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016 _初依頼は厄介案件

「昨夜はお楽しみだったね」


このセリフを言われる日が来るとは思わなかった。日も軽くのぼり、通りのお店の開店準備が始まるぐらいに起きて、1階に降りた早々これだ。


「一応離れた部屋にしたつもりだったんだけどねー、1階の私の部屋まで聞こえて来た時は、我が耳を疑っちまったよ」


おう、追い打ちやめーや。


「申し訳ございません女将さん。以後気をつけますわ」


「なーに、元気が有って宜しい。ただ、他の客の目線までは私の管轄外だから気をつけおくれ」


そう言われて、朝食を食べてる机の人達の方を見ると、コチラをガン見してる……いや、正しくはセシリアさんの胸見てる。あと、それの相手がお前かよって顔で見るやつもいる。あかん、セシリアさん彼らに手を振るの止めてあげて!!ほら、皆一斉にうつむいて立っちゃって立てなくなっちゃったでしょ。


「そう言えば朝食はあんたら別で食べるんだっけ?それとも今から付けるかい?」


「あー、どうしよう。セシリアさんどうします?」


「そうですね、もし頂けるならここの朝食も頂いてみたあいですね」


「だそうです。なので2人前お願いします」


「はいはい、そしたら二人で銀貨1枚でいいよ。どうせこの時間だ余り物さ。良い物聞かせてもらったお礼だよ」


死体蹴り止めてあげて。そんなこんなで、開いてる机で待ってると、女将さんがトレイを二つ持ってきた。ホットコーヒー2つに、30センチは有る大きなサンドイッチがドンと鎮座してる。名前はわからないけど、知ってる食材に当てはめるならレタスとパンから溢れる程のスライス玉ねぎ、白身の魚を塩コショウで焼いたやつにたっぷりのレモンがかかってて、これサバサンドだ。一口食べれば、口いっぱいにスライス玉ねぎとふっくらジューシーな白身にレモンがよく合う。朝は魚派の人も笑顔間違い無し。これが余り物って凄いな。


「美味いかい。それ食べたらギルドにでも行って早く仕事しに行っちまいな」


うーん、本当のお母さんだこれ。ふと横を見ると、もう食べ終わったのか美味しそうにコーヒーを飲みながらセシリアさんが一息ついてた。昨日あれだけ飲んでベロベロの状態で3回戦もして何で元気なんだこの人。


「どうしましたマスター。私の顔に何か?」


「いえいえ、セシリアさんは元気だなーって思って」


「母が強いのは当たり前ですよ」


腰に両手を添えて、胸を張りながらえっへんとしてるけど、うーん威厳は無いなーこれ。朝食食べ終わったら、そのまま冒険者ギルドへ。朝だけ有って、昨日来たときとは大違いの人数だ。机が全部埋まってるのは勿論の事、依頼掲示板も人垣で何も見えない。受付も言わずもながで、トリー以外にも知らない職員3人フル稼働で朝のラッシュをこなしてる。


「さて、どうしたもんかこれ」


「マスター、正直私達が最初に受ける依頼事態は簡単な物や常設の物になるので、あの人垣が晴れるまで待ってれば宜しいかと」


確かに、セシリアの言うとおりだ。ギルドの依頼の種類を説明すると、常設と時限の2種類が有る。常設は常に貼られてる依頼で、薬草探しや食材探し等など生活密着系がほとんどで、これは大体街のお店などが依頼主となる。ブロンズランクはココらへんから慣らしていくのが通例だ。逆に時限が、一般的に想像する冒険者の仕事となる。国、貴族、はたまた商人か、財宝を探してきてくれ、モンスターを討伐してくれ、ダンジョンを攻略してくれ、護衛してくれ等など多岐にわたる。これは貼られてる期間もまちまちだし、依頼期間が設けられてる物ばかりで、勿論その期間中に出来なければ依頼は失敗扱いになる。


依頼は冒険者と同じようにブロンズ~マスターまでランク付けされており、基本は自分と同じランクしか受けられず、同じランク10個クリアーすると、昇格試験として次のランクの依頼を2回受けて、両方共達成できれば無事昇格だ。ただし、ゴールド以降の試験はギルドが別途行い内容は絶対秘密で、大体ゴールドからプラチナで普通の冒険者は止まってしまうそうだ。依頼の8割がゴールドクラスで、残り2割も殆どがプラチナ止まり。その上の依頼は王都ぐらいでしか見れないって手引に書いてあったな。


「ですね、人垣が晴れるまで少し待ちますか」


席は空いてないので、壁際で待つ事にした。同じブロンズランクだろうか、装備が真新しい3人組が常設をの依頼を大事そうに持っていったり、古株の冒険者が慣れた手つきで割の良さそうな時限依頼を手にとって鼻歌を歌いながら受付に行ったりと様々。


