17 照れ隠しと幸せのアメ
「まあまずは座ってください。みんな、彼女に椅子を用意してあげてくれ」
「「「はーい!」」」
青年の呼びかけに子供たちが応え、私のために椅子を用意してくれた。
エルサとルークを、ついでに用意してくれた敷物の上に寝かせて私が椅子に座ると、向き合うように椅子を用意した青年が、ゆったりとした仕草で座り込む。
「さて、では早速本題の方を話させてもらってもーーー」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ーーーと言いたいところですが、まずはエルサさんとルークさんですね」
いきなり話を始めようとしないでほしい。なんだか色々知ってそうだけど、まず私には優先したい事がある。
「エルサとルークを助けないと!」
「分かっています。では先に、エルサさんから起こしましょうか。シーナさん、あなたが起こしてください」
「え?いや、でも私……」
悔しいけど、私は魔法が使えないんだ。虫のいい話なのはわかっているが、ここはどうか二人を治してはくれないだろうか。
「その、魔法が使えなくって、その……」
「へえ、魔法が使えないんですか?それはまた珍しいですね……ところで」
「な、なに?」
「魔法が使えない理由、ご存知ですか?」
「っ!!」
魔法が使えない理由だって。そんなの、いくら調べたって分からなかった。エルサもルークも分からなかったし、図書館で調べても、そもそもそんな前例は存在していなかった。だから、私が魔法を使えない理由は、これから一生わからないままなんだろうって、そう思っていた。
「し、知らない!もしかして知ってるの!?私、ずっと気になっててーーー」
「ははは、まあ私も知らないんですけどね」
「……え?え?」
「ははは、まあまあ。ちなみにですけど、エルサさんは多分、シーナさんが呼びかければ起きると思いますよ。試しにやってみては?」
な、何なんだこいつ。人をおちょくってるのか。これでも初対面での印象は「なんかミステリアスな感じ……」だったんだぞ。女の子みたいだけど。いや女の子だった。
それに加えて、呼びかければ起きる?そんな訳がない。私は見たんだ、エルサが何度も、何度も叩きのめされるのを……
「そんな訳ない、そうやって、見てないから言えるんだ、エルサが一体どれだけ酷い目にあったか知らないから!」
「ええ、知ってますよ、彼女が一体どれだけ酷い目にあったのか。そしてシーナさん、一旦頭を落ち着けてよく見るべきです。ほら、エルサさんの体、よく見てみると、土汚れなどがついてるだけで、傷はほとんどないでしょう?」
「なっ、そんなはず……!」
私は慌ててエルサの元へと駆け寄った。顔についた汚れを手でぬぐい、服の下や見えるところをよく観察してみると、ほとんどどころか、傷一つついていなかった。
「ほんとだ……」
「ええ、理由は私にもわかりませんが、それは本人を起こしてから聞くのが一番早いでしょうね。……それではどうぞ、呼びかけてみてください」
「………………エルサ?」
言われた通りに呼びかけてみる。しかし、エルサは起きない。
「ねえ、ホントに起きるの?」
「一回で起きるとは言ってませんよ」
「むう……じゃあ、エルサ!」
もう一度、今度は大きく呼んでみる。しかしエルサは起きない。
「エルサ、エルサ、エルサ?エルサ!エールサ!エールーサー!エッルサっ!エルーサー!エ、ルサー!」
「ふざけてます?」
「うっさい!黙ってみてて!」
これでも真剣なんだ、黙ってて欲しい。少しでも変化をつければ、なんか効果あるんじゃないかって思っただけだし。
「おーい!エルサー!早く起きてー!」
「なかなか起きないですね」
「っ……!なかなか起きないですね、じゃないでしょ!こっちがどんだけ本気でやってるか……!」
「わー!剣を抜くのはだめですって!」
「うるっさい!さっきからなんなのさ!魔法が使えない理由も匂わせだけして知らないし、結局エルサも起きないし、人のことを馬鹿にするのも大概にーーー」
「う、うーん……」
「っ!エルサ!!」
私は剣を放り捨ててエルサのすぐ横にしゃがみこむ。仰向けのエルサの顔を真上から覗き込むと、エルサの目が瞬いた。
「シーナちゃん……?」
