031_楽しい養成所生活
「すごく疲れた」
結局、あの後ゴークスから拳骨をもらい、残りをさっさと口に詰め込んで演習場に出てきた。演習場と言っても遊具や砂場なんて一切無く、訓練に使うで有ろう丸太が地面に突き刺さっていたり、端の方を見ると先日ジルがぶっ壊した射撃レーンに使用禁止の札が立っている。それ以外は、ただただ広い土がむき出しのの場所だ。演習場には、さっきの食堂に居た人数の五分の一程度の人数が居た。
「でも、フルプレートの彼の顔は中々見ものでしたね」結局二人が膝の上に乗ってる間、馬鹿にしたと思ったら逆に馬鹿にされて、やり返そうにも周りが大変な事になってるから何も出来ず、フルプレートの彼には終始こっちをずーっと睨みつけられてた。
「直哉に悪意を向けて、命があるだけで感謝してほしいわ」ジルがそう言いながら、尻尾をぶんぶんすぶりしてる。
そんな事言ってたらゴークスが演習場にできて、設置してある台に上ると、バラバラに散ってた冒険者達がその前に集まってくる。
「お早う冒険者の諸君。気持ちのいい朝だしまずは走るとしようか」そう言うと、ゴークスが台から飛び降り演習場を走り始めて、急に言われた僕たちも慌ててかれの後を追いかける。
「うっぷ、朝ごはん食べた直後に走るのって結構きついな」ゴークスを先頭にして、ゾロゾロと皆で走り出す。エルフっぽい人や、いかにもシーフですって人が先頭集団を形成し、中盤をファイター系の装備の人たち、後方は重装備の人やドワーフなど如何にも足が遅い人。え、僕たちはって?中盤と後方の間にいる、魔術師や錬金術師などの軽装だけど体力無くて、中盤最後尾だけど後方よりは少し早い程度って言う何とも中途半端なグループだ。
「ふふ、直哉さんがんばれがんばれ♪終わったらマッサージしてあげますからね」セシリアさんが横で励ましてくれて、
「直哉もう少しだけ頑張りなさい。終わったら美味しいエール出してあげるから」ジルは懐から空のジョッキを召喚して手を振ってくる。二人とも僕の左右を挟んで応援してくれるのは良いが、あれだな思ったより二人とも胸が揺れないもんなんだな。
「どうしました、直哉さんさっきからこちらを見て……ああ、揺れてなくて寂しいですか?」セシリアさんに速攻で頭の中を読まれる、いやこれは普段から色んな人に見られ慣れてるからかな、目立つもんなあれ。「これ少しコツがあるんですよ、ねえジル」そう言われてジルの方を見ると確かに彼女の胸もあまり揺れてない。「コツと言うか、普通に走ると痛いから気づいたら出来るようになっていたと言うか、ほらこう走ると揺れるわよ」ジルが走り方を変えると、シャツの上からだろうが関係無く一目でわかる大きな胸が、彼女の走りに合わせて大きく揺れ始め、セシリアさんも負けじと胸を大きく揺らして走り始める。
「いや、これはそのなんだ、凄いね」自分の半歩前に白黒二色の大きな胸が彼女たちの走りに合わせて気持ち良く揺れている。「ねえ、その走り方痛いから止めてたんでしょ、大丈夫?」
「直哉さんが走るの少しでも楽になるのでしたらこれぐらい何ともありませんよ」息切れなんて一つもせずセシリアさんが優しく微笑みかけてくれて、「貴方の紋章持ちがこれぐらいでねを上げるわけないでしょ」とジルには笑われた。しかし、二人とも走り方を変えたからか、さっきからガシャガシャと音が五月蠅い。「二人とも走り方変えたら、走る音凄いね」
「え、てっきりこの音は直哉さんの装備からかと。ほら私たちにプレートは基本ついてなので」セシリアさんが少し驚いたようにこちらを見てくる。
「あれ、二人じゃないとすると」少し周りを見渡すと……oh。フルプレートやドワーフなどの足の遅い後方組が、二人の揺れる胸を見たいが為に普段より遥かに速いスピードで走ってる。「あ、あと少しではぁはぁ」「やった、見れたーー」「見れたって、てめえ盾で胸を隠すんじゃねえ」「はっはっは、レディーの胸を悪の手から守るのがヘビーナイトの役目だからね」中々に地獄絵図が展開されてる。
