032_予兆
「つ、疲れたわ。あれなら一日中酒場で働いてるほうがマシよ」
ジルが僕たちの部屋にあるベッドに仰向けにつっぷして泣き言を言い。
「これなら、オークの巣を壊滅させるほうが幾分か楽だと思います」
同じようにセシリアさんもベッドに天井を仰ぎながら倒れ込んでいた。
「二人共お疲れ様。ほら、これでも飲んで落ち着いて」
食堂から貰ってきた果実水を渡すと、二人は受け取った瞬間一気の飲み干し、コップを僕の方に突き出してくる。
「美味しい!! 直也おかわり!!」
「直也さんが手ずから渡して頂いた物が不味いわけが有りませんね!!」
「そ、それはよかった」
結局あれから二人はオズゥイン先生とコルドラ先生に捕まり、根掘り葉掘り質問攻め。
お昼に捕まって、結局就寝前にどうにか開放されたらしい。
「あの知的欲求は、まさに先生と呼ばれる生き物ですね。家庭魔法と大家庭魔法の違いを永遠と聞かれましたが、正直私もわかってるわけではないので」
「貴方なんてまだいいじゃない、元から使ってた魔法の派生なんだから」
早々に果実水を飲み干したのか、ジルが懐からエールを出し、セシリアさんもそれを1杯貰い乾杯をしながらあおっている。
何時も中の悪いふたりだけど、こう言う時は何だかんだ言って仲いいんだよなー。
「……信じられない」
そんな中、自分のベッドの周りを何処からか調達してきた本棚で囲い、ちょっとしたお城のようになった所から顔を出した寝巻き姿のカカが、呆れ果てている。
「あ、カカ起きてたのか。ごめんね五月蝿くしちゃって。」
「そんな事は良いのよどうでも。で、なに、オズゥイン先生とコルドラ先生とマンツーマンやって文句言うアホがこの世にいるって?」
カカが両手を顔に当て、信じられないものを見る目で続けて話しかけてくる。
「あの二人はもともと有名な冒険者で、現役の冒険者でいるよりも引退して研究に人生を捧げるーって良い正したのを、国があの手この手で言いくるめて、やっとここで先生をやりつつ自由に研究していいって事で来てもらってる二人なのよ」
「あの、私の紋章をルーペでずーっと観察して、いろんな魔導書と永遠見比べながら私に質問攻めしてるお爺さんが有名な方と言われても……実感わきませんね」
セシリアさんがお腹の紋章をさすりながら、そんな馬鹿なって顔をし
「貴方も? 私の方もルーペでずーっと胸の紋章ジロジロ見られたり、ビール作るのを実演させられて……あれがねー」
ジルも胸の紋章をさすりながら、やっぱり信じられないと言う顔をしてる。
「ああ、もし私がオズゥイン先生とのマンツーマンの講義なんてあったらどれだけその時間を有効に使えることか」
カカが遠い目をしながら、ほぅと恋する乙女の顔でいると、横からセシリアさんが
「でも、貴方の魔法の詠唱が少し遅いし威力も低いので、オズゥイン先生から声がかかるのは難しそうですよね」
ふぁーーー、セシリアさん何真顔で煽ってるの。
カカが顔をお赤らめながら方をプルプルと震わせて、ぐっと本棚の城壁から体を出す。
「うるさいわね!! あれでも村では私が一番の魔法使いだし、そもそも貴方の何あれ、ショートシャワー? 家庭魔法がなんであんな高出力なのよ、非常識にも程があるわ!!」
「ふふふ、それはもちろん直也さんの紋章のお陰ですわ」
セシリアさんがいつの間にか僕の後ろから首に手を回してくる。頭の上に柔らかい物がのっかっている気がするが抗議するのはやめておこう。
「それよそれ、何なのよ紋章師って、あんな剣すらまともに使えないそいつが何でそんな凄いのよ」
カカもあの試験にはもちろん同席していたから、僕の拙い剣術を見てるので余計に不思議なのかもしれない。
とは言われても、女神様の事話したところで変人扱いされるのが関の山だろうし、はてさてどうして……ん?
頭の上にある柔らかい物体が震えている?
「貴方、今何とおっしゃいましたか、直也さんの事を今馬鹿にしましたね?」
えーーー、あんなんで反応しちゃうの? いや、だって事実だし、そんな事より止めないと。
「セシリアさん、大丈夫ただの事実だし、ね、ほら僕はメインが剣術じゃないんだから気にしてないから」
「ほら直也だってそう言ってるんだから、良いじゃない」
わー、カカのバカー、なんでそう言う態度取っちゃうのーーー。
「わかりました、貴方には直也さんの凄さを身をもって実感していただきましょう」
セシリアさんがホルスターのショートロッドを止めている留め金を指で外していく。
「ストップストーーーっプセシリアさん、駄目、貴方がやったら彼女の胴体に風穴開けちゃるから」
「ご安心ください、風穴は開けませんから」
「え、本当?」
「ええ、塵一つ残さず消し去ってみせますので」
何も安心出来るかーーーーー!!
