7-10
スラア……。
突然、愛ちゃんが背中に…制服の中に左手を入れたかと思うと、一瞬、銀色に光り輝く、鋭い〝ナニカ〟が見えたような気がした――その時だった。
サンッ……まさにほんの一度、瞬きをするかしないかというほどの短い時間だった。――そんな限りなくゼロ秒に近い時間で、なんと、高利の上半身と下半身は、真っ二つに切り裂かれていたのだ。
迸る血しぶき……「え?」と、それを浴びた者たちは、未だに何が起きているのか頭が追いついていない様子だった。
――だが、その数コンマ先、俺は、見た。愛ちゃんが背中から抜き放った、〝ソレ〟を。
〝ソレ〟は、〝仕込み杖〟だった。
――〝仕込み杖〟とは、簡単に言うと、〝暗殺〟を目的とするために作られた、〝短い刀〟である。
日本刀よりもリーチは短く、強度の脆いそれではあるが、その分隠して持ち歩くのには向いていて、背中、わき腹、腹、袖の中、ズボンやスカートの中……身体のあらゆる場所に隠せる、まさしく〝暗器〟である。
それを振るった彼女の目は、もはや幼さの欠片もない……まるで日本刀のように鋭く、獲物を捕える時の獣の目にそっくりだった。
彼女はまだ全員が何が起きているのかも理解しないうちに静かに目を閉じ、続いて、しかし同じように鋭い峰打ちで高利の上下を後方へと殴り飛ばした。
――そして、そこで待っていたのは、明ちゃんだ。
明ちゃんは両腕を自らの首の位置にまで高く上げ、先に飛んできた高利の下半身を鋭い回し肘打ちで粉々に粉砕し、間髪入れず飛んできた上半身は、がっちり、と両腕でその首を固定し、強烈な膝蹴りを喰らわせる……当然、高利の頭部が無事なはずもない。破裂し、モザイクなしでは到底見ることもできないような、おぞましい姿と化していた。
……間違いない。あれは、〝ムエタイの技〟!!
毎度結を見ているせいか、何となく武術に詳しくなってしまった俺は、それが何かすぐに理解することができた。
〝ムエタイの構え(タン・ガード・ムエイ)〟から放たれる〝回し肘打ち(ソーク・クラブ)〟…そして、〝抱え膝蹴り(カウ・ロイ)〟……一目見ただけで分かる。愛ちゃんも含め、二人とも凄まじい実力の持ち主だった。
い、いったい、何者なんだ? あの二人は!?
俺が恐れ慄いていると、ようやくクラスから悲鳴が上がった。
悲鳴は次々に連鎖し、すぐにクラス中がパニックに陥る。
――だがしかし、誰も自身の席から動こうとはしない……いや、違う。〝動けなかった〟のだ。二人のその強烈な眼光を前に、悲鳴こそ上げれども、身体が言うことを利かなくなっていたのだ。……中にはプレッシャーに耐えかね、気を失う者まで出てくる始末だ。
な……何なんだ、これは!? これじゃあ、まるでお嬢――
次の瞬間だった。
――ガ、ドン!