「エルサ!エルサ!よかったー!!生きてる!ホントによかった……!ねえ!一応確認だけど、怪我はない?痛いところとか、具合が悪いとか……そうだ、何があったのか覚えてる?覚えてないなら私が教えてーーーいや、やっぱなんでもない、怪我があるなら先にそれ治した方がいいよね!それじゃエルサ、とりあえず怪我があるかどうかだけでも……エルサ?」
「……」
なんだか様子がおかしい。目を覚ましたはいいもののうんとも言わないし、それに、まるで目の焦点が合ってないというか、どこか心ここに在らずというか、私と目線が合っているのにも関わらず、どこか遠い所を見ているようだった。
「エルサ、どうしたの?やっぱ起きたばっかりだし、まずは安静にしておいた方がいいのかな……」
「ーーーーーー……」
「え?」
エルサがとても小さな声で何か言っている。それはわかるのだが、その内容が聞き取れない。けれど、なんだかこれはとても重要なことを言っているのではないかと、私の直感が言っている。
私はその内容を聞き取るべく、エルサの口元へ耳を寄せた。
「ーーー広げて潰れて、冷たい感情がフワリ、フワリ。伸ばした手、捕まえてみせて、フワリ、フワリ。逆しまの空、弾けた鳥、空模様を描いてフワリ、フワリ。消えた泡の数だけ、浮かんで弾けて、小さいままで、フワリ、フワリ。ーーー大王の虚より溢れ出た、無辜の虚樹、無窮の空より舞い降りて、フワリ、フワリ。孤独の種、小さな鉢に舞い降りて、逆子の忌まわし、フワリ、フワリ。凍った煙、広げて潰れて、伸ばした手、フワリ、フワリ。……強い私、弱い私。大王の虚、繋げて閉じた」
その時、エルサの目に変化が起きた。眼球が黒に染まり、黒目が緑色に変化する。
それはとても美しくて、そして、恐ろしかった。
「……シーナちゃん?」
「っ!」
エルサの目は通常のものに戻っていた。まるで幻のように一瞬で、悪い夢を見せられていたようだ。
「シーナちゃん、どうしたの?」
「ーーーなんでもないよ。おはよ!エルサ!具合はどう?」
いや、今はそれよりも、エルサの体の状態を確認するのが先決だ。もし不調があるのなら、すぐに治さないと。
「具合?具合は、うーん、問題ないかな?」
「そ、そうなの?実は裏でこっそり我慢してるとか、そういうのもない?」
「大丈夫だって、エルサ、すごく丈夫だから!」
丈夫って言われても、そんなの限度がある。あんなに殴られて、それで傷一つない、あまりに現実味のない話だ。
「おはようございます、エルサさん」
「……誰?」
「はい、私の名前はウィルです。ははは、ようやく自己紹介できました」
「ようやく自己紹介……?シーナちゃん、まだしてなかったの?」
「えーと、まあそういうことになるね」
「ちょっと待って、じゃあ、なんでこの人は私の名前を知ってるの?てっきりシーナちゃんが教えたんだと思ったけど、そうじゃないってこと?」
「まあ、そういう見方も、できるかなって……」
「はあーーー…………」
いや、違うんですよ。エルサとルークの事が心配だったから、そこまで頭がまわらなかったわけなんですよ。それに、ちょっとおかしいなーとは思っててですね、はい。
「いやもうホント、面目次第もございませんって感じです」
「そういうのいいからさ、次から気をつけて」
「ところで一つ、いいですか?」
「なに?」
「シーナさんの注意力のなさを指摘するのもいいですけど、ルークさん、今結構危ない状況ですよ」
「「あっ!」」
「エルサさんは何故か怪我はないですけど、ルークさんは普通に重症ですからね。別にこのまま放っておいても良かったんですけど、それだとお二人が困りそうだったので」
「……なんか鼻につく言い方だなあ」
「まあまあ……エルサ、治せそう?」
エルサはルークの体に手を当て、全身の傷を隈無く見ていった。
「かなり危ない状態だけど……なんとかなりそう」
その言葉が聞けてよかった。
エルサは地面から植物を生やし、その植物から絞りでた液体をルークの傷口にかけていく。
すると傷口はみるみると塞がっていき、しばらくして全身が完治した。
「これでよし、と。あとは目が覚めるのを待つだけだよ」
「よかったー、これで一安心だね。……ねえ、エルサ」
「ん?なに?」
私は聞きたいことがあった。二つあって、その二つとも、今すぐにでも聞きたいと思っていた。けれど、それも言い淀んでしまう。
