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027_冒険者養成所の試験で大暴れ

件の冒険者養成所だが、バルツァーから聞いた話だとそれなりな人数が放り込まれてるそうだ。そもそも、いきなり冒険者になった所で基礎を知らずに無謀な依頼を受けて依頼未達成ならまだしも、ゴブリン相手に死亡する事もさほど珍しい話じゃない時代が有ったらしい。流石にこれは不味いと言う事で冒険者ギルドが作ったのがこの冒険者養成所。とりあえず、薬草集めなど基礎的な依頼をちゃんとこなして、まだやる気が有りそうなやつに入る事を進める感じで少しづつ受講者を増やしていったそうだ。最初の頃に受講料が払えなくても、卒業後の依頼達成報酬から少しづつ貰う形で、なんだか推奨学金を微妙に思い出す制度だ。


今ではやる気のある冒険者や、僕たちみたいな推奨組、そして厄介なのが家の4男等で嫁の貰い手がいなさそうなやつの厄介払い代わりに使われる事も有るとか無いとか。しかし、冒険者なんて基本荒事上等な人種なのでそんなもんか。


カドニカの街から特に問題無く2日後、丘を越えたら下の方に遂に冒険者養成所が見えてきた。山の麓に巨大な広場と大きな木造の平屋、そして建物を囲むように丸太の壁と櫓が3つ。櫓の数が少し大げさにも思えるがこんな場所だし、モンスターに冒険者の卵が襲われたらなんて考えたらたしかにゾッとしないな。なんで、こんな辺境にと思いつつ、王都の側に作るには費用が足りず、諸々が安いこんな所に作ったと言われればさもありなん。


「直哉、入り口見えてきたわよ。とりあえずそのまま進んじゃって良いのかしら?」ジルに言われて建物をよく見ると、大きな門とその前に如何にも冒険者という風貌の中年が門番をしている。正面から行く以外思いつかないからそのまま行くか。


「おーい、止まれー。行商かい?見ない顔だが新顔かな」


「あ、違います違います。カドニカの冒険者ギルドから推薦状もらってきた養成所受講希望者です」


「受講希望者?新人が馬車持ちとかお前貴族か何か無い?」中年の冒険者が怪訝な顔で聞いてくる。


「あ、すみません。これ移動酒場何ですよ」


「なんだそりゃ、それこそ何でまた冒険者になりに来たんだ?」ごもっともです。しかし、最初から説明したら面倒くさいしさっさとあれを出すか。


「これ、冒険者ギルドで頂いた推薦状です」バルツァーから貰った推薦状を渡して彼が中を開けて見た瞬間、僕たちと推薦状を顔が何度も往復する。


「いやー、お前さんたちがバルツァーの言ってた期待の大型新人か。いやいや、あいつが送り込んでくるやつだから、ごりっごりのファイターだろうって皆で言ってたんだがこれはまた」


「なんか、ご期待に添えずすみません」


「いやいや、いい意味で裏切られたよ。冒険者養成所は君たちを歓迎する。とりあえず中入って左に馬車置き場が有るから担当に預けてくれ。預けたら、広場に今日の分の試験受講者が溜まってるからそこで待っていてくれ」そんな事言われて、彼から推薦状を受け取ると、木製の大きな門が左右に開いてく。言われたとおり、中に入ってすぐ左に屋根付きの馬車置き場が有り、先客だろうか僕たちの幌馬車とは違い、キレイな装飾のついた馬車が先に1台停まっていた。担当に渡した時に馬の大きさに驚いていたのはご愛嬌。


「さあ、直哉さんの冒険者伝説が今日ここから始まるんですね」セシリアさんがなんか凄く楽しそうにしてる。


「ええ、私達の直哉にすべての冒険者をひざまずかせる第一歩がここから始まるのね」ジルはジルで速攻で喧嘩を売るような事言ってるし、大丈夫かな本当に。


そのまま平屋の建物を通り越し演習場の方に向かうと、言われたとおり7~8名ほどの冒険者らしき集団が見えてきた。如何にも新人と言う感じの装備も真新しい3人組に、緑色のローブと赤いロングロッドを持った少女やフルプレートの鎧を来た金髪の青年と従者のような男性のグループなど、冒険者ってのは何でこう纏まりが無いんだろう。


