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03.高校受験

「おねがいしますっ!」

 虚空に私の声が響く。

 パンパンッ!! と気合よく手を打つ。

 ここは学校近くの神社。

 早朝で誰もいないので声が大きくなってしまった。

 賽銭箱には五円を投げた後だ。

 五円というと、ご縁がありますようにという意味だったか?

 今の私にはあまり意味がないけど、五円が一番ご利益ありそうだったから投げ入れた。普段は神様なんか信仰していないけれど、今日この瞬間ばかりには神様を頼ろう。

 どうか、私の願いを聞き入れてください。

 補欠合格でもなんでもいい。

 とにかく、私はあの人と同じ高校へ行きたいんです。

 あの暑い夏。

 私はあの日に負けないぐらいハートを熱くした。

 もう夏は過ぎ去ってしまたったけど、まだ私のハートの火は消えていない。

「……気合入っているね。何かお願い事?」

「ふあっ!」

 後ろからくすくすと笑われてしまった。

 まるで猫のような顔をしている男の人だった。華奢な四肢にたれ目で髪の毛はセミロング。男というよりかは綺麗な顔をしている女の人に近い中性的な人だ。制服からして近所の中学生なのだろう。それにしては落ち着いていて、同級生もしくは後輩には見えない。

 いきなり話しかけられたからジロジロと顔を観察したが知らない人だった。

 いくら私が人間関係をおろそかにするような人間でも、流石に人の顔までは忘れないだろう。

「えっ、いや、ちょっと受験に受かりたくて」

「へー。僕と同じ受験生か。ここにご利益あるか知らないけど、頑張ってね」

「あ、はい!」

 優雅な歩き方で去っていく。

 同じ受験生っていうことは、もしかしなくとも同級生か。

 そう見えないほど落ち着いている。

 しかも、この時間にここにいてあれだけ余裕があるってことは、もしかして北高校を受験予定なのだろうか? 知的な会話の仕方だったし、あの人はなんとなく勘なのだが受かりそうな気がする。

 うーん。

 お母さんが言っていた。受験の日は周りの受験生が自分よりも頭良く見えるかもしれないけど、気にしないで。北高校を選ぶってことは、頭の良さはあなたと同じぐらいなのよ、と。

 その時はそんなものなのかなって思ったけど、本当だった。

 受験生はああいう人ばかりなのかと思うと、緊張してきた。

 だけど、もっと話してみたかったなあ。

 男子どころか女子とも話すのは慣れていない私からしたら、すぐに会話を断ち切ってくれたのは嬉しいがなんだか名残惜しい。

 もっと話していたいと思ったのは何年振りだろうか。

 あの人が優しそうで、つかみどころがなかったからだろう。

 その猫のような人とすれ違うように、待ち合わせていたよっちゃんが来る。

「どうしたの? あの人と知り合い? すんごいイケメンだったけど」

「ううん、知らない人。私が必死に拝んでいたら、話しかけられただけ……受験生って言ったかな?」

「ふーん」

 訊いてきたわりにはあまり興味がなさそうだった。

 やっぱり、よっちゃんは男子と言ったら自分の兄が一番好きなのだろうか。

 私が恋愛に興味がないせいもあったが、よっちゃんの口から恋愛話なんてついて出たことなどない。もしかして、私に遠慮しているのだろうか。それとも、本当に興味がないのだろうか。

 よっちゃんの好きな人ってどんな人だろう?

 よっちゃんは無遠慮に、私の腕をつかむ。

「とにかく急がなきゃ! まだ時間はあるけど、今日は遅刻できないから!」

「うん、そうだね」

 鞄の中に入っている受験票には私の名前である安藤向日葵あんどう ひまわりの文字がしっかりと載っている。そう、今日は大事な高校の受験日なのだ。塾に通うと言い出した時には、親は泣きそうなぐらい喜んだ。あの、向日葵が勉強をする気になったんだと、大げさなほどに狂喜乱舞したものだ。

 学校の先生も祝福してくれて、色々と高校入試対策のための資料を準備してもらった。今までお邪魔虫程度の認識しかなかったけど、学校の先生が親切で助かった。おかげで最大限の準備ができた。事前に行った入試の判定もB判定をもらった。よっちゃんはA判定で、人当たりもいいので面接は問題なく、きっと受かるだろう。問題は私だった。

 B判定をもらったものの、まだまだ分からない。

 だけど、やれるだけのことはやったのだから、もう覚悟を決めるしかない。

「うん、行こう!」

 それから。

 私達は北高校を受験し、そして見事二人とも合格した。

 ようやく、恋のスタートラインに立てたのだった。


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