一つは隠したがってるようで、もう一つは、そもそも触れて良いのか、悪いのか。その善悪がつけれなかった。
「えーと……いや、やっぱりなんでもなーーー」
「うんうん、シーナちゃん、わかってる。エルサは……わかってるから」
何が分かっているのか。分かっているなら、教えてくれても良いのではないのか、それとも、分かっているから教えられないのか。
「エルサね、二人に隠してることがあるの。それは凄く辛くて、エルサも、それを二人に言いたいと思ってる。それで今、シーナちゃんはそれを聞こうとしているのも、わかってる。……けど、ごめんね、やっぱり言えないや」
「な、なんで?辛いって今言ったのに、どうして、言ってくれれば相談でも、なんでも、私に出来ることならなんだってするのに。それは私だけじゃない、きっとルークだって!」
「うん、でもね、エルサがそのことを、ちゃんとわかってないから……理解してあげられてないから。きっと言葉にしようとして、失敗しちゃうと思うんだ。上手く伝えられなくて、上手く伝わらなくて、もどかしくて、エルサはそれが嫌なの。不完全なままで、向き合えきれないままだから、二人に伝えても、それはぐちゃぐちゃになっちゃうから……言葉に頼らなきゃ今は伝えられなくて、でも言葉じゃ伝えられないのがわかってて……だからやっぱり、ごめんね」
私は返す言葉が見つからなかった。だからそこから先はとりとめのない言葉ばかりが口をついて出て、ただただ薄っぺらい音を並べ立てている。ただの音ならばそれに意味はなくて、意味がないなら、言っていないのと同じじゃないか。
感情ばかりが先走って、心はどこか遠くにいた。
「ここは……どこだ?」
「ルーク!」
ルークが目覚めた。その声は苦しげだったが、意識が戻ったのだ。
「ここはどっかの教会だよ。それよりも大丈夫……じゃないか、どう?起き上がれそう?」
「あー、いや、なんとか大丈夫そうだ。……てか、なんで傷が治ってんだ?」
「エルサが治したからね、そりゃもう凄かったよ、瞬よ瞬」
「……一瞬、ねえ」
「…………」
「あれ、あれ?」
なんだか重い空気だ、勘弁して欲しい。折角全員無事だったのに、ここは喜ぶべきじゃないのか。
「ま、呑気なお前は気にしなくていいんじゃねえか?」
「呑気ってなにさ、言うじゃん」
「別に悪い意味で言ったわけじゃ……いや、どう考えても悪い意味だな、すまん、馬鹿にした」
「え、お、おう……やけに素直じゃん」
「そういうお前こそ、暗い顔してどうした。らしくもねえ」
そんな顔に出てたかな?これでも、一応隠してたつもりだったんだけど。
顔をぷにぷに弄っていると、もどかしそうな顔をしたルークがどこかへ視線を向けて、そっぽを向いた。
「まああれだ、何があったか知らねえけどよ、言いたい事があるなら言えって言った本人だからな、こっちから聞かなくたって、そのうち向こうから言うだろ」
確かに、きっとエルサの方から切り出してくれるだろうという考えは信用出来る。何せそういう性格だ、それくらいは今までのことで知っている。
ただ……そんなエルサでも、弱気になることだってあるはずだ。そんな時、踏み出した一歩が小さくて、そして袖を握る手があまりに弱々しくて、こちらが気づいてあげられない……そんなことがないように、私たちはエルサを見ていてあげなきゃいけない。そうしなきゃいけない。
「……ごめん」
「気にすんな。今回はお互い様だ」
「そうそう、気にしなくていいよ!大事なことだもん、タイミングは自分で見つけるのが一番!……あ、そうだ」
「どうした?」
ふと、ついでに思いついたことがあった。そんな大したことではないのだが、話の流れで頭の中に思いついたことだ。
「ルークも、実はなんか隠してあったりする?」
「……まあ、一応な。だが、俺は言わねえぞ、俺にだって、言いたくないことの一つや二つ、あるんだからな。それを言ったらお前こそ、なんかあるんじゃないのか」
「えっ、まあ、そりゃねー……」
そう、私も隠してることがある。実は転生者とか、前世は男だったとか、前世の記憶があるとか……まあ記憶に関しては、抜け落ちてる所も結構あるけど。
でも、正直個人的には……
「別に私は言ってもいいんだけどね。隠し事」
