002_見知らぬ森と最初の出会い
くすぐったい、なんか頬っぺたを舐められてるような……は!!
がばっと、置きあがる。
ここは?辺りを見回すと知らない森、なんかちょっと前にも似たような感じだったような。少しぐらいなら走り回れる広場に芝生のような物が生えていて、そこに寝ていたらしい。
辺りは明るく、昼なのだろうか?ぽかぽかと暖かい。横を見ると森の茂みに丸くて白いフワフワした物体に耳と顔がついた生物……ウサギかあれは?さっき顔を舐めてた生物はあれかな?
ぼーっとする頭だけど、色々思いだしてくる。そうアホな女神マルケッタに異世界に飛ばされて紋章師で……あー、本当に異世界転生したんだな。てっきり誰かの新しい子供として転生するのかと思ったら、森の中って。あれか、実は俺は森のドリアードの子供とかで……いや無いな。手や足を見ると肌色でどう見ても人間。服は死ぬ直前に来ていたスーツで、持ち物は……無いか。財布やらスマホ等など一式入れてた鞄は何処を見回しても見当たらず、着の身着のままこの世界に来たらしい。
取り合えず、安全な場所には飛ばしたって言っていたし……どうすんだこれ。……おいおいおい、森の中で着の身着のままって、どうすんだよこれ!!食べ物も寝る場所も何にもないぞ……まだ昼だ、取り合えず周りを探索して、水と寝る場所だけでも確保しよう。
立ち上がって改めて周りを見てみると、凄く綺麗な森だな。木漏れ日が差し込んで、空気も澄んでるし、チャプンと水の音が……、水だ!!音のする方に走っていくと、そこには大きな池が有り、さっきの音を示すかのように池の奥の方で魚が跳ねる。
取り合えず水を飲もうと池に近づく。水は澄んでいて、底の方まで綺麗に見える。きっと俺の世界に有れば立派な観光地になったろうなここ。とりあえず助かった、これで水が飲めなくて干からびて死ぬ事に
「………………ぎゃあああああああああああ」
森に俺の絶叫が響き渡ると同時に、周りの木から鳥が飛び立っていく。
「若いいいいいい!!誰だこれーーーー!!」
池に反射して、俺の顔が見えたと思ったらそこにいたのは俺じゃない。どう見ても元の体より小さく、良くて155センチほど、顔も可愛く黒い髪の毛。19歳ぐらいの見知らぬ少年がそこにいた。
「最後にマルケッタが言ってたな……、いや、これ、おかしいだろ!!」
顔に手を当てて触って確かめてると、ふと自分の掌に見慣れない物が見える。
「あー、これが紋章なのか?」
右の掌には赤い線で、柄が一切入ってない盾の様な模様が描いてある。確かにこれの中身を色々入れてけば中世なんかでよく見る紋章っぽい物になっていきそうだけど……枠だけってのは寂しいな。
「紋章を授けられる人が増えて行くと、これの中身がきっと埋まっていくんだろうなー」
とりあえず、驚きしかない物の、池の水を少し飲んでみる。最初はちょっとだけ口に入れて、舌がピリッとしないか確認。
「うーん……水だな、これなら取り合えず飲めそうだ」
水は確保出来ればあとは寝床だけど……どうするかなこれ。此処を中心として歩けるだけ歩いてみるか。ふと、周りを見渡すと、森が続いてるけど一か所だけ様子がおかしい。おかしいと言うより、ちょっとだけ道が有る。
「おおお、これはもしかして原住民チャンス!!寝床やなんやら一発で問題解決かこれ???」
その道に足を踏み入れて10分ほどだろうか、50メートルぐらい先の森が途切れていて光がさしてる。少し嬉しくなり、俺は走って駆け抜けると、そこには木で出来た小さなログハウスの様な家が3件と小さな牧場に葉っぱが青々と茂る畑が見えた。
「おおおおおおお村だ、人が生活してる村だ!!マルケッタ様様や、女神の名前は伊達じゃない!!」
そして、嬉しさのあまり走って村の中に入るが、おかしい。音が何も聞こえ無い。今は元の世界基準でよければ太陽らしきもが頭の真上に有り昼時で、炊事の音も子供の声、それ以前に人がいる気配が一切無い。
「はて、皆寝てるか……いや狩りとかなんか仕事しに行ってるのかもしれないが、取り合えず扉を叩こう……こんな格好でいきなり扉叩いて飛び込み営業かこれ、絶対前の世界なら俺は居留守使うな」
アホな事を考えつつ、一番手前に有った家の扉の前まで来た。扉はもちろん木で出来ていて、四角い長方形。表札っぽい物も無く、埃は積もってないから多分人はいると……思う。意を決して扉をたたく。ドンドンドン。誰も出てこない、中からも音がしない。聞こえるのは森にいる鳥のさえずり位だ。もう1回、今度はさっきより少し力を入れて扉を叩く。ドンドンドン!!
