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僕はつい最近この施設に母さんに連れられてきた。


「いい子にしているのよ。必ず迎えにくるから」


そんな言葉と悲しげな顔が僕の見た最後だ。僕はそれ以来この施設で過ごしている。

ここは、十数人の少年少女が生活している場所だ。外の世界から切り離された不思議な世界。

なぜ僕はこんな場所に連れてこられたのか。マンションから飛び降りたせいだろうか。


別にいじめられていた訳でもない。虐待を受けていたわけでもない。

でも、息が詰まっていた、この世界に。目に見えないものに締め付けられるような。

じわじわと真綿で首を締め付けられるような、そんな感覚。勉強、人間関係、親の期待なんかが僕を押しつぶす。

そんな世界がいやだった。逃げ出したかった。

ある日ベランダに出た僕は下の世界に吸い込まれるような感覚がした。少し出かけてくるかのように柵を乗り越え、飛んだ。


その後のことはよく覚えていない。気がついたら病院のベットの上に寝かされていた。まだ生きてる。そんなことを考えていたら、母さんが泣きながら語りかけてきた。


そんなこんなで僕はここにいる。別に死ぬ気があったわけじゃないけど。ただ逃げ出したかっただけ。結果、逃げだせたような、また閉じ込められたようなそんな感じだ。



「ねえ、何を見てるの」


窓際で外を見ていた時に、ひとりの女の子が語りかけてきた。同じ10歳くらいだろうか。長い黒髪。あどけない瞳。白いワンピースを着ている。かわいい子だなと思った。


「ただ外を見ていただけだよ」

「ふーん。何もないのに外を見てるだなんて変なの」


首をかしげて不思議がっているような。


「僕はシュウ。君の名前は?」

「私はヒカリ。よろしくね、シュウくん。」


手を差し出してきたヒカリの手を握った。

その手は小さく、でもとても温かかった。


「この場所ってどんな風に感じる?」

ヒカリが僕に聞いてきた。


「外の世界から切り離された場所、かな」

「そう。ここは外の世界から隔絶された場所。そして私たちは外の世界からはじき出された人たち。私もあなたも含めてね」

「はじき出された?」

「そう。私は人には見えないものが聞こえたり、見えたりするの。そのせいで学校でいじめられた。親には怖がられた。周りに誰も頼れる人がいなかった。ある時、大人の人が来て私はここに連れてこられた。だから私はここにいる。あなたも似たようなものでしょう?」

「まあね。僕は生きることに疲れてた。親からの期待とか、学校での人間関係とか。だからかな、マンションのベランダから飛び降りたんだ。逃げるために」

「自分を守るために?」

「そう僕が僕自身を守るために」


この子は僕と同じものを見ているのかもしれない。そんな風に感じたんだ。


「よく助かったね」

「確かにそうだね。そんなこんなで、この施設に連れてこられたんだ」

「私と同じ。壊れた子」


気がついたらヒカリの顔は目の前にあって、僕は頬に暖かさを感じた。


「あなたは私のものだから。シュウ君」


キスされた僕はその場で何もできないまま、ひらひらと去っていくヒカリを見ていた。頬に残った暖かさはしばらく消えなかった。

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