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16.裏切り

 虎鉄くんが応援団に入る。

 そのことについて、私は何とも思わなかった。

 でも、実際に入って、一緒にやっていると心強かった。

 私は積極的に何かをやる、っていうことを今まであまりやってこなかった。

 だから、分からなかった。

 一人でいることがどれだけ心細いかってことを。

 知り合いには猫山くんもいるけど、なんというか距離が遠いのだ。

 一定の距離を置いて話してくる。

 私もそうだし、それが心地いいものであることは今でも変わらない。

 でも、やっぱり寂しい時は寂しい。

 虎鉄くんは、自己中だ。

 言い方を変えれば、こちらのことを気にせずにずかずか入ってこられる。

 その無神経さに救われることだってある。

「安藤って好きな奴いるの?」

 こういう無神経さは好きじゃないんだけど。

 まるで修学旅行の夜みたいなノリなんだけど。

 恋愛トークは昔から苦手だ。

 女子だけしかしないと思っていたけど、男子もするんだ。

 しかも、個室とかじゃない。

 応援団が主に練習をしている、校舎の裏庭で恋愛トークをぶっこんできた。

 渡り廊下や、もしかしたら校舎の空いている窓から誰かが聞いているかもしれないのに、なんでこの人はまあまあボリュームの大きな声で聴いていくるのか。

 今は、応援団の練習の休憩中。

 だから、応援団の人だって聞いているというのに。

 虎鉄くんはあの筋肉から察せられた通り、体力おばけだった。

 だからいくらでも話せるのかもしれないけど、こっちはまだへとへとだ。

 だというのに、こっちのことなんてまるで見えていないかのように平然と話しかけてくる。

 私にはまねできないな、この図々しさは。

「確かに、そういう話していないよな」

「流石は虎鉄。俺達が訊けないことを平然と訊いてのける! そこに痺れるぅ! 憧れるぅ!」

 なんだか先輩たちも盛り上がっているんだけど。

 なんですかね。

 私のことなんかそんな興味があるのか。

 きっと男子校にいる女の先生がモテるのと同じ現象なのだろう。

 たまにジュースを買ってもらったり、お菓子をもらったりしている。

 餌付けかな?

 お菓子は私が食べたいなー、と小さく呟いたら次の日に先輩が持ってきてくれたのだ。

 なんとうか、私よりもよっぽど乙女なんだが。

 いい人なんだが。

 名前は正直憶えていなくて、申し訳ない。

 お菓子をもらった恩で憶えないとな。

 人の名前を覚えるのって難しいんだよなあ。

「好きな人、好きな人は――いないよ」

「そっか……」

 虎鉄君は視線を落とす。

 まあ、好きな人はいるんだけど、正直にいうのもあれか。

「やったああああ!」

「俺にもチャンスがあるってことか!」

「ねぇよ! 俺だよ、俺!」

 先輩たちの声全部丸聴こえなんですけど。

 なんだか最初はモテている私? とかって調子に乗ってみたんだけど、ここまでくるとからかわれているようにしか思えなくなってきた。

「あっ、野球部だ」

 誰かの声にドキリとする。

 私が首を回すと、確かに野球部がいた。

 ユニフォームを着ていなくても分かる。

 坊主頭と、それから服の上からでも分かる筋肉質な肉体で。

 複数の野球部の人達が渡りそうかを歩いてくる。

 その中には私の意中の相手である犬塚先輩もいた。

 はあ。

 やっぱり何度見てもかっこいい。

「え?」

「どうした? 安藤?」

「ううん、なんでもない」

 驚きが思わず声に出てしまった。

 その驚いた理由を虎鉄くんに吐露するわけにはいかない。

 彼になんて説明していいのか分からない。

 私だってよく分かっていない。

 子の胸のドス黒い感情を。

 痛みを。

 犬塚先輩の横にちゃっかりいたのは、女子。

 しかも、見知らぬ女子ではなく、よっちゃんだった。

 距離が近い。

 たまたま会ったとかじゃない。

 それなら、一言二言交わしただけで終わるはず。

 それなのに、普通に話している。

 野球部の人達もそれが違和感と思っていないようで、普通に歩いている。

 自分は何を目撃してしまったのだろうか。

 よっちゃんからは何も聞いていない。

 私が必死こいて応援団に入って練習しているのは、何のためか。

 そのことをよちゃんは知っているはずだ。

 犬塚先輩と仲良くなっているのなら、一言あってもいいはずだ。

 それなのに、どうして?

 私は、まるで裏切られたような気持になった。


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