「すみませーん、いらっしゃいますかー、池の方から来たんですがー」
声を出しても反応は一切ない。他の2軒の家の扉も同じように叩くが反応はやっぱりなかった。
途方に暮れて、俺は最初の家の前にあった切り株に腰を落とす。
「とりあえず、誰か帰ってくるまで此処で待つとしよう」
それから数時間ぼーっと俺は座ったり、村の中を見て回った。この村は家が3軒だけで、そのうち1件は窓も何も無く、ちょっと異質だった。小さなお墓が1個最初の家の裏手に有り、井戸は無く、さっきの池から水を汲んで来てるのかなと思いつつ、すぐに村の中は見終わってしまった。結局最初の切り株に座って誰かが帰ってくるのを待つ事に。
「あー……これ数日帰ってこないパターンだったらどうするか。畑の野菜って生でかじっても大丈夫かな」
紋章師の前に畑泥棒の称号が付くなとか思っていると、何か聞こえる。音……いや歌が聞こえる。
「きょーうも、森で-狩りをしてー、わーたしーはーおうちにごきたくだー」
何処までも呑気な歌が池と反対方向の森から聞こえてくる。綺麗な女性の声で、少しだけ緊張する。
「さて、どうやって声をかけよう。相手は女性でいきなり、家の前に座ってたら不審者すぎるし……でもなー」
そんな事を思っていると、奥の家の曲がり角ぐらいからさっきの歌が聞こえてくる。もう少しで、家の横を通って俺が居る通りまで来てしまう。考えてる暇はあまり無さそうだ。
切り株から立ち上がり、声のする方に体を向ける。
「ええい、どっちみちマルケッタが大丈夫って言ってたんだ、出たとこ勝負でご挨拶してやる!!」
歌が奥の家の曲がり角直前から聞こえてきて、彼女?がついに姿を見せる。
「きょーうのご飯はなんだろなー、いーえの残りで美味しく美味しきゃああああああああああああああ」
褐色銀髪の女性が俺を見るなり大声あげてたかと思うと、その場に気絶したように倒れた。
「はあああああ、だ、大丈夫ですかーーーーー」
俺は大急ぎで走って近寄ると、仰向けに彼女は倒れていた。足元には、狩りで採ってきたであろう、あの丸っこい兎が1匹落ちていて、さっきも見たとおり、肌は褐色、髪は銀髪、薄茶色いごわごわした布のワンピースで、身長はどう見ても俺より高いし……綺麗だ。整っていて、優しい顔の彼女の顔をまじまじと見てると、ある事に気づく。彼女の綺麗な銀髪からちょこんと尖がった可愛い耳が顔を出している。
ダークエルフだこの人。
「異世界来た実感はすっごくわいたが……どうしようこれ」
俺はダークエルフを気絶させて、茫然と村の中で佇んでいた。
「ん、どうして私は部屋で寝てるの?」
長年使っている愛用のベッドから体を起こすと、私の部屋が目に入る。誰が来るわけでもなし、毎日掃除して、最低限の物しかないけど、お気に入りの家。そう、私は日課の狩りをして、ホワイトラビットが運よく罠にかかっていたから、嬉しくてどうせ誰かに聞かれるはずも無いから大声で自作の収穫祭の歌を歌いながら家に帰ってきて……あれ?おかしい、やっぱり此処で記憶が途切れている。そう、なんか見ちゃいけない物を見たようなそんな……キッチンから音がするような……
「あ、起きました?」
キッチンから男が顔をひょいっと出してくる。
「きゃああああああああああああああああ」
瞬間頭が真っ白に、ただただ、驚きが私の頭を支配する。
「ごめんなさい!!もう気絶しないでーーーー」
男が泣きそうな顔で駆け寄ってきて私の前に来る。
「だ……だれですかあなた!!!!」
あり得ない、ここで人に会うなんて絶対にあり得ない。そう、ここは`私以外居るはずの無い村`なんだから。頭の中が今度は何故で一杯になっていると、目の前の椅子に座った奇妙な格好の男がコップを差し出してくる。
「すみません勝手に使ったのは謝るので、とりあえずこれを飲んで落ち着いて下さい」
彼は私の愛用のコップに、水を注いで差し出してくる。とりあえず、そのコップを手に取り一気に飲み干す。
「あ……有難うございます。……貴方は精霊様?」
思いつく限りで、一番現実的な質問を彼にしてみた。彼は手を顔の前で思いっきり左右に振って否定している。
「いやいやいや、俺は人間です。人間の新谷直哉と言います」
「え、人間?人間がどうしてここに?ここまでどうやって来たのですか」
「あー、えー、いやー、その……森で寝ていて、歩いてきたらこの村についてですね」