ある程度たった頃だろうか、少し扉のほうがざわついてる。何かと思ってみてみると、初めてギルドに訪れた時にギルドから出てきた中年男性と、あジルさんだ。あの時の狐は彼女だったのか。と言う事は変化出来るって凄いな。あ、目があった。


「あら、直哉さんじゃ有りませんか。こんな所で奇遇ですね」


尻尾をわさわさとさせながら彼女が近づいてくる。そしてセシリアが横に隠すように俺を両手で抱きしめて脇へ移動させる。


「出ましたね、雌狐。マスターにまたチョッカイをかけるのでしたら、畑の肥料にしますよ!!」


谷間の縁からちらっと周りを見ると、うううう、目立ってる。俺を見て剣を抜こうとしてるやつまでいる。俺だって好きでこの体制になってるわけじゃないやい。


「ふふ、確かに直哉さんの事は気に入りましたが……ええ、気に入りましたがそんなに警戒しないで下さいな。まだ、手を出そうとは思いませんので」


「まだって何ですかまだって。直哉さんは絶対に渡しませんからね」


「おいおいおい、痴話喧嘩は外でやってくれ」


ギルマスのバルツァーが奥からやってくる。


「って、お前か。ちゃんと終わったら俺の部屋来いって行ったのに来ないとか寂しいじゃねえか。どうせ常設でも受けるんだろ、ちょっくらその前に俺の部屋に来いよ」


「は、はい行きたいのはやまやま何ですが、そのですね」


「ああ、ジルだろ。どうせこの間の依頼受けてくれる奴探しに来たんだろ。無理だってあれは、正直色々と分が悪すぎる。こらやめろモフモフするな」


ジルが、バルツァーの顔を9本の尻尾でモフモフしてる。いいなーあれ。


「だまらっしゃい。あの依頼を受けてくれるまでは何度でも来ますからね。貴方だってまともなエールが飲めなくなったら困るでしょ!!」


なに、エールが飲めないってそれは何を差し置いても優先するべき案件じゃないか


「無理なもんは無理だって。とりあえずお前ら全員俺の部屋ちょっとこいココじゃ人が多すぎる」


気づいたら周りには冒険者がちらほら何だ何だと見に来てる。まあ確かにこれは内緒話には都合が悪い。ギルマスに案内されて奥にある彼の執務室に通された。部屋は彼の執務机に本棚と甲冑に彼の大槌が壁にどんと鎮座していた。奥の執務机にはうず高く書類が積まれ、来客用机にも少しそれがはみ出てる。


「おう、狭いが気にしないでくれ。ほれ、座った座った」


俺とセシリアさんの向いにジルと作業服の中年、その間の中央にバルツァーが座る。


「で、ドルキーのおっさんよ。この間も言ったけどあれは無理だって」


ドルキーと呼ばれた中年は、長年の友人なのだろうかバルツァーの顔を見ながら、しみじみとした目をしてる。


「なあ、バルツァーよ長年の付き合いだ、お前さんの言う事ももちろん分かるさ。だがな、あれを許しちゃ本当におしめえだぞ」


横のジルもコクコクと頷いてる。ふむ、本当に面倒くさい話っぽいなこれ。


「しかしなー、民衆の支持を得てるもんってのは本当に面倒くせえんだよ」


「あのー、すみません。いったいどう言うお話なのでしょうか」


セシリアさんが話をズッパリぶった切るが、いやこの場合はコレが正解な気がする、正直俺もこれじゃ何が何だか分からない。


「おお、すまんなべっぴんさん。失礼、俺はお前さんたちが昨日しこたま飲んだエールを作ってるケラー醸造所でマイスターをやっているドルキーってもんだ。で、こっちがジルだ。昨日挨拶はさせてもらったそうだが良い飲みっぷりだそうじゃないか」


