07.再会
「ねえ、ねえ、あの人ってそうでしょ?」
「そうそう。ねえ、訊いてみない? 朝から男子と一緒に登校してきたんでしょ? 一体どんな関係かさ」
後ろからしつこいぐらいに噂話をされる。
どう考えても聴こえるボリュームで言わないでほしい。
噂の的になっているらしいので、私は一人で駆けだす。お、おい! と虎鉄くんが呼び止めるが、私は無視してしまった。
そもそも虎鉄くんと一緒にいることで噂が増大するのだ。
離れて欲しい。
心配そうに声を上げてくれたのは、やっぱり虎鉄くんは優しいのだろう。
だけど、今は遠慮してもらいたい。
私は一人になりたい。
だけど、その願いは叶わなかった。
「はーい、こちら柔道部です! 女の子もいるから安心してねー」
「サッカー部です! モテルよー、サッカーは女子にモテるからモテたい男子はすぐにきてねー」
「茶道部です。チラシどうぞー。着物がタダで着れるよ! お祭りとかでも便利だよー。日本の伝統的な作法をみんなで学ぼう!」
薄暗い体育館から抜け出すと、そこには光輝く、部活動紹介の列があった。
どこまでも広がっていて、ちょっと歩くだけで手元には何十枚ものチラシが残る。
ちゃっかり文芸部の分厚い文芸誌なんかももらって重たい。
「うわっ、すごいっ!」
始業式が終わってから、二年三年生の方が先に退場したのはずるいと思っていた。
それから数十分間一年生は待たされたのだ。
一体何の意味があるのかと思ったら、部活動紹介のためだったのだ。
中学なんかとは違う。
なんだか華やかだ。
そして本気に見える。
先輩たちも大人びて見える。
どこの部活も力が入っていて、どれもこれも魅力的に見える。
入学式では途中からしか部活動紹介を見れなかったから、興味のあまり足が止まってしまう。
「あっ、ねえ、ねえ。キミ、バトミントンに興味ある? うちはさ硬球テニスと軟球テニスがあるんだけどさ、やっぱり高校から始めるならテニスよりも、バトミントンだよ! 雨が降っても体育館でいつでも練習できるよ!」
「彼女、硬球テニスやらない? 絶対バトミントンなんかよりかは楽しいよ!」
「はあ!?」
「そっちから言ってきたんでしょッ!! 営業妨害しないでよっ!!」
「隣に来たのはそっちだろっ!!」
「ほーう。どうやら長年続いた因縁ここで決着つけるしかないみたいね」
「ふん、いいだろう。みせてやるよ。俺の編み出した必殺技をな!!」
なんだか喧嘩に巻き込まれてしまった。
モブキャラみたいな顔をしているのに、キャラが濃すぎる。
流石に先陣を切って新入生に声をかけるだけあって、コミュ力ある人多いな。
私はこそこそと喧嘩する二人の横をすり抜ける。
そうか。
部活動か。
自分の身の丈に合わない偏差値の高校に入学することで一生懸命で、部活動のことなんて考えたことなんてなかった。
北高校は文武両道が一つの方針らしく、部活動に入部しない生徒はほぼいないらしい。
というか、絶対入部しないといけないらしい。
強制ではないが、ほとんど強制みたいなものらしい。
幽霊部員でもなんでもいいからどこかの部活動に入部しないといけないのは、検索していたらでてきた。
あまり考えなかったけど、やっぱり文化系の、インドア系の部活動がいい。
漫画研究会みたいなものがあればいいけど、そういうのはなかった。
やっぱり真面目系の部活が多かったように思える。
その辺はやはり進学校ということだろう。
囲碁部とか将棋部とかもあった気がするが、ルールは全然わからない。
入部したら経験者ばかりでボコボコにされそうだ。
といっても、私は人に誇れるような趣味なんて持ち合わせていない。
文化系とか体育会系とか関係なしに、私が入れそうな部なんてないのかもしれない。
「あれ?」
声を掛けられる。
ピントが合ってもその人が誰なのか分からない。
だけど、その人はどこか見たことがある。
でも、どこか違和感がある。
そこにいるはずがないから、記憶とすり寄せができない。
だって、そこは勧誘する側なのだ。
だけど、その人は上級生のはずがない。
私と同じ同級生で、一年生のはずだ。
なのに、柔和な笑みを作って、チラシを私に渡してくる。
「もしかして、この前の、神社の人じゃないかな?」