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 「……何、独りで(さわ)いでるの?」

 「……え? ……あ、いやいや。べつに何でもないよ? それより、早く着替えてこいよ。さっさとゴハンにしようぜ?」

 ……騒いでいたと思ったら、今度は妙に冷静な態度……結はそんな俺の様子に少し首をかしげながらも、「うん……わかった?」と、襖を開けて自分の部屋に入って行った。

 ――それを見送った俺は、瞬間、はふぅ~……と深いため息をつく。

 ……どうも、俺には〝妄想癖(もうそうへき)〟というモノがあるらしい。これからは気をつけなければ……。

 っと! それよりも、だ……。

 俺は、そんな反省を胸に刻みつつも、結に言われたとおり。母さんに怒られることを回避するために、〝一応〟、〝ちゃんと〟、上着と制服をタンスに片づけて、手早くいつもパジャマ代わりに着ているTシャツに着替えを済ませた。

 それから、改めて隣の部屋にいる結に向かって話す。

 「……よし、と。おーい、結~? 先に行ってるぞ~?」

 『うん、わかった~』――という小さな声が、襖越しに聞こえた。

 それを確認した俺は、部屋を出て、一階のリビングへと向かう。

 「……ん?」

 ――と、しかしその移動途中。二階の廊下で、俺はふと、壁に引かれた何本もの〝横線(よこせん)〟と、そして〝小さな文字〟を発見した。

 「……何だこれ?」

 気になった俺はそれをよ~く、観てみると……そこには、ひらがなや、漢字混じりのひらがなで、【くらたりょうごさい】だの、【白のみや結六さい】などが順番に書いてあった。

 ――なるほど、俺たちの〝背比べ〟の(あと)か……。

 これを書いたこと自体は今の今まで忘れていたが、見さえすれば今でもはっきりと思い出すことができる。――それこそ、途中の十歳くらいからは、俺が一気に結の伸長を引き離し、結が怒って比べるのを止めてしまったのだが……それまでは、この〝順番〟に引かれた線を見ても分かるとおり、抜いたり、抜かれたり、俺たちはかなりの接戦を繰り広げていたのだ。

 あ、そういえば……と続けて思い出す。

 あの結の部屋……俺の部屋からしか行くことができない、という、妙な形で(つな)がったあの部屋は、結が俺の家に住むようになってから、僅か二カ月ほどでできた部屋だ。

 何でも、家の構造上廊下(ろうか)側に扉をつけることはできなかったらしいんだが、それでも当時の母さん曰く、

 『やっぱり、女の子には自分の部屋が必要でしょ? それに、二人が大きくなった時におんなじ部屋のままじゃ、困っちゃうしね?』

 ――ということらしい。

 この背比べを書き始めたのは、ちょうどその頃のことだから、もうあの部屋ができて十年くらいになる。

 早かったような、長かったような……年寄りくさい、何て言われてしまうかもしれないが、これを見ただけで、何だかそんな、色んな気持ちがあふれてくるなぁ……。

 「――あれ? 亮?」

 と、その時だった。そこに、俺と同じくいつもパジャマ代わりに着ている、ちょっと、ブカブカ、なセーターに着替え終わった結が歩み寄ってきた。

 「何してるの? ゴハン、行かないの???」

 「ん? ああ、いや、行こうと思ったんだけど……ほら、ここに背比べの跡を見つけてさ? ちょっと(なが)めてたんだよ。――結も見てみろよ。俺たち、こんなに小さかったんだぞ?」

 俺が言うと、へ~? どれどれ? と結が(のぞ)き込んできた。

 「ホントだ~! へ~? 私たちって、こんなにちっちゃかったんだ…ね……」

 「だろ? それに、かなりの接戦だったんだよな……って、あれ? 結???」

 「…………」

 ――気がつくと結は、無言無表情のまま、固まっていた。

 ……なぜ? そう不思議に思い、俺は結の視線を辿(たど)って行くと……ああ、なるほど。

 結の視線は、あのダントツで〝一位〟に輝く、一本の線。


 【倉田 亮 十歳】――に、注がれていた。


 「……ゴハンだよ。こんなのどうでもいいから、早く行こ?」

 そう呟いた結は、それ以上何も言わず、さっさと階段を下りて行ってしまった。

 …………よほど、悔しかったのだろうか……?

 俺は、同じく黙ったまま、ただその後に続いた……。





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