「ええ、あのエールのキリッとした飲み口と苦味は最高でした。それにカムエールにしても美味しくて本当に文句ないですねあれ」


ドルキーがジルの背中をバンバン叩きながら凄く嬉しそうに笑ってる。


「がっはっは、ジルこいつは若いのに良くわかってるやつだ。お前さんの見る目は相変わらず最高だな」


耳をぴょこぴょこさせながらジルが凄く嬉しそうにしてる。仲いいんだな。


「さて、そんなお前さんはこの近辺の酒事情ってのは知ってるかな?」


「いえ、すみません最近来たばっかりなので詳しくなくて」


「いやいや気にするな。エールってのはな、材料が決まってて、麦芽、水、ホップ、酵母の4種類で作るんだ。シンプルだからこそ奥が深いんだが、何処にでも馬鹿がいてな、これに量を増やすためだけに下手な混ぜものする馬鹿が増えたんだよ。麦芽の代わりに古く駄目になったパンを粉にしたり、そもそも麦芽じゃない粉混ぜたり、水が悪かったり、まあ色々と酷えもんさ。で、領主様が怒っちまってな、エールはさっきの4種類以外で作るのを禁止したんだよ。そしたら、街のゴロツキ共が職にあぶれた粗悪なビール作ってる奴らを抱えこんで闇エールの製造初めちまったんだ。まあ味はさっきも言った通り最悪なんだが、安い。飲めれば何でも良いって連中も残念ながら街にはそれなりにいて支持が結構有るんだコレが。で、このゴロツキ共が俺らがいなくなればもっと闇エールが売れると考えて醸造所に嫌がらせをしてきて、これが最近酷くてな。動物の死体が朝玄関に置いてあったり、窓が割られたりなんて可愛いもんで、最近は工場に忍び込んで機材を壊そうとした形跡まで出てきたんだ。困って俺らも見張りを立てたりしてるが限界が有るから、冒険者にって思ったんだが……これがてんでダメだ。金のない冒険者も闇エール飲んでるは、住民からも安酒は一定の支持があって依頼を受けたやつに対して風当たり強くるわで、今じゃ誰も依頼を受けてくれねえんだ」


うーん、ビールの歴史と禁酒法のアルカポネ足して割った感じだなコレ。バルツァーも頭をカキながら苦虫を噛み潰したような顔になってる。


「うちもなー、最初は人を出せたんだが言った通り分が悪くてよ色々と……お前らこの依頼受けてみるか?正直ゴールドに半分足を突っ込んでる依頼だが、まあ戦闘力だけならゴールド余裕なお前らだし、それに街のやつらもお前らの事なんて知らないしちょうどいいか」


「ふぁ?何で僕達に。今日は常設依頼を受けて色々ならして行こうと思って」


「あー、まあ、いいよ。どうせお前たち絶対できるしそんなの。俺が許可するから受けてやってくれよ」


「エールが好きな二人に受けてもらえるなら私も凄く嬉しいですね」


ジルの尻尾も左右にわさわさ嬉しそうに揺れている。黙って聞いてたセシリアさんがバルツァーの方を向きながらゆっくり口を開く。


「お話を聞いてると、受けてあげたいとは思うのですが、正直不安要素が多すぎて厳しいかと思いますので、お受け出来ません」


「まあ、嬢ちゃんそう言わないでくれよ。正直夜に馬鹿が来たらちゃちゃっと、その杖で脅してくれればいいだけだからよ」


セシリアのマントの中にちらっと見えるショルダーホルスターを指差しながらお願いしてくるドルキー、目ざといな。


「無理なものは無理です」


「そこを何とか頼むよ。報酬は1日金貨2枚に加えて夜の見張りの時以外はうちのエール飲み放題にしてやるから」


え、なにそれ。あれが飲み放題とか金貨2枚分以上の価値が既に、ん?セシリアさんの手が俺の手にそっとおかれる。


「マスター、人助けって尊いと思いませんか」


はっや!!籠絡されるのはっや!!


「おお、嬢ちゃん良いやつだな。お前さんも嬢ちゃんがこう言ってるんだし、どうだ受けてくれないか」


「俺からも頼むよ。正直うちのギルドから出せる手駒が本当に無くてギルドとしてもお願いできるなら是非お願いしたい」


「ふふふ、直哉さんが醸造所に来るんですか。素晴らしいですね是非是非お願い致しますわ」


「直哉さん、一言私に命令して下されば直ぐにでも動けますよ」


うーんこの。実際問題、セシリアのハンターサークルとサーチがあれば其処まで厳しい依頼じゃない気はするしまあ、これも女神様のお導き……元気系居酒屋女神だからお酒の依頼ってか?


「わかりました、お受けします」


「おお、有難う直哉君!!さっそく今日からお願いしたいんだが」


「わかりました、宿屋に荷物取りに行ったりするので、夕方以降にギルドの前で待ち合わせで良いですか?」


「おお、じゃあジルを迎えに出すからよろしく頼む」


おおう、セシリアさんが一瞬でジルを威嚇し始めた。大丈夫かなこれ。


「有難うなルーキー。じゃあ、俺は適当に依頼書でっち上げるから、大船に乗った気持ちで仕事してこい。骨は拾ってやるからな」


知ってた、こういう人だって知ってたよ俺。そんなわけで、俺たち最初の仕事が決まりいそいそと準備する為に戻る事にした。はてさて、どうなる事やら。






何時もお読み頂き有難うございます。ブックマークや評価ポイントを頂けると、今後の励みになりますので、よろしくお願いいたします。


大雑把なギルドに大雑把な依頼。相性は最高ですね!!

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