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ラウディヴの声  作者: オハコ
3/5

取材

例の団体、正式名称「国際心霊研究会」(通称ISPR)への取材はビデオチャットで行われた。

ビデオチャットでの取材を希望したのは僕で、理由は誌面に掲載する写真が欲しかったからだ。


僕はマイク付きのヘッドホンを頭に付けると、

約束の時間より数分ほど早目に相手のアカウントにコールする。



暫しの間を開けた後、回線が相手のアカウントと接続され、ソファに座る中年男性の姿が画面に映った。


「初めまして、月刊アトランティス編集部に所属する小西亮介です、

本日は私共の取材をお受け頂き、ありがとうございます」


「初めまして、国際心霊研究会の副会長を務めるクリス・カーターです」


クリス・カーターと名乗るその男の風貌は、頬がこけて痩せており、

顔の堀の深さのために目も窪んでいたので、まるで骸骨の様に見えた。


まさか、この男自身が幽霊だとでも言うんじゃないだろうな?


そんな下らない冗談を頭の片隅で考えながら、僕は取材を継続する。



「まず初めにお伺いしたいのですが、メールでもお伝えした様に、今回の取材を動画に録画させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ、静止画等をそちらの誌面に掲載していただいても結構です」


「ありがとうございます、それでは取材を開始させてもらいますが、今回私達があなた方、ISPRに取材を行う理由は、先月末にそちらのサイトで、死後の世界の証明に成功した、という声明を見て、大変興味を持ったからです」



「大変興味を持った」というのは誇張で、

実際はただのページを埋めるためのネタ探しの一環でしかない。


佐藤編集長は興味を持っていたようだが、僕自身はこの件に関してはかなり懐疑的だった。



「ええ、ご覧いただいた通り、我々は死後の世界の存在、延いては霊魂の存在の証明に成功しました。」


「それは具体的にはどのように証明したのですか?」


「サイトに掲載されていた通信機の画像はご覧になったと思いますが、その通信機によって死後の世界の人々と、有意義なコンタクトをすることに成功したのです」


「それはつまり、EVP現象の事でしょうか?」


「そうですね、我々はその分野に関しては最先端の技術を持っています」



やはり胡散臭い話だな、と言うのが正直な感想だった。


確かにISPRはEVP現象を最も早い頃から研究していて、

心霊の分野において歴史のある団体である事も確かだ。


しかしEVP現象で「霊の声を記録した」などと言う話はこれまでにもう何度もあったことで、

それを公表したからといって、世間が死後の世界の証明と認める事態に至った事は一度もない。


記録された音が偶然人の声に似ただけだとか、

あるいは無線の混信といったような、様々な批判がなされているためだ。



実際、僕もEVP現象を記録した音声を聞いたことはあるが、

あまり人の声らしく感じなかった、というのが正直な感想だ。


それらの音声はノイズの中に混じっていることもあって、酷く聞き取り難いのだ。


また、霊の音声とされている物のほとんどが酷く早口で、

しかも内容が支離滅裂であることも、

EVP現象に批判的な人々の説を補強する材料となっていた。



「その、実は私も何度かこれまでにEVP現象で記録された音声を聞いたことがあるのですが・・・なんと言うか、それらの多くは早口で聞き取り難かったり、内容が支離滅裂である様に感じたのですが・・・」



こんなことを言えばクリスが不快に思い、取材に非協力的になるかもしれない。


その可能性はもちろん考えていたが、良質なネタかどうかを吟味するためにも、

この点について指摘することは避けられなかった。


また公私混同であると批判されても仕方ないが、

「自称」検証派である僕の好奇心を満たすためにも、

「これまで」と「今回」の何が違うのかを明らかにする必要性があった。



「ええ、確かにこれまでに記録された物の多くは、あなたの言うとおり信憑性に欠けていたことは、確かであったと思います」


クリスは僕の指摘がもっともだ、とでも言うように何度か頷く。


「しかし、今回はそれらとは全く違うと言って良いでしょう、我々は、その存在を社会に認めさせるに十分な用意ができた、と確信しています」


「具体的には、どういうことでしょうか?」


「それを理解して頂くためには、まず本件の経緯についてお話したいのですが、よろしいでしょうか?」



クリスはいかにも英国紳士といった風に礼儀正しい言葉遣いをしていたが、

その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


僕は彼のその表情を見て、

これはいつもの「眉唾物のネタ」とは違うのではないだろうか、

と直感めいたものを感じ、背筋を震わせた。


僕にとってはこれまで無縁なものであったが、

いわゆる特ダネを掴んだ記者というのは、

こういった感覚を味わっているのかもしれない。



「ぜひお願いします、読者だけでなく、私自身も大いに興味を感じています」


クリスは僕の返答を聞きながら、満足そうに頷く。


「これについては我々は何度かこれまでにも公表していたのですが、我々はある死後の世界のグループと交信を試みていました、ほとんどの霊はまともなコンタクトが可能な相手ではなかったのですが、彼らは別でした」


その情報は僕も知っていた。

今から3年ほど前に、ISPRのサイト上で「有意な霊のグループとの交信に成功した」という内容の記事が何度か掲載されていたのを見たことがある。


ただ当時はいつもの「眉唾物のネタ」と考えて特に興味を示さなかったが。



「我々は彼らと何年もの間根気よく交信を続けました、そして四ヶ月ほど前に彼らからある指示を受けました・・・我々の世界と彼らの世界の通信を円滑に行うための通信機を作成せよ、と――あなたも画像をご覧になったと思います」


「ええ、サイト上に掲載されていましたね」


「通信機の作成自体はそう難しいものではありませんでした、概ねはある特定の周波数帯域をサーチし、そして発信するだけのものでしたから、しかしその通信機を使ったところ、これまでにないほど明瞭な音声を聞く事ができるようになりました」


クリスはまるでテレビショッピングの司会が、

商品を紹介する様な手振りで僕に訴えかけてくる。



「しかし、それだけで死後の世界の存在を証明できた、という事にはならないと思いますが?」


少し意地の悪い訊ね方ではあったが、悪意はなかった。

寧ろ、そんな程度の話で終わらないで欲しい、という期待が僕の心の中で膨らんでいた。



「あなたの言うとおり、その程度では全く大した証明にはならないでしょう、

否定的な人々の批判を覆すだけの要素にはなり得ない」


僕のその問いに、クリスは不快感を示す事もなければ、動じる事もない。

ただ不敵な笑みを浮かべ続けるだけだった。


もしかすると、この男は本当に確信できる「何か」を掴んだのかもしれない。

そんな思いが僕の脳裏を掠める。


「しかし通信が円滑になった事で、彼らと我々との間の情報のやり取りが大きく進捗しました、そして彼らは我々の社会にぜひとも貢献したい、と申し出てきたのです――つまり我々の社会に対する啓蒙です」


「啓蒙・・・ですか?」


一筋の汗が耳の後ろを流れ落ちていく。

編集部内の冷房は十分に聞いているはずだ。


クリスは僕の内心を読み取ったかの様に、実に満足そうな笑みを浮かべながら、

こちらを真っ直ぐに見つめて答えた。


「そう、あなたも確信するでしょう、死後の世界の存在――

そして、我々の社会がより良いものになる事を」



僕はマウスをクリックすると、「過去」に行った取材の動画を停止した。

動画の作成日は今から2年ほど前。


あの年の夏も、今年のように暑かったのを記憶している――


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