「ふーん、なんか皆バラバラの装備ね」ジルも同じ意見だったらしい。


「ふふ、でも私達もあまり人の事言えないですよね」セシリアに言われて自分たちを見ると、軽鎧の自分とカウガールな九尾の狐に、魔法使いのダークエルフ……なるほど、自分達が一番変だ。そんな事を考えてると、皆が何となく固まってる辺りに来たので、とりあえず待機する事に。さて、一応盾とショートソードは持って来た物の試験はどうしたものか。これで戦えと言われて自分じゃ正直……ん?


「おーい、集まってるかー」先程門に居た中年が手にボードを持ってやてくる。「よしよし、ちゃんと皆揃ってるな」彼がボードを近くに居たフルプレートの青年に手渡す。「そのボードの紙に欄が有るから一人づつ名前を書いてくれ。書けないやつは悪いが周りのやつが今は代筆してやってくれ」皆が自分の名前を1行づつ書いていき、最後に自分たちにボードが来たので僕の分はセシリアに書いてもらう。「ほい、皆書いたな。よし、じゃあ改めてこんにちわ、今日の試験を担当する教官のゴークスだよろしく頼む。さて御託は抜きで試験は簡単だ。お前たちの得意な事を見せてくれれば構わん、近接攻撃に自身が有る者は横に立ててある丸太に、遠距離攻撃に自身が有る者は横の射撃レーンで、それ以外の特殊な者は各自申請してくれ」


そして、先程名前を書いた順に一人づつ試験がスタート。トップバッターはこの中でも一際目立っていたフルプレートの青年。接近攻撃がメインなのか、横に立てて有った丸太に手に持っていた大剣を上段に構えて一閃、丸太の三分の一程まで大剣が食い込んでいる。なんと言うか、大雑把なやつだな。周りに居た従者の様な人たちも弓など、無難に勧めていく。


「次、名前わ?」緑のローブの女性が立ち上がり教官の側に歩いていく。


「カカです。得意なのは炎の魔法になります」おお、この世界に来てはじめてのセシリアさん以外の魔法使いだ。しかも、ロングロッドだからでっかいの1発系かな。


「じゃあ横の射撃レーンで良いかな?」教官がそう言うと、彼女は無言でコクリとうなずき、射撃レーンへ移動していく。射撃レーンは長さ50メートル程、土の山が幅10メートル程のレーンを挟んで置くの的までコの字型に続いている。これならちょっとやそっとの攻撃が横にそれても流れ弾になる心配は無さそうだ。やっぱりライバルの技量が気になるのか、皆ゾロゾロと射撃レーンの方へ移動していく。


「よし、始めてくれ」教官のゴークスに言われて、カカがレーンに立つ。杖を両手で握り前に出して詠唱を始める……が、長い。20秒程たったぐらいだろうか、詠唱が終わったのか彼女がファイアアローと唱えると、杖の先から2本の30センチ程の炎の矢が一直線に丸太に飛んでいく。あたった瞬間小さい破裂音と共に、丸太の一部が欠けている。


「おお、養成所に来る前にその詠唱スピードと威力なら申し分ないな。お前良い魔法使いになるぞ」ゴークスが褒めてるとカカの頬が少しだけ赤くなる。無言だけど顔にはすぐに出るタイプ何だな。さて……2人に先に言っとくか。


「セシリアさん、ジルちょっと」2人を呼び寄せ、彼女達だけに聞こえるように小さい声で話す「良い、二人共やりすぎちゃ駄目だからなね」全体のレベルはよーくわかった。正直2人が本気出したら絶対面倒くさい事になる。


