14.応援団
応援団の練習は、毎日ある。
だが、土日は自由参加だった。
土日までやってもいいが、そこまでやるとオーバーワークになるからという理由らしい。
私はやってもいいという気概だったが、猫山くんには慣れてからでいいと言われた。
そんなことないのになあ、と内心では思っていたが、結果としては彼の言うとおりだった。
「かはっ」
蛇口の水を思い切り吐いた音である。
女子にあるまじき音声だが、そんなもの関係ない。
とにかく水が欲しかった。
普段は優雅に、蛇口の水なんか美味しくないよね。
自動販売機とかなら、水なんて百円とかで売っている。
それを買った方が良くない?
ミネラルウォーターじゃないと飲みたくないとかちょっと思っていた。
だけど、今は蛇口を捻った水だけで満足だ。
練習初日。
入部届を出したら、えらく応援団に歓迎された。
全員が男子だったからというのもあるのだろうか。
それとも、応援団の人が数十人しかいないこともあるからだろうか。
とにかく手厚く歓迎されたお蔭で、私は少しばかりやる気が出た。
ちょっぴりちやほやされて、オタサーの姫ってこんな風に気分がいいのかー。だったらいいかもなんて思っていた。
練習に参加するように言われた時も、いきなり? そんな入部届を出したその当日にいきなり練習するなんて、大丈夫かな? ぐらいの心配しかなかったけど、断れるような雰囲気ではなかったので、体育着に着替えて練習した。
だけど、想像以上にしんどかった。
応援団の一つ一つの動きのキレが、私とは全然違っていた。
適当に手を振っているのではなく、物凄い速度で腕を動かし、それでいてちゃんと静止させる。
書道で、とめやはね、があるとないとでは全然字が違って見えるように、みんなの動きは綺麗だった。
息もそろっていた、私だけがわたわたしていたせいで、あまりにも練習についていけていなかった。
ひどすぎたせいで、全体練習ができずに、一年だけでの練習になった。
申し訳なさで一杯だった。
私がいなければ、全体練習できていたのに、こんなじゃどうしよう。
先輩たちも困っているようだった。
「猫山は普通にできていたからなあ……」
とか小声で言われてショックだった。
というにも、始業式に入ってから、まだ日が浅いせいか、一年生は私と猫山くんしかいなかったのだ。
二人きりで練習するなんてロマンチック! とかそんなことは思えなかった。
ある意味先輩たちよりも厳しかったし。
猫山くんは自分ができるから、私が手を抜いていると思っているのだろうか?
どうしてできないのか分からないように、厳しめに言ってきたのだ。
だけど、体勢だけできつかった。
中腰になりながら、拳を突き上げながら応援するというものがあって、それがかなり長時間あったのだが、膝への負担が尋常じゃない。
折れそうだった。
ただ拳を突くような動作ひとつとっても、もっと振りしぼるように。
力強くと言われ。
一番できなかったのは、大声を出せと言われた時だろうか。
腹から声を出せと言われても、友達さえそんなにいない私が声なんてでるわけがない。普段、小さな声すらそんなに出していないのだから。
技術的にとか、体力的に後れを取るなら分かる。
そんなところで足元が救われるとは思わなかった。
一回声が裏返った時なんて、ぶふぉ、と先輩に笑われてしまった。
恥ずかしいなんてものじゃなかった。
悪気はないだろうけど、隠すようなその笑いが一番傷ついた。
思っていたのとは全然違って、本当にキツイ。
身体がついていけない。
腕なんてまだプルプル震えているし。
節々に傷みが走っている。
明日になったら筋肉痛になっていそうだ。
先輩からは入念に自分の身体をマッサージしておくように言われたけど、そんな専門的知識ないんだけどなあ。
どうやってマッサージすればいいのか。
適当に揉んでやればいいのだろうか。
「おい」
「わっ」
蛇口を文字通り浴びるように飲んでいた私は、いきなり声をかけられて驚いてしまった。
ブシャッと勢いよく飛び出した水は、声をかけてきた相手にもろにかかってしまう。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、こっちこそ悪ぃ。変なタイミングで声かけちまったな」
水をかけてしまったのは、久しぶりに会ったような気がする虎鉄くんだった。