「あらあら、直哉さんこれどうしましょうか」二人が他の奴らに見られてるのを気づいた瞬間に、胸が揺れにくい走り方に戻す。周りの野郎どもから「あー」って声が聞こえるが無視だ無視。
「まあ、普段よりも早く走ろうとしてるんだし訓練としては良いんじゃないかな。馬の前に置いてあるニンジン……じゃなくてスイカだなこれ」
そんなこんなで、演習場を5周したら最初の台がゴールらしく、その付近でみんなぜーはーと肩で息をしながら、膝に手をついたり地べたに座ったりと各々休憩していた。
「うーん、なんか後方組が片っ端からぶっ倒れてるが何かあったのか?」一番最初に戻って来たゴークスが、後方組が軒並み何時もよりも疲れてるのを見て不思議そうに聞いてくるが何も見なかった事にしよう。元凶であるセシリアさんとジルは汗一つかいていない。紋章基礎能力の向上による効果とは言え凄いな本当に。
「直哉さんお疲れ様です。まあ凄い汗、このままだと風邪を引いてしまうので拭いてしまいましょうね」セシリアさんが後方組と同様に、額から汗をだらだらと流しながら地面に座り込んでる僕ん額を、懐から出した薄ピンク色のハンカチでそっと拭いてくれる。汗を掻いてない無いとは言え、たっぷりと走ってるので体温は上昇してるからか、額の汗を拭いてもらってる時にハンカチから少し暖かい彼女の柑橘のような香りがふわっと香ってくる。何時も嗅いでる香りをこうやって嗅ぐのも何か良いな。
「ほらほら、雑巾で顔拭かれて直哉が困ってるでしょ。はい、カムエール」ジルがセシリアの手をひょいとどけると、懐の魔法陣からたっぷりとカムエールの注がれたジョッキを渡してくれる。
「まだ訓練中にエールはさすがに不味いんじゃないかな」しかしからっからの喉にカムエールは大変魅力的だが、流石にこれは止めておかないと。
「大丈夫よ、その為のカムエールなんだから。こんなの水と変わらないわよ」そう言いながらジルから手渡されたのを飲もうか悩んでいると、セシリアさんが自身のハンカチをジョッキでジャブジャブと洗いだした。
「何してるのよこの色欲エルフ!!ついに頭がおかしくなったのかしら」
「貴方が雑巾と言ったから、目の前のバケツで洗ったのだけど何か間違ってたかしら?」セシリアさんが尚もジョッキでハンカチをジャブジャブ洗いながら挑発する。
「直哉とエールを馬鹿にするやつには容赦しないわよ私」ジルがジャケットの内側に手を入れる。
「あらあら、何か気に障りましたか?」セシリアさんがホルスターのハウスキーパーに手をかける。まずい、二人がやりあったらシャレにならない、とりあえず止めない……大丈夫そうだなこれ。
「おう、お前ら。あれか、俺の訓練はそんなにつまらないか?」ゴークスが腕を組んで仁王立ちで僕らの前に立っている。いやー、太陽を背にしてるからか、後光が射しててめちゃくちゃ怖い。「起床、食事と殴られて俺の拳が好きになったのなら今すぐ言ってくれ。お前らの根性が治るまで幾らでもくれてるやるからな」
「ご、ご遠慮いたします」
「ま、間に合ってますので」
2人がジョッキとハンカチをさっと自分の後ろに隠すが、あの二人を従わせるって訓練所の教官ってのは本当に凄いんだな。
「ほら、お前ら全員集まれー」ゴークスがお立ち台の方に戻り、みんなを集める。思い思いの格好で休んでた冒険者たちがゾロゾロと移動する最後尾辺りに自分達も加わっていく。
「おーし揃ったな。そしたら、座学組と校庭組に分けるぞー」木製のボードの用紙を見ながら、ここに来た日数で大まかに分けられて行く。今日が初日組の自分たちは冒険者の基礎座学らしく、ゴークスに連れられて15名程で移動開始。ほかの組もぞろぞろと移動を始めたり、訓練場に残って実技の準備を始めだす。
