出会い
エッケハルト様に魅了されたはいいものの、彼の情報があまりにも少なかったため勝手に国王とのお話を書いてしまいました。
しがないババァの作る物語ですが、よろしければどうぞ。ホホッ
※この作品は2018/03/03にニコニコ動画にて放送された、RPタッグディプロマシーが元ネタになっています。
↓こちらのページの掲載許可に基づき投稿させていただいております。
http://ch.nicovideo.jp/takuge-ch/blomaga/ar1457711
執務室の入り口でじっと見つめあう二人の男。その身長差は実に七十センチにもなるだろうか。傍から見ればおじいちゃんと孫と言っても差し支えない光景であろうが、その実態は一人の国王とその御付の息子である。
二人の間に流れる異様な空気に、細身の男が割って入る。
「ゲーアノート様。こちら、私の息子にあたります、エッケハルトでございます。本日で十歳になるためお顔合わせをと思いまして。さぁ、エッケハルト、ご挨拶なさい」
「エ、エッケハルト・バーゼルでございます……!」
緊張しているのか、舌が上手く回らない様子のエッケハルト少年であった。それもそのはず、彼からしてみれば自分の父の上司であり、将来の自分の上司にあたる人物との顔合わせ。失礼があってはならない事くらい、バーゼル家の人間として骨の髄まで仕込まれている。
バーゼル家は元来ごく一般的な庶民の一族であったが、そう遠くない過去にチュールベリン王家から直に命を受けてその側近の一族になったと文献には記されていた。そう遠くない過去、と言ってもエッケハルト少年にとっては自分が生まれるより以前の話。言うなれば彼は生まれつきの御付の一族なのである。召使としての教育は筋金入りだった。
「ほほぅ、ご苦労だバーゼル君」
そう言って細身の男を一瞥した後、国王はすっとしゃがみ込んでエッケハルト少年の顔を覗き込む。国王の凛々しい瞳の焦点は、少年のキラキラと輝く紅色の瞳に合わされていた。
「なるほどなぁ……良い瞳だ……」
国王は納得でもしたかのようにうんうんと頷き、再び立ち上がって細身の男にこう告げる。
「十歳と言ったな。交代だ」
「はっ! ……は、はい!?」
国王の急な提案に、男は少し面を食らった様子である。が、すぐに整理し、こう問い直した。
「こ、交代と言いますと、その、役職を……でございますか?」
身振りを交えて自分の慌てようを一切隠す気のないバーゼル氏。よく見ると、傍らにちょこんと立つエッケハルト少年も彼と同じ目をしている。
「そうだ。役職の交代だ。ワシはこの子が気に入った!」
「し、しかし! まだこの子は十歳です! 王の側近として職務を全うするには些か幼すぎるかと……」
「なーーーにを申すか。おぬしがワシの側近になったのもほんの十二の頃ではないか。大差なかろう」
王の言う事ももっともであった。十歳と言えども、名門であるバーゼル家の跡継ぎ。どこへ出しても失礼の無い教育は施されていた。
「で、ですが国王……この子はその、特異体質でして……」
この単語に反応したのか、エッケハルト少年はハッとした後、その眼から光が消えていた。
「だから何だと言うのだ? ワシも特異体質ではないか」
「確かにそうですが……その……国王様は特別でいらっしゃいます故……」
「言うな言うな。あまり気持ちの良い物では無い。それに、特異体質というだけで既に特別なのだ」
特異体質。チュールベリンの民に時たま発生する現象である。病気なのか遺伝なのか、その実態は解明されていないのだが、総じてこの体質の人間は、何かしらの魔法に秀でている代わりに身体能力が非常に低い。
バーゼル氏の不安要素は、この身体能力にあった。実際、エッケハルト少年もこの体質の煽りを受けているのだ。
「体質の事に関しては心配するでない。ワシが一番心得ておるのだ! 今ここで命令を承知すれば、おぬしには三つ上の爵位を約束しよう」
聞いた途端、バーゼル氏の目つきが変わる。最初は、我が子をこうも早くして王に使えさせる事など考えてもいなかったため戸惑ったが、爵位が上がるとなると話は変わってくる。
これは決して汚い考え方というわけではなく、この国、この時代ではむしろそうあるべき、貴族として当然の考え方であった。国王としても、その点をよく理解しての提案であろう。
「か……かしこまりました。では、書類の作成を……」
しぶしぶ、といった口調ではあるが、バーゼル氏は一先ず国王の命令を飲み込んだ。
「おうよ! ワシは少しこの子と話したい。借りてもよいな?」
「承知しました……では、失礼します」
そう言ってバーゼル氏は、そそくさと部屋を後にした。
数秒間の沈黙と共に見つめあう二人。静寂を絶ったのは、国王の一言だった。