「あら、直哉さんのお力を見せつけて上下関係を理解させようと思っていたんですが」ほら、見た事かそんな気がしたんだよ。「あら奇遇ね、私も直哉の凄さをこいつらにさっさと見せつけようと思ってたわ」ほらほらほら、これだよこれ。


「ぜーーーったい駄目。普通にこのレベル帯らしい行動して下さい。セシリアさんは適当に詠唱っぽい事して最弱のウインドボール、ジルはそれなりの炭酸圧力の小樽でも投げるぐらいにして下さい」


「何それ、それじゃあ何も力を見せられないじゃない」


「良いんですそれで、見たでしょ周りのレベル。そんな事したらドン引かれますよ」2人が凄く不満そうだが、最初から厄介ごとの種を進んで抱え込む事は無い。


「次、新谷直哉あらたになおや」おっと、自分の番か。教官が嬉しそうに手招きしてる。「いやいや、お前らがバルツァーのお気に入りってんだから、面白そうで今日の教官役さっき変わってもらったんだよ、期待してるからな」ずいぶん軽い人だな、いや楽しそうで何よりです。「で、お前さんの得意な武器はそのショートソードかい?」ゴークスが僕がとりあえずで持ってる盾とショートソードを指さしてくる。


「あ、すいません僕の職業が紋章師と言って、これは護身用の武器になります」


「何だその紋章師って、武器はそれじゃ無いって事はどれだ、魔法使いだとしてもショートロッドすら見当たらないが」そんな至極当たり前の質問を受けてたら急に僕の後ろに人の気配が。


「申し訳ございません、直哉さんの武器は私達になります」セシリアとジルが僕の後ろに何時の間にか立っていた。


「おい、見ろよあれ。あいつ自分で戦わず女が武器だと言ってるぞ」さっきのフルプレートの青年がこっち指さして笑ってる。


「坊っちゃん、声が大きいです。あと、指差すのもよした方が良いかと思われます」横に居た弓を持った従者のおじさんがフルプレートの彼を止めている。


「直哉さん、あちらの方は処理して宜しいでしょうか」セシリアがショルダーホルスターのショートロッドに手をかける。


「直哉ふっ飛ばしていいのよねあれ」ジルも懐に手を入れて何か出そうとしてる。


「やめて、良いの良いのあれは放っといて良いから」やめてくれ見知らぬフルプレートの人。俺は良いけど、この2人は怒らしたらシャレにならないから。


「そこ、人の試験中に口を出すな。まあ、仕方ないとりあえず紋章師ってのは良く分からんから、そのショートソードであの丸太切ってみろ」流石に教官でも紋章師は知らなかった様子でとりあえず僕自身の力を見る事にしたらしい。先程のフルプレートの彼が切ったやつの横に有る、まだ切られてない丸太の前に立つ。さて、この世界に来てまだちゃんと剣を使った事無いけど、どうしたものか。


「ほら、早くしろ。わからないなら思いっきり斬りつければいいから」教官から言われたとおり、やるしかないか。


「行きます」ショートソードを思いっきり振って丸太の縁に直撃させるが、刃が縁に少しだけ切り込みを入れる程度だった。いかんせんまともに剣を使った事ない自分からすれば、当たっただけでも褒めてもらいたいものだ。


「あー、うん、本当に剣使えないんだな。バルツァーの推薦だと聞いたからてっきり剣をバリバリに使うのかと思っていたが」なんか、教官も心なしか残念そうだ。少しだけ申し訳ない気分にすらなってくる。


「見ろよ、女を武器だと言うやつの剣は酷いとは思っていたが想像以上だなあれわ」懲りずにフルプレートの彼に笑われるが、仕方ない。正直威力だけなら横に有る彼の切った丸太と歴然の差が……セシリアさん。


「ふふふふふふふふふ、笑いましたね、私の直哉さんを笑いましたね。ええ、ええ、ええ良いでしょう直哉さんの凄さをお見せいたしましょう」セシリアがすっごくいい笑顔でショルダーホルスターからハウスキーパーを両方共抜いてる。


「セシリアさん、さっき言ったよね、ウィンドボールで地味に終わらしてって」


「ええ、直哉さんご安心下さい。あのトンチキ野郎に目にもの見せてやりますので」


「違う、そうじゃない!!」わかってはいたけど、止めないと不味いこれ。


「セシリア……先に順番譲ってあげるから、わかってるはね」ジルが座った目で、セシリアに問いかけると彼女がコクリと頷く。何、君たちだけでわかり合ってるのかな!!