前までなら心の準備的な意味で言えなかったかもしれないけど、今なら、というか今の二人との関係なら、言っても構わないかな、って思ってる。
ついさっき、エルサの本音も少し聞けたしね。むしろ私から話して、二人が話す切っ掛けになったりしないかなって思ったりもしてる。
「それじゃあ言うね?実は私ーーー」
「わぁー待って待って待って!」
「ちょっと待て、落ち着け」
二人とも必至に止めに入ってきた。そんなに言いたくないのか……
「待ってくれ、お前にも同じように隠し事があって、それを話す理由、意図があって言おうとしてるのも分かってる。お前は脳天気なやつだが、嘘はつかねえし、案外気の利く奴だってのもわかってる。だがな、俺らにとっちゃ結構大事なことなんだ。お前はもう克服したのかもしれねえが、俺らはまだそこまでいってない」
なるほどね、私が言い始めたら、その後に続いて言わなきゃいけないみたいな雰囲気になるかもしれないしね。まあそれを狙ったんだけど。
「だから俺は、エルサが言ったら俺も言う事にする」
「なっ、ちょっと!なんでそうなるのさ!」
「うるせえ!元はと言えば、なんでもかんでも隠したがるお前が悪いんだろうが、観念しろ!」
「いやだー!言いたくない!言いたくない!もうわかった、それじゃあエルサも、ルークが言うまで言わないから、そういうことで」
「なんでそうなる!お前はガキか!」
なんて醜い争いなんだ……でもこの様子だと、多分私が言っても二人は話してくれないだろうし、言わなくても良いかな。
ま、言うんですけどね。
「それじゃあ、実は私ね……」
「おい、だから言うなって」
「うんうん、違うよ、今から私が言うのは、別に二人の為じゃなくて自分のため、私が二人に言いたいから言うの。だから私が言ったあとに続く必要もないし、ただそうなんだ!ってなってほしいだけ。なにか問題ある?」
「……シーナちゃん、いつからそんな性格悪くなったの?」
「ふふん、いつからだろうねー」
ふん、言いたいだけ言えばいいさ、エルサもルークも、意気地になって言わないのが悪い。
そもそも、エルサには今までずっと隠し事してたっていうのに凄い傷ついたし、ルークに関しては急に気の利く奴だとか褒めてくるもんだから、ちょっと仕返ししてやりたくなっただけ。
そのあと、二人に私は転生者であることと、前世では男性であったことを伝えた。
「それ……ほんと?」
「いや、そんなの信じられるわけ……いやだがな」
「ホントにホント、私は転生者で、前世では男で、その時の記憶がちょっとだけ残ってる、全部ホントのこと」
やはり簡単には信じられないらしい。しかし、だんだんと信じ始めてきたようで、二人の様子が変わってくる。
「ねえ、シーナちゃん……一つだけ聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
エルサが改まって聞いてきた。何を聞こうとしているのかその内容は想像できないが、今の私はできる限り正直に答えるつもりだ。
「私と村で遊んだ時のことって、覚えてる?」
「うん、多すぎて、どれのことを言ってるのかはわかんないけど」
「別にどれでもいいの、それじゃあ、今のシーナちゃんは……元のシーナちゃんて、言えばいいのかな。元のシーナちゃんは、どこかに行っちゃったの?それとも、ずっと、シーナちゃんの中に……そこに、いるの?本当だったらこうして話しているはずだったシーナちゃんは、どこにいるの?」
「それは……」
答えられなかった。そもそも、転生というものをそういう風に捉えたことがない。
でも、確かにそうだ。私の場合、普通の転生とは違っていた。私の意識と記憶は、産まれた直後からではなく、人生全体で見ればつい最近目覚めたものだ。
つまり、私が目覚めて記憶を取り戻すまでに、確かに『シーナ』として過ごしていた少女がいたはずだ。
……そうだ、目覚めた直後、私は違和感を感じていたんだ。それは動いたり喋ったりする度に訪れる不思議な感覚。あれは今思えば、転生した直後で体に慣れていなかったからではなく、『咲十』と『シーナ』が同じ体に重なって存在していたからじゃないのか。
じゃあ、今の私は……本当に『私』?それとも『俺』?私は『私』だと思っていた、けれど、それは違くて、自分を『シーナ』だと思い込んでいる『咲十』なんじゃないのか?