「セシリア、大丈夫? 火力足りてる?」
ジルもジルで懐から樽大砲を取り出して弾をこめだしてるし、ヤバイどうしよう。
「はん、やれるもんならやって見なさい!!」
カカも負けじと、ロングロッドを下から引っ張り出し、こちらに向けてくる。
いや、あの実力差を見せつけられて逃げないのは確かに凄いんだが、死ぬ、絶対死んじゃうこれ。
そんな事を考えていると、扉がドンドンと叩かれる。
「おら、もう消灯時間過ぎてるぞ、さっさと寝ろお前ら!!」
ゴークスが各部屋を回ってるのか、いや本当にありがたい。
「ね、皆先生もああ言ってる事だしもう寝よう、ね」
「……しょうがないですね、今日の所は見逃してあげますが今度同じ事言ったらわかってますね」
セシリアさんがショートロッドをホルスターに戻し
カカもそっぽを向いて、ベッドに戻っていった。
「えー、やらないのー、せっかく出したのにー」
ジルは用意した樽大砲とこっちを交互に見ながら寂しそうに唸ってるが……まあほっとこう。
その後、カカが改造するならもうお構いなしと、セシリアさんとジルがベッドを3つ繋げているのを横目に見ながら、明日どうしようかなーと現実逃避するのだった。。
さて、朝だ。
セシリアさんとジルが裸で、何故か服を着て寝ていたはずの僕は裸で、二人に左右を固められるのは慣れてきたが(慣れたがこれほど幸せな響きを持つ事が有るだろうか)、目の前の女の子はその光景に慣れてないわけで。カカが本棚の城壁からこちらを汚物を見るかのような目で見ている。
「お、おはようカカ。これは、その、なんだ、うん、弁明はなにも有りません」
有る分けがないんだよなー。
「良いわよ、それを可能な限り見ないですむようにこの城壁作ったんだし」
「ごめんね、色々と気を使わせちゃって」
「とりあえず、ここを卒業する時に冒険者じゃなくてパパとして卒業しないよう気をつけることね」
凄まじい皮肉を言われつつ、まだ少し早いので二度寝をしようと思った瞬間、既に起きてたのかセシリアさんとジルに布団に引っ張り込まれる。
「さあ、直也さんパパになりましょう、そうしましょう」
「大丈夫、直也は何もしなくていいわよ、私達が家事も子守をするし、遊びたい時に赤ちゃんと遊んでくれればそれでいいから」
二人が目をキラッキラと輝かせながら僕を布団に押し、足は片方づつ二人の太ももに挟まれ閉じる事はできず、両手は二人の脇の下に抱えられがっちりと体を拘束されて、身動きが一切できない。
「ストップストップストーーーップ、駄目、絶対ダメ、ほら今そんな事になったら冒険者やってられなくなっちゃうから、ね、落ち着いて」
「大丈夫です直也さん、私は今とても落ちつています。そうです、直也さん貴方がパパになるんですよ」
「痛くないから大丈夫、直也は天井の染みを数えてるだけで良いから安心してちょうだい」
何も安心できるかーーーー!!
そんな、朝のお約束をさばいてるとカカはとっとと着替えて食堂に向かい、僕もどうにか二人を引き剥がし、説得し、説得し、もう1回説得した結果、どうにか着替えて食堂へ向かう。え、どうやって説得したって? ……頼んだぞ将来の僕。
そんなこんなで、着替えて食堂へ到着。
この間より早く付いたからか、今回は席がまだ余ってるので余裕で座れる。
「あら、今日は早いのね。ほら、しっかり食べて良い冒険者になるんだよ」
うるさくしたからか、食堂のおばちゃんにもう顔を覚えられてた。
今日の朝食は、豆と干し肉がゴロゴロ入ったトマトのスープと、黒パンが1枚。
昨日と違ってスープにたくさん具が入ってるので、副菜はパンだけだった。
朝はとりあえず温かい物に、お腹を膨らます内容となっており、よく考えられてるなと1人感心していた。
「直也さんあちらに座りましょうか」
ジルが先に場所を取ってくれてたのか、壁際の席に座り手を振ってこちらを呼んでる。
手をふる際に、耳がピコピコ、しっぽふりふり、うーんうちの紋章持ちは可愛い。
周りの男どもも彼女を横目で見たり、スプーンを口にいれたままぼーっと見てるやつまでいるしまつ。
「いてててて」
急にほっぺにつねられたかと思うと、横を見ればセシリアさんがほっぺをプクーと膨らましながら、ぷいっとそっぽを向いている。
「手で良ければ私がいくらでも振ってあげますから、もう」
セシリアさんが先に行って席に座るなり、ジルが今の事をからかってるのか、セシリアさんがポカポカとジルの肩を叩いている。和む。
お久しぶりですーーー、生きてますーーーーーーー(´;ω;`)
色々有ったけど、またちょっとづつ書ける環境になったので、がんばります!!
細かいあとがきも、後編書いたら書き直しますーーーー!!