「エッケハルトだったか。これからよろしく頼むぞ」
ゲーアノートの威厳に当てられてか、少年は返事をする事すらままならない。よく見ると、その足は小刻みに震えていた。
「おぬし、さては緊張しておるな? はっはっは! おぬしの父も最初はそうであった!」
コクコクと小さく頷くエッケハルト少年。しかしやはり声が出てこない。いくら御付としての教育を施されていたとは言え、顔合わせだけの予定がこの状況なのだ、無理もない。
「うーーーん、そうさなぁ。どれ、一つ腰を据えて喋ってみるか」
言いながら、ドカッと重い腰を下ろす国王。さすがの巨体だ、胡坐をかいてようやく少年と同じ高さである。
目線が同じになったおかげか、エッケハルト少年の震えはピタリと止まっていた。まるで小動物である。
「さて、お近づきの印に、と言うと大袈裟かもしれんが、一つ手品を見せてやろう」
言いながらニッと笑ってみせる国王。エッケハルトの緊張を解してやろうとあの手この手を試しにかかる。
熊と見違える程に大きな手を、胸の前でそっと合わせた。国王の唐突ないただきますのポーズに、少年はきょとんと目を見開く。
国王のハアッという掛け声を合図に、合わせた手の平がぷくっと膨らんだ。そっと開かれた両の手の上には、小さなティーカップが一つずつ乗せられている。
「どうだ、驚いたろう? まぁ、特異体質のおぬしにはさして珍しい物でも無いか。はっはっは!」
「す、すごい……!」
二人きりになってから、エッケハルトが初めて声を上げた。どうやら手品が功を奏したらしく、国王も満足気である。
「ふっふっふ。もっと凄いぞ! エッケハルトよ、好きな飲み物はあるか」
ニンマリとした笑みを浮かべて少年に問いかけるゲーアノート。よく見ると少年の目が少し輝いている。次は何が起こるのかと、内心ワクワクしている様子だ。
「え、えっと……コーヒーが好きです!」
「はっはっは! 若いくせに渋いのぉ! ますます気に入った!」
笑っていた顔を少しばかり顰めて、まるで念でも送るかのように手の平に神経を集中させるゲーアノート。数秒の後、ピチョンピチョンという音がティーカップの中で響き始めた。
どこからともなく湧き出した黒い液体がカップの中で踊り、みるみるうちにその水位を上げていく。十秒と待たぬうちにカップは満たされ、そこには波一つ立たない綺麗な黒糖色のコーヒーが、二杯用意されていた。
「すごい……国王様、これは魔法でございますか?」
興味津々にカップを覗き込むエッケハルト少年。子供の好奇心とは面白い物で、最早先ほどまでの緊張など全く感じさせない。
「あぁ、そうさ。アモンシープ族の妻がおってな。つい先日教えてもらった。まぁ飲め」
言いながら国王は手をくっとエッケハルトの方へ押し出す。カップを受け取りコーヒーをすっと飲むエッケハルト。
「おいしいです!」
満面の笑みとはこいいう顔の事を言うのであろう、頬が緩み目がキラキラした、考えうる限り最高の笑顔であった。
「そりゃあ良かった。魔法ってのも、面白いもんだ」
言うと国王はもう片方のカップを指で器用に摘まみ、くいっと飲み干した。彼にとってはやはり小さすぎるようだ。エッケハルトに合わせたサイズだったのだろう。
「ワシに亜人の妻が二人いるのは知っておるか?」
唐突な話題の変更に少し面食らった様子のエッケハルトであるが、もう最初のような緊張感も無く、数秒の後に質問に答える。
「はい、竜胆とパフィオにお一人ずつと、父上からお聞きしております」
「うむ。さっきも言ったがこの魔法は、パフィオにいる妻から教わったのだ。人間にも分かりやすいよう、丁寧に教えてくれた」
パフィオ。チュールベリンの最西端に位置する、魔法の原初と言われる土地。そこに住む亜人であるアモンシープ族は魔法の扱いに非常に長けており、国王の妻はその最たるものであった。
「なぁ、エッケハルトよ。お前はこの国をどう思う」
再び唐突な話題の転換が入る。しかしエッケハルトは考えた。話の流れから推測される、国王の期待する答えは何か。十秒ほど考えた後に導き出された彼の回答はこうだった。
「国王もこの国も発展に非常に尽力されており、その功績は目に見えて素晴らしい物に感じます。しかし、まだまだ治安が悪い地域が残っているのも確か。こと亜人の扱いに関しては人間よりも目下に見る慣習が残っている地域が多く、遠方では奴隷制度が残っている所もあるとか。こういった状況を改善すれば、この国はより良くなると考えます」
非常に長いセリフをすらすらと述べるエッケハルト。これも父の教育の賜物であった。国王と共にこの国を動かしていく立場にあるバーゼル家。国の現在と過去、未来について考えを走らせるのは日常茶飯事である。