「教官、直哉さんのお力を授かった私も試験よろしいでしょうか。得意なのは魔法なので射撃レーンの方で良いですよね」セシリアが有無を言わせない雰囲気で教官に言うと、彼も何かを察したのか射撃レーンの方に行けと指をさす。


「なんだあの女。手に持ってるの家に居たメイドが使ってた家庭魔法用の杖だぞあれ。おいおいおい、主人も使えなきゃ、召使いもあそこは間抜けか?」聞こえなーい聞こえなーい、横の従者は彼を止めるのに必死だし、セシリアにも聞こえたのか、長く綺麗な耳が真っ赤になりピクピク上下してる。


「それでは、紋章の力を授かったセシリア・ルモワーニュが皆様に直哉さんの素晴らしさをお見せ致します」スカートの両端をつまみ深々と皆にお辞儀をするセシリア。あかん、めっちゃ嫌な予感がする。あれだけ怒髪天に来てるセシリアが何でわざわざあそこまで礼儀正しい挨拶をする必要が有るんだ。無い、絶対にない。


セシリアが両手にハウスキーパーを持ち、丸太に狙いを定める。横の教官からはどんな詠唱だろうなーとか呑気な言葉が聞こえて来る……やだなー。


「ショートシャワー」セシリアが何時もの1本バージョンのショートシャワーを丸太に向かって唱えると水の槍が勢い良く丸太に突き刺さり、其処には綺麗な穴が空いている。石造りの家を蜂の巣にした魔法だ、丸太なんてお菓子と同じように撃ち抜けるに決まってる。横の教官から「は?」と間抜けな声が聞こえるし、横で見てた他の冒険者も声が出ないのか只々驚愕して見ている。


「そ、その凄いな君。セシリアさんだっけ」と教官が試験の終わりを告げようとした時にセシリアが此方を向いて本当にいい笑顔で「いいえ、ここからですよ」と言うや否や、両手のハウスキーパーでショートシャワーをつるべ撃ちしていく。凄まじい水の音と木が弾ける音が止んだかと思うと、標的の丸太は見るも無残な蜂の巣状態。そこで終わりかと思いきや、セシリアがエアハンドと唱え、丸太を掴んでこっちに凄い勢いで引き寄せ、自分の体の横を通過させる際にもう片方の杖でショートエッジと唱え、引き寄せた力を利用して丸太を一刀両断!!ってやりすぎだバカああああああああ!!


「これが直哉さんのお力です。皆様わかりましたか?」セシリアさんがやりきった顔で、皆を見渡すが、誰一人声なんて出せず、さっきのフルプレートの彼は手に持ってた大剣を地面に落とし、魔法使いの子は真っ青な顔になり、新人冒険者3人組の一人なんて泣いている。教官も教官で、何を見たか理解できないようで、さっきからずーっと口をパクパクさせてるし……その、本当にごめんなさい。良く分からないけど、心の中で謝っておこう。


「じゃあ、次は私の番ね」あ、忘れてたってまだやるの???やめて、ジルやめてもう皆の心の体力は尽きかけてるんだから。


「直哉、あれ使うから」ジルが任せなさいってウインクしてくる。さて、諦めて養成所から逃げ出す方法でも考えておくか。





何時もお読み頂き有難うございます。ブックマークや下にある評価ポイントや感想を頂けると、今後の励みになりますので、よろしくお願いいたします。


次回はジルの新兵器、そうアレの登場です!!

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