世界の救済〜ウィリアム〜
イスマール城、近衛騎士団詰所にて
「団長!団長はおられますか!!」
寝ていたところを部下に叩き起され、ウィリアムは空が染まってから初めての朝を迎える。
「なんだ、こんな朝っぱらから」
「し、城の外で……!」
「空が赤い、とでも言うつもりか?」
「い、いえ、そうではなく……」
「なんだ、はっきりしないか!」
この時、ウィリアムは内心でイライラとしながら部下の話を聞いていた。
一晩に起こった様々な出来事により、精神が限界に達していたのである。
「神の遣いを自称する10代半ばほどの少女が、ウィリアムを出せ、と」
「そんなもの適当に追い返せばいいだろう?」
「それが、少女の周りには不可侵の透明な結界のようなものが張られており、近付けないのです」
「チッ、魔法使いか、仕方が無い。向かうとしよう」
魔法使い……何も無い場所に火を生み出したり、水を流したり、空を飛んだりする不思議な術を使う人間達の総称だ。
ただ、使える者は極端に少なく、魔法使い同士で集落を作り隠れ住んでいるため、ほとんど関わりはない。
鎧を着込み、剣を腰に差し、準備を整え少女の元へと向かう。
「お前が、神の遣いか?」
そこにいたのは、神の遣いなどとは到底思えないただの少女だった。
「是。ワタシは神の託宣を貴様に与える為、この下界に降りてきた」
「証拠を見せてみろ。お前がただの魔法使いではなく、神の遣いだという証拠を」
「そのようなモノはない。信じろなどとは言わない。ワタシは貴様に託宣を与え、神の元へ還る」
「つまり、お前はここで話をすれば帰ってくれる、という認識でいいんだな?」
「是」
「なら好きに話してくれ」
「是」
少女は腕を突き出し、呪文を唱え始めた。
「これが記憶の奔流。神の託宣だ」
少女がそう言った瞬間、ウィリアムの頭の中に記憶が塗りこまれていく。
『今、この世界は危機に瀕している。異世界から計6人の人間が、およそ半年ごとに1人ずつこの世界に現れる』
『1人目の異世界人は、“流星”の勇者。能力は、一度きりの世界改変。もう使うことは出来ない』
流星と聞いて、ウィリアムの頭に浮かんだのは昨日の流星群だった。
「まさか、昨日の流星群は……」
「そうだ、昨日の流星群は“流星”の勇者の現界によるもの。さらに、その時に使った世界改変によって空は赤く染まり、貴様の大事な姫様とやらも氷の中へ閉じ込められた」
「何をすれば姫さ……」
最後まで言う前に、また記憶が流れてくる。
『2人目以降の勇者は“流星”の流れで変わる。その時を待て。託宣は貴様の中にある』
「それで、姫様は何をすれば元の状態へ戻せ……なに?」
ウィリアムが少女のほうへ向いたとき、そこにもう少女はいなかった。
「瞬間移動の魔法……か?」
念のため周囲の捜索を命じ、部屋へと戻る。
「“流星”の勇者か……いるのかは分からないが、探す価値はありそうだな」