やっぱり意味が分からない。それに、なんか言葉が伝わってるよかったーーーって言ってるし。
「はあ、その直哉?さんですか。本当に何をしにこの村に来たんですか。ここには何も無い森の奥地、貴方が欲しいような物は一切無いと思いますが」
彼は、あーと言いながら少し上を見ながら考えている。
「その、質問に答える前に幾つかお聞きしたいのですが良いでしょうか?」
「……どうぞ、私で応えられる限りで良ければ」
「まず、お名前を伺ってよろしいでしょうか」
確かに私は何も彼に言って無かった。
「それは……御免なさいね。本当に驚いてそんな事すら忘れていたわ。私はセシリア・ルモワーニュ、この村最後の生き残りです」
その瞬間彼は驚いた顔で私の顔を見てくる。
「え、じゃあこの村で生活してるのは貴方だけ?」
「はい、私だけになります」
「えっと何時から、一人でこの村にいるんですか?」
「もう余りにも昔で忘れてしまったわね……えーと、40年ぐらい前だったかしら?」
「ふぁ?え、じゃあ……失礼ですが今御幾つで?」
女性に年齢を聞くなんて失礼ねと思いつつ、しょうがないなと思う。人間族なんて寿命は良くて70年だって言うし。
「確か今年で120歳になります」
男は目を見開いてこっちを見てくる。
「120歳……あーエルフって本当に年齢と見た目が一致しないと言うか……凄いですね」
「ふふ、有難う、お世辞だとしても凄く嬉しいですね。でも私たちダークエルフ族ではまだまだ若い方なんですよ。大長老なんて言われる人たちは400歳とか平気でいるんですから」
「おおおお、凄いなー、あー、なんかすいません急にこんな事聞いてしまって……さてどうしたもんか」
そう言った後に彼はやっぱり少し上を見ながらぶつぶつ言いだした。はぁ、どうしましょうかしらこの状況。
そんなこんなで俺は彼女セシリアに何処まで打ち明けるか悩んでいた。いきなり、女神に言われて異世界から来ましたって言っていい物か。頭のかわいそう人を見る目で見られても嫌だし……いや既に変な人を見る目では見られてるか。さっきちらっと、40年も前から此処に一人でって言ってたって事は、とりあえず誰も此処に人は来てないし、彼女は村を離れてないって事か。出れない理由でもあるのかな、それとも誰かに会っては駄目な理由……いやそれは無いか、俺と会ってから敵意とかそう言うのは一切ないし。取り合えず、聞けるだけ聞こう。
「セシリアさんは、40年前からここに住んでると言いますが、どっか他の場所に行ったりしなかったんですか?」
「それは難しいわね、この周り、そうね私が生活するには十分なぐらいの広さまで結界が張ってあるの。そこから先は私はもちろん普通の冒険者じゃ倒せない様なモンスターだらけで。ほらあの家が有るでしょ、その中に村を守ってくれる結界を生み出す装置があるの」
そう彼女が窓の外に指をさす方向には、さっき見た窓の無い家が建っていた。
「あー、なるほど。じゃあこの村に誰か来る事なんて今まで」
「ええ、40年間1回も無かったわね……と言うより、そもそもこの村は隠れ里で誰かがたづねて来れる場所ですら無いわね」
彼女は頬に右手の人差し指を当てながら、首をかしげている……可愛いなこの人、てか良く見ると本当に綺麗な人だ。歳は120だけど、ぱっと見24歳ぐらいか、5年で1年ぐらいしか歳とってないんじゃないかこの人。ベッドから上半身だけ起き上がって、彼女はこっちを見ていた。服はさっきと同じワンピースだけど、そのあれだ、起き上がってるからよりハッキリと分かるけど、胸の部分がドンと盛り出ていて、マルケッタと正反対のこの人こそが女神なのじゃないかと思うような……いや考えるのは止めよう。洒落抜きで天罰とかふってきても嫌だし。さて、取り合えずもう少し村の事でも聞いてみるか。
「そう言えば、40年前から一人って言ってましたが、それまで他の方はどうしていたんですか?」
「40年前にねお爺ちゃんが此処に連れてきてくれて、倒れてしまったの……」
彼女はそう答えると、少し悲しい顔をする。
「すみません、なんか悲しい事を聞いてしまって」
「いいのよ、もう昔の話だし、それに私一人って言われたら普通そこを聞きたくなるものね……そうね、貴方の事を聞く前に私の事を先に少し教えてあげるわね」
