながら、なんとか質問する。
「えっ……? あ……あははは。やめてよ、くすぐったいなあ。ボクだって君と一緒の学年なんだよ。先輩って訳じゃないからさ、敬語は止めてくれないかな?」
「あ、そ、そうなんだね……」
落ち着いて雰囲気だから、年上なのかもしれないと思ってしまった。
触れたもの全部傷つけるみたいな、虎鉄くんとは全然違うタイプだ。
「えっと、と何をやっているか? だったかな? 見ての通り、新入生を勧誘しているところだよ。君も入らない? 応援団」
「お、応援団って、部活なの?」
「うーん。部活じゃないんだけどね。応援団ってこうやって部活に交じって勧誘しないと入ってくれないみたいなんだよね。……それに入ったとしても退部する人が多いんだよ」
「……なんで?」
「厳しいからだよ。他のどんな部活よりかもね」
他のどんな部活より?
それはちょっと考えられないな。
剣道とか野球とかが厳しそうな気がする。
やったことはないけど、見ているだけできつそうだ。
「膝にくる態勢のせいで、ヘルニアになって泣く泣く部活を辞めた先輩がいるぐらいだからね。ドクターストップってやつだよ。何時間も声を張り上げて動き続けるって大変なんだ。他の競技は多少なりとも休憩があるかもしれないけど、応援団には決まった休憩なんてないからね。地獄だよ。応援団の辛さが分からない人とかが『えっ、なんで座って休憩しているの?』とかクレームつけるせいで、休もうにも休めなかったりするのが原因かもね」
「く、詳しいね」
「ああ、先輩の受け売りだよ。中学の時も応援団もどきのことやってたからっていうのもあるけどね。この北高校は応援団が有名だから、ボクはこの高校に入ったんだよね。……お互いよかったね、北高校受かって」
「へえ」
ちゃんとした目的があって北高校に来たのか。
この人、私と似ているかもしれない。
「でも、どうして、新入生勧誘するために、新入生であるあなたがやっているの?」
「ああ、だってもうボク、応援団に入っているから。手伝おうと思って」
「えっ、ええ!? だって、今日が入学式だよね? いつ入ったの?」
今日入部したってことだろうか?
でも、体育館から退出したのは私がほとんど一番乗りだったはずだ。
だとしたら、もしかして入学式が始まる前から入部したのだろうか。
意識高い系どころか、意識高い人なのかも。
「ああ、だって学校が始まる前から入部届はもう出していたからね」
「ええっ!?」
「まあ、高校入る前から入部はできないから、今日が正式に入部した日なんだけどね? 練習には高校に入る前から参加させてもらっているよ。応援団は年中無休だけど、やっぱり野球部の夏を応援するのが一番の応援しどころだからさ、春の練習が一番厳しいらしいから、その厳しさを入学する前に味わえてよかったよ」
「へ、へー。すごいんだね」
「自分のやりたいことだからね。やれることはやっておきたかったんだ。後悔しないためにね」
さっき私はこの人と似ていると思った。
だけど、それは大きな勘違いだった。
そう思ってしまった自分が恥ずかしいぐらいに。
この人は、ちゃんとした目標があって、誰よりも努力してきたのだ。
目標に到達できるためにできることをしっかりとしてきた。
私は何ができたのだろう。
確かに勉強はしてきた。
好きな人と一緒の高校に通うために。
それだけがゴールだった。
そのせいで、もう燃え尽きてしまった。
今日だって遅刻してしまった。
そして、異性と一緒にいるところを先輩に観られてしまった。
そんなの、本当に好きだっていえるのだろうか。
私は結局何がしたいんだろう。
当初の目的は達したけど、それだけだ。
この恋は成就しない。
先輩と一緒の高校に通うだけじゃ、距離は近づかない。
朝、パンを咥えながら登校したら、角で先輩とぶつかることなんてならない。
私はもっと先輩に近づきたい。
でも、待っているだけじゃ何の成果も得られない。
少女漫画のような展開なんてありえない。
だとしたら、私ができることってなんだろう。
まずはそれを見つけることから始めないといけない。