05.不慣れな二人
まず、私たちはスマホを使ってタクシーを呼んだ。
ネットで検索したらすぐに近場のタクシー会社の電話番号が判明したので、バス停にきてもらった。
そして、初対面である男子と二人で後部座席に座った。
ジロジロと運転手さんが私たちの関係性を探るように見てくる。運転手さんのほとんどは世間話を自ら振ってくる人ばかりの印象だったが、私たちに触れたくないのか黙りこくっている。
タクシーは昔から苦手なのだ。
話たがりな人とか、道がよく分かっていないのに備え付けのカーナビを使わない人とかいるから。
でも。
流れでタクシーを使ってまで、北高校へ行くことになったけど、本当に私たちはわざわざタクシーを使う必要性はあったのだろうか?
普通に歩いていくとか、家に戻って自転車を使うか、次のバスを待つとか、遅刻してでもいいから他の案をとるべきだったんじゃないだろうか。わざわざ遅刻しそうだからといってタクシーを使う高校生なんてこの世にいるのだろうか。初めての始業式ということで浮足立っていたのかもしれない。
タクシーに乗って学校へ行こうという案を出したのは、隣に座っている男子だ。
見た目は不良そのものだが、意外にも真面目らしい。
学校側への連絡も電話で済ませてくれた。タクシーに乗りながら、すいません、はい、はい、今日遅れてしまいます、はい、名前は金沢虎鉄と、それから――お前、名前なんだっけ? ああ、はい、向日葵ね、安藤向日葵だそうです、はい、はい――と電話してくれた。
連絡する必要があったのだろうか。
遅刻するかもしれないからわざわざ学校に電話かけるなんて、律儀というかなんというか。ここまでくるともしかしてこの人は優等生かもしれない。
「なんだよ。何か俺の顔についているのか?」
「いえ……」
虎鉄……くん? の顔を少し見ただけでこの過剰反応。
嫌になるなあ。
なんでこの人と一緒になっちゃたんだろ。
急いでいたから気がつかなかったけど、たとえタクシーで高校へ行くことになったとしても、別々のタクシーで行けばよかったのだ。高校生のおこづかいじゃ、割り勘なしでは到着できないかも、とか躊躇してしまったせいだ。
こういう高圧的な態度でマウントをとろうとする人は苦手だ。
股も何故かパッカーンと無駄に開ききっているせいで、お互いの膝と膝が合わさるぐらい近い。もうちょっと距離を取って欲しい。
ただでさえ他人より私はパーソナルスペースが広いのだから。
「悪かったな……」
「え?」
「こんな俺が隣で嫌なんだろ。もう少しでつくからそれまでは我慢してろよ」
「えっ、いやとか、そういうのじゃ――」
ないと即座に断言できなかった自分が憎い。
素っ気ない態度をとり過ぎたせいで、虎鉄くんが項垂れている。
こういう時、普通の人ってどういうんだろう。
適当に誤魔化す?
別の話題を言う?
そんな器用なこと、私にはできない。
男子と話すことすらそんな経験ないんですけど。
どうしよう。
私が黙ってしまったせいで虎鉄くんが怪訝な顔をしている。このままじゃ流されてしまう。傷ついたままになっちゃう。そんなのは嫌だ。思考がまとまらない。とにかく自分の思ったことをそのまま素直に伝えてみよう。
「ありがとう」
「は?」
「あなたがいてくれてよかった。私ひとりじゃ何もできなかった。バス停で途方に暮れているだけだった。私一人だったら心細くて、不安で仕方なかったけど、私、今、すごく安心している。――虎鉄くんがいてくれたからだね」
「……なんだよ、それ」
ケッ、と顔をそむけて、移りゆく景色に視線をやる。
怒らせてしまっただろうか。
自分でも何をいったのかよくわからなかった。
あんまり人とこういう感じで話す経験がなかったから、何か逆鱗に触れてしまったのだろうか。
「ありがとな」
私から視線を外しながらものすごく小さく呟いた虎鉄くんに、私は笑ってしまった。だって、私と同じぐらい虎鉄くんもお礼を言われたり、言ったりするのに慣れていないのがバレバレなぐらい耳が真っ赤だったから。
ひゅうっ、青春だねぇと、ミラー越しにタクシー運転手がこっちを見ながら口笛を吹いた。
うん、やっぱり、タクシーは苦手だ。