ここはお爺ちゃんのご先祖様の村で、元々は町の側にある森の一軒屋で父と母、それにお爺ちゃん、セシリアさんの4人で暮らしていた。そこで、森で集めた薬草などを町に卸して生活していたある日、家が盗賊に襲われた。馬に乗った20人ぐらいの若い盗賊を当時80歳(人間で16歳ぐらい)だったセシリアに何か出来るはずも無く、両親は直ぐにお爺ちゃんとセシリアを家の裏口から放り出し、弓を手に取り盗賊たちを迎え撃つ。
泣き叫ぶ彼女の口をお爺ちゃんは手で強く覆い、魔法で姿を隠し森を駆け抜ける。彼女は連れられて逃げる際に家の方から大好きだった両親の叫び声が聞こえた瞬間、発狂して戻ろうとした時には、お爺ちゃんの手が目の前に有りそこで意識がスッと落ちていったらしい。気づいたら、このベッドに寝かされていて、起きるとお爺ちゃんは背中から矢が刺さり大きく血が出ている状態で、彼女に色々と教えてくれた。
この村はご先祖様の村で、もともとは隠れ里。入口は普通の探し方をしては絶対に見つからず、よしんば来れたとしても周りはモンスターだらけで此処にはたどり着けない。結界も有るし、ここから出ちゃいけないと言われた後、お爺ちゃんはベッドに倒れこんだ。
それから3日3晩お爺ちゃんはベッドでうなされつつ、彼女にごめんごめんと謝り続けていたが、彼女は回復魔法が使えるわけでも無く、さっきの結界の有った家に保存食やその他の物はそれなりに有ったけど、所詮家庭に有る程度のポーションしかなく、お爺ちゃんの大きな傷を癒せず、次の日には息を引き取った。その後もう3日3晩彼女は泣き続け、それから生きようと決めた。
幸い保存食は備蓄されていて(魔法のお陰か、腐ってはいなかったらしい)水も有り、実家の薬草集めなどの経験も有るから生活には困らなかった。そして、今日誰もいるはずの無い村に帰ってきたら、40年ぶりに他の人間を見たショックは計り知れなく気絶して今と言うわけだ。なんだこれ、てか盗賊って何だよ襲われるって。村の警備やもろもろどうなってるんだよ!!
「さて、私の話はこのぐらい。じゃあ、そろそろ貴方の事を聞かせて貰えるかしら」
さて、彼女は最低限の一般常識は有り、なおかつ町にも住んでいたから普通の生活もしってる。やっぱり俺の存在を見て精霊だと聞いてくるぐらいには、突拍子も無い存在なわけだ。どーするかな、でもここで彼女に何か言った所で、誰に言いふらされるわけでもないし、いざとなったら時間をかけて説得するしかないか。有る程度喋るか。
「あー、俺はですね、女神様の使いでこの世界に来ました」
「へ???」
すっとんきょんな声で彼女が声を上げる。そりゃそうだ、俺だって逆の立場ならそう言うさ。
「えーとですね、女神様にこの世界を旅して、色んな人を助けたりして来なさいって、召喚されたんですよ」
取り合えず、異世界から転生したとは黙っておこう。何か色々と面倒くさいし、召喚ならそれっぽいだろう。
「じゃあ、貴方……様は神の使いなの?」
「いや、そう言う大そうな物でも無く、普通の人間ですよ。ただ女神様からこの世界に放り出された感じの」
「その、ずいぶん雑な女神様なのね、確かに貴方と喋っていてこう神々しい感じは……しませんものね」
酷い言われようだが、否定しようも無い。
「ええ、そんな感じで急にこの森に放り出されて」
そこまで言った瞬間にぐぅうううと俺の腹の虫がなった。そりゃそうだ、起きてから水だけ飲んで、成人女性を家までえっちらおっちら運んで数時間、おなかの一つもすくわけだ。
「くすくす、可愛いお腹の音ね。確かに貴方は普通の人間なのかもしれないわね、神様がお腹を鳴らすなんて可笑しいもの」
鈴のような声で彼女がくすくすと笑うとベッドから足を下ろして立ち上がる。
「ちょっとそこに座っていてちょうだい。今ご飯作っちゃうから、久しぶりに誰かと食べるご飯だもの、張りきって美味しい物作ってあげるわね」
「有りがたい、俺も美味しいご飯なら大歓迎です」
心の中でガッツポーズをついしてしまう、これで衣食住のうち、食と住は最低限どうにかなりそうだ。
「ふふ、じゃあそこに座ってい下さいね」
取り合えず異世界1日目でゲームオーバーって事は取り合えず回避できたっぽいなこれ……マルケッタ有難う。俺をこの世界に導いてくれた女神に感謝をしつつ、女神の様な彼女の料理が出来あがるのを待つ事にした。
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