「うむ。合格だ。筋の通った意見を持ちながら、嘘偽りの無い、澄んだ目をしておる」
まるでエッケハルトを試していたかのような発言だ。どうも王の発言に違和感を覚えたらしく少年が口を開く。
「その目……嘘か誠かまでわかるのですか?」
目。これがゲーアノートの特異体質であった。神の眼と呼ばれるその力は、見る対象の感情を瞳に色として移すらしい。もっとも、この能力を持っているのがゲーアノートだけなので確かめようが無いのだが。
「おうともさ。特異体質……それは奇跡とも言える力だ。まぁ、嘘か誠かは、なんとなくしかわからんがな! はっはっは!」
高らかに笑って見せる国王に、エッケハルトは半ば俯いて呟く。
「国王は……強いのですね……」
「お? あぁ、身体能力の事か。こんなもん、訓練で何とでもなるわい!」
言いながら、右腕をムキッと構え上腕二頭筋を盛り上げさせて見せた。ラクダのコブにも劣らないその凛々しさに、しかしエッケハルトは否定する。
「いえ……身体もそうですが、能力そのものがです」
「ふうむ、なるほどのぉ。どうやらお主は、自分の能力に自信がないと見えた」
ぐいっと体を屈めて、王はエッケハルトの俯いた目をのぞき込む。
「はい……私の能力は、基本何の役にも立ちません。その上でこの貧弱な体質です。王のお役に立てるかどうか……」
「エッケハルトよ……それ以上、自分を悲観するでない。今まで、周りからもそう言われ育ったのかも知れんが、おぬしが役に立つかどうか決めるのはワシだ。それに……」
これでもかと腰を曲げた体勢で、ゲーアノートはニカッと笑って言い放った。
「ワシの眼に、狂いは無い!」
ほんの少しばかりか、エッケハルトの瞳が輝きを取り戻したらしい。少なくとも王には、それがはっきり分かったであろう。
「さぁ、おぬしの能力を見せてくれまいか」
「えっと……そうですね、では何か木製の物を……できれば木の枝を用意していただきたいのですが」
言いながらエッケハルトは周りをキョロキョロと見回す。部屋の奥に取り付けられた大窓から、中庭に植えられた大木が見えた。どうやら王もその目線に気が付いたらしい。
「おぉ! ちょうど良い所に! 少し待っておれ!」
そう言って窓を開き、木の元までダッシュして行った。
数分の後、ゲーアノートが再びダッシュして来る姿が見受けられるのだが……
「こ、国王様……?」
どうやらその脇には国王の身長と同じくらいの大きさもあるであろう、大枝が抱えられているのであった。
ドシンと大枝を部屋に下ろし、ふーっと一息つく国王。
「いやぁ、待たせたな! これが限界だった!」
限界も何も、無茶しすぎだろうに。自分と同じサイズの木を素手で運ぶやつがあるか。
エッケハルト少年は、この光景を前に目を丸くし、言葉が出てこない様子である。
「さぁ! 見せてくれ、おぬしの特異体質を!」
気を取り戻し、それでは、と一息つくエッケハルト。
「この枝ですが、真ん中で二つに折っていただけますか?」
「二つにか? よかろう」
すると国王は両手を、その木の枝と呼んでいいのか怪しい物体の上に構え、ぐっと足腰に力を入れる。
「えっ、まさか……」
そう、そのまさかであった。エッケハルトの想像通り、彼の膝が木の枝の真ん中に目掛けて真っすぐに飛び、それを真っ二つにした。
「よし! 二つになったぞ!」
もはや唖然とするのにも疲れたエッケハルト。毅然とした態度をなんとか保って、説明を始める。
「ではまず、この二つの枝を見比べてください、全く違った形をしていますよね」
「うむ! 違うな!」
真ん中あたりで無理やりぶったぎったのだ、確認するまでも無い事であろう。
「ではこの枝の片方に触れて、念じます」
言いながら、エッケハルトはその小さな手を木の枝の片割れに差し伸べる。
彼が眉間に皺を寄せた直後、触れた枝のみならず、王の膝蹴りでぶった切られた片割れまでもが光り輝き始めた。いや、よく見ると、中庭に植えられた大木までもが日の光を放つかのような黄金色に輝き、あたりを真っ白になるほどに照らしている。幻想的を通り越して、畏敬の念を抱かざるを得ない光景であった。
数秒の発光の後、どうやらそれは終わったらしく、エッケハルトは触れていた枝から手を放す。
「ご覧ください」
「おぉ……これは!」
見るとそこには、全く見分けの付かない瓜二つの大枝が、横に並んで鎮座していた。
「私の特異体質は、同じ木から得られた木材の形を一つに統一する物。木材統一でございます。もっとも、父にも全く役に立たない能力だと言われ、実際この力が意味を成した事はありませんが……」
「何を言うか!」
再び俯きそうになるエッケハルトの肩をガシッと付かんで、ゲーアノートは高らかに言い放った。
「おぬしの能力は、戦争にうってつけではないか!」




