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7-13




 〝白乃宮メイド隊〟……もうかれこれ十年以上結といっしょにいるが、俺はそんな存在があったことすら知らなかった。というより、いつものおしゃべりタイムの時にさえ、俺には端にもそんな言葉を聞いた憶えがなかったのである。

 ……たまたま? 話す必要がなかっただけ? それとも――。

 ふ……と気になり、俺は、ちらり、結の方を向くと……結はなぜか、しかし明らかに二人から〝顔を背けて〟いた。それも、どうしてかは分からなかったが、何となく。申しわけなさそうな、〝気まずい表情〟で……。

 ……何か、あるんだろうな、これは。

 そう、嫌でも直感した俺は、二人に話を続けてみる。

 「……えーと、ちょっと質問したいんだけど……いいかな?」

 どうぞ。優しく微笑みながら答えた愛ちゃんに思わずたじろいでしまったが、俺は構わず続けた。

 「……その、二人が名乗った、〝白乃宮メイド隊〟のことについてなんだけど……俺はもう結と十年以上もいっしょにいるんだが、そんな隊があったなんてことは今まで聞いたことすらなかったんだ。……ああ、いや、でも屋敷の方にいた大人のメイドさんたちとは何度か話したことはあったかな? ……お前らはあのメイドさんたちと同じような立場だったのか?」

 「いえいえ、全然違いますよ~」

 それには明ちゃんが即答した。

 「彼女たちは白乃宮家の家事全般を任された、ただの(やと)いメイドです。私たちはそれとは違って、白乃宮家に直結(ちょっけつ)したメイド……つまりは、〝一族代々白乃宮家に(つか)えてきた者〟という感じですかね? 〝御守〟、という名字はそれを表しているんですよ。――あ、と言ってもべつに全員血が(つな)がっているわけではありませんよ? 現に私と愛は赤の他人ですし……昔は本当に血の繋がった者だけが仕えていたらしいんですけど、いつの頃かその血が途絶えてしまったらしくて、結果、今では私たちのように親を失って〝孤児(こじ)〟となった者を〝養子〟としてそこに迎えるようにしているんですよ」

 「……なるほど、そうだったのか」

 特に疑うような要素はなかったため、俺は素直に納得した。しかし――

 「……お前たちのことは分かったよ。でも、それなら余計に気になることがあるんだ」

 「気になること……ですか?」

 ? と愛ちゃんは首を傾げた。俺はそれに、ああ、と頷いてから続ける。

 「……この際だからはっきり聞いておくぞ? なんでそんな専属メイドさんたちが、今頃になって戻ってきたんだ? ――白乃宮家はとっくの昔に潰れているはずだ。つまり、お前たちのような専属メイドはもうその〝役目を終えた〟はず……なぜ、それでも、今もなおその名を名乗り続け、そして結の下に戻ってきたんだ? ……答えてくれ」

 ビクビク、と俺の言葉に結の身体が反応する。……どうやら、結もそのことが気になって今まで何も言えないでいたらしい。――しかし、当たり前といえばそのとおりだ。なぜなら彼女たちは自分(ゆい)の家がなくなってしまったことで、今まで積み重ねてきた歴史、(ほこ)り……その全てを失ってしまったのだ。それに、白乃宮家に直結して仕えていた家ともなれば、白乃宮事件の後のことも、現在の結に対する周囲の反応を見ればだいたいは想像がつく。……決して、楽な時間を送れたことはなかっただろう。

 俺は、膝の上で震える結の強張った手を優しく包み込むようにして握り、そしてもう一度聞いた。

 「……答えてくれ。どうしてだ? どうして、戻ってきた? それが分からない以上は、俺はお前たちと仲良くする気はない。だから……頼む。答えてくれ」

 ――ピリピリ、と、緊張の糸が張りつめる数秒の間……二人は、俺の真剣な表情を見てか、まるでビックリしたかのように、または(ほう)けたような、そんな微妙な表情のまま、お互いの顔を見合わせた。

 ごくん、と思わず、俺はそんな二人の様子を見て、緊張のあまり唾を飲み込んでしまう。その音はこの場にいる全員に聞こえたのではないかと思えるほどに大きかった。

 ……いったい、どんな答えが返ってくるのだろうか? 想像もつかない。

 我慢できず、俺が再び唾を飲み込もうとした、

 ――瞬間だった。





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