カカやフルプレートの彼以外にも見た事ない人たちがちらほらいる中で、ゴークスに言われた部屋にぞろぞろと移動する中で、なんか後ろの方からドタドタと走ってくる音が。
「おーい、そこに例の魔法使いるんじゃろーーーー」いかにも魔法使いの青いローブに三角帽子に顎鬚を蓄えたお爺さんが走るためにローブを足が出るように捲って思いっきりまくりあげ。
「まってまってー、無茶苦茶強い錬金術師って彼女ですかーー」緑のショートカットでちょっとダボっとしたコートに黒いタートルネックとズボンで、腰回りのポーチには色々と試験管やら何やらを沢山つけている女性が、さっきの魔法使いっぽいお爺さんと一緒に凄い勢いで走ってくる。
「おお、オズゥイン先生と、コルドラ先生。いったいどうしました?」ゴークスが珍しいをもの見たのか、少し驚いてる。
2人の先生がゴークスに詰め寄り、ここ最近ため込んだものを吐き出すのように、まくし立てる。
「いやいや、あんな話を聞かされて今まで我慢してただけでも褒めて頂きたいものですな」
「そうよ、ゴークスがとりあえずは我慢してくれって言うから、今日まで部屋で発狂しそうになりながら我慢してたのに!!」
うお、見た目だけじゃなくて言動すらこってこての学術馬鹿だこれ。で、この二人の目的はやっぱり。
「おおおおおおお、貴方が家庭魔法で射撃の的を穴だらけにしたというお方ですか!!」口元のひげを震わせながら、オズウィンがセシリアさんの両手を握りなら白馬の王子様を見つけたお姫様のようなテンションで彼女に詰め寄り。
「貴方が錬金術を使い、そんじょそこらの攻撃魔法なんて目じゃない破壊力を入学試験で見せたって言う天才狐さんね!!!!!」ショートカットを揺らしながらコルドゥラが、ジルの両肩を掴みもう絶対逃がさないと言う雰囲気を出しながらジルに詰め寄る。
凄い、セシリアさんとジルが完全に二人の先生の勢いに飲まれて固まってる。セシリアさんは下心丸出しで来るやからなら笑顔で吹っ飛ばすけど、もうヒーローを見つめる子供のような純粋な目と興奮をお爺さんから向けられてどう対処してよいかわからず愛想笑いでごまかし、ジルももともと酔っ払いの対応はお手の物だから、ちょっとやそっとの事では動じないのに、完全に自分の外見に関係ない部分で詰め寄られてどうしていいかわからずされるがまま。
「ゴークス先生、一応聞きますがあのお二人は?」
「ああ、紹介が遅れてすまんな。あの青い帽子の爺さんがオズウィン先生でここで魔法を、緑のショートカットの女性がコルドラ先生でここで錬金術を教えてくださっている」二人の先生と二人の半ば虚ろな目をしている僕の紋章を付与された二人を見ながらはてさてどうしたものかと悩んでいたら、二人の先生がこっちにやってくる。
「ゴークス、そんなわけでこのお嬢さんを私の研究室にご招待したいんだが問題ないんじゃよな」オズウィンがセシリアさんの片手を掴み研究室に今すぐ帰りたそうに足踏みし。
「ゴークスさん、このお狐さんと今すぐ私の部屋で色々と楽しい楽しい実験大会を開催したいのだけどいいわよね!!」ジルの腰にあるベルトをがっしりと掴み、絶対に連れて帰るという強い意志を感じる。
セシリアさんは半ば虚ろな目となり、ジルは愛想笑いで顔が引きつりすぎてなんだかおもしろい事になってる。
さて、どうしたものかこれ。
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お久しぶりです。東吉祥寺でございます。
とりあえず、転職してやっと落ち着いて少しづつまたUPできればと思います。
しかし、新しい先生二人出てきて、そこらへんを書こうと思いつつ、2か月間で永遠と自分の中で発酵したセシリアさんとジルとの頭の悪い全年齢向け千夜一夜を先に書きたいなーなーなー。
が、がんばるぞい。