「あ、ごめんね、答えられないなら、それでいいの。うん、エルサも、それで納得するからーーー」
「待って!……待って。ごめん、それに……ありがと。私もエルサのおかげで、向き合わなきゃいけないことが見つかったかも」
「そ、そうなの?それなら、良かった……って、言っていいのかな」
「うん、言っていいんだよ。だから、今はエルサの質問に答えられないや。……へへ、でも、これでみんな一緒だね」
奇しくもそれぞれが隠し事をする形になった。
そうだ、みんな、三人とも一緒。それぞれ隠し事をしていて、みんなそれを分かってて、知らないふりをして過ごすんだ。そしていつの日か、それを吐露したくなった時に、全力で向き合って、ぶつかり合って、それでみんなの悩みが解決出来れば、それはきっと……素敵なこと。
それは私の一つの本音だった。
「……かあー!くっせえくっせえ!あー恥ずかしい、やめてくれそんなのは、柄じゃねえんだから」
「な、なにさ!そう言われちゃ、こっちだって恥ずくなるじゃん!」
「ふふ、そうだよシーナちゃん、柄じゃないよ恥ずかしい」
「エルサまで!?私の味方はいないの!!?」
二人とも酷くない?確かにちょっとクサイセリフだったかもだけどさ、そういうのは言わないのが優しさじゃん?
でもまあなんというか、楽しい……というか、いや、楽しいとも違うや、なんて言えばいいんだろ……嬉しいも違うし、感謝でもないし……そうだ。
これはきっと、幸せと呼ぶものだ。きっと過去の人たちはこんな時、幸せだって言ってきたんだ。
「……!!」
喉の奥で甘い味がした。甘くて甘くて、思わず呑み込んでしまったけど、一瞬で終わってしまったのは、ちょっともったいなかったかな。
できるなら、次はもう少し、舌の上で転がして味わってみてもいいかもしれない。……きっと甘すぎて、すぐに呑み込んでしまうだろうけど。
「楽しそうにしてるところ申し訳ないんですが」
とそこで、すっかり蚊帳の外だったウィルが入り込んでくる。
「…………なに」
「いやあ、機嫌悪そうですね。あれですよ?私も邪魔したくなかったんですけど、こちらにも事情というものがあってですね」
「別に……楽しそうになんかしてないし」
「そうですか?まあ、そういうことにしておきましょうか」
「それで、事情ってなに?」
「ええ、これからご説明させていただきますね」
すると、先程までの雰囲気はどこにいったのか、一転して目付きが鋭く変わった。
それを見た私たちも空気を変えて、ウィルの話を聞く体勢になる。
「まず、私の目的は大蜘蛛男の討伐です。そして三人には、その為の力を貸していただきたいのです」
大蜘蛛男の討伐……なんとなくそんな気はしていたが、実際にそう言われると、やはり少し不安がある。
けれど、私たちはピンチを救ってもらった恩もある。その恩を返すために、今は一旦、幸せな時間はお預けだ。
「わかった……話を聞かせて」
そうして、私たちはウィルの話を聞くこととなった。
変な会話