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ラウディヴの声  作者: オハコ
4/5

夜明け

桐紋が貼られた演台の後ろに、初老の男性が立っている。

その男はこの国の行政の長、つまり総理大臣であった。


日曜の午前、僕と麻央は遅めの朝食を食べる手を止めて、リビングに置いてあるテレビを注視していた。

テレビの中で総理大臣が声明を読み上げ、その内容をアナウンサーが淡々とした口調で説明していく。


「――この声明の中で総理は、死後の世界の存在について、日本政府は限定的に認めていく方針であることを発表しました」



クリス達、ISPRがまず初めに取り掛かった事は犯罪の解決――具体的には未解決の殺人事件に対する情報提供であった。



例えば超能力者や霊能力者を自称する人物が、

未解決事件の解決の為にその能力を駆使する、などと言う話は、

テレビ番組などで見たことがある人も多いと思うが、

そのほとんどは芳しい成果をあげておらず、飽くまでエンターテイメントの域を出ていなかった。


しかし、ISPRが情報提供を行った事件に関しては、そのほとんどが事件の解決へと結びついていた。



また彼らは事件解決までの様子をネット上に公開することで、

自分達の行いを積極的に世間に宣伝していった。


これらは当時大変な反響があり、日本のテレビ番組などでも幾度となく放送された。


2年前の取材で、クリスが語った言葉を思い出す。


「彼らは、犯罪の撲滅こそがより良い社会を築くための礎であり、

また自分達の存在を世界に認めさせる第一歩として最適な方法である、と考えています――実はもう既にその試みに我々は着手しているのですが」



ISPRがイギリス国内だけでなく、EU圏や米国の未解決殺人事件の解決に尽力し、その功績が世間に認めだされた頃、彼らは通信機の作成方法や使用手順に関する情報を、自分達のサイト上に公開した。


まるで自分達は己の名誉や富のためではなく、

人々への啓蒙のためにこの行いを実践しているのだ、とでも言うかのように。



この通信機がISPRの専売特許ではなくなるのと同期するように、

各国の未解決殺人事件の件数が格段に減少し始めた。


それは我が国も例外ではなかった。

日本の司法は公には認めてはいなかったが、

「通信機」を活用している事はここ2年間の警察白書の統計を見れば、

火を見るよりも明らかだった。


こんな短期間のうちに「突然、世界中の警察が優秀になった」などと言う話を、

一体誰が信じるだろうか。


日本でも国会の場で、この件について議論される事態が起きたのは記憶に新しい。



また米国では、通信機を捜査に活用していることを、複数の自治体警察が公に認め始めていた。


そのいくつかを、僕もネット上の動画共有サイトで見たことがある。



カウボーイハットを被ったアメリカの郡保安官が、スイッチを捻って通信機を作動させる。

通信機の赤いランプが何度か明滅した後、緑色のランプが点灯する。


「この緑のランプが点いてるのは、彼らと話をする準備が出来た合図なんだ」

保安官は得意そうに言いながら、通信機のマイクに向かって話しかける。


「やあジェイムス、今日はいつも事件の解決に協力してくれている、お礼を言いたくてね・・・それから地元の学生が、ぜひ君の話を聞いてみたいと言ってるんだ」


保安官がジェイムスと呼びかけたそれは、やや間延びした太い男性の声で答える。


「どういたしまして、我々も君達の社会に貢献できて嬉しい、

今後もお互いにより良い関係を築いていきたいものだね」


保安官は笑みを浮かべながら、

カメラに向かって「ジェイムスは生真面目な奴なんだ」と、語りかける。



因みに、僕を含むアトランティス編集部が調査を行って分かった事だが、

通信に応える霊は、この保安官が話しかけているジェイムスだけではなく、他にも大勢いる。


また彼らの生前の性別や国籍もバラバラであった。



保安官の隣に立っている男子学生が、緊張した面持ちでジェイムスに話しかける。


「あなた達は僕達の社会を良いものにする為に協力したい、と言っていますが、

なぜもっと早くから、こういう事をやらなかったんですか?」


「我々の中にも、君達と同じように様々な意見を持った人々がいる、

そしてこれまでの間、君たちに積極的に関与する事は禁止されていた」


「そうすると、今は禁止されていないという事?」


「多くの議論を経た結果、我々は君達の社会をより良く成長させるために、

君達に関与する事が許されるようになった」


「神様っているんですか?・・・天国とか地獄は本当にあるの?」


「申し訳ないが、その話については宗教的対立の原因になる可能性があることから、答える事を禁止されている」


ジェイムスはそう言って一呼吸置いてから、次のように応えた。


「ただ生前、殺人を含むいくつかの凶悪な犯罪を犯した者は、死後も我々の世界で罰せられる事が決まっている――つまり、罪から逃れる事は“絶対”にできないという事だ」



各国で殺人の解決事件の件数が飛躍的に上昇すると同時に、

殺人を含む凶悪犯罪の発生件数が大幅に減少していった。



麻央がトーストを齧りながら、テレビを無言で見つめている。

画面の中では総理大臣が力強い声で、声明を締め括ろうとしていた。



「日本政府は、死後の世界の人々が我々に対し友好的な存在である事を確信するに至りました、より良い社会を発展させる為、今後、我々は彼らとの交流をより一層深めていく所存であります」



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