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 「おっかえりぃ~」

 ――俺の家。

 結の声に気がついたのだろう。パタパタ、と急いでキッチンの方から走ってきて出迎えたのは、俺の母さんだった。ちなみに、涼子(りょうこ)と言う。

 夕方のこの時間。どうやら、などと言うまでもなく、母さんは夕食を作っていたらしい。その証拠に、髪を束ねながらのその姿は、ネコちゃんマーク入りのピンクエプロンを装備したままだった。

 ……あ、他のお母さん方と比べると、かなり〝若い〟。――ということを、ここで一応強調して言っておこう。だって、言わないと、怒られるから……。

 「――あら、そんなことより今日も亮ちゃんといっしょなの? ふふ♪ 相変わらず仲が良いわね♪」

 と、突然……何の脈絡(みゃくらく)もなく、急に放たれたその言葉。……俺たちのことを相変わらず、なんて言ってはいるが、母さんも母さんで相変わらずだ。

 ――それには当然結も、「お……おばさま!? 急に何を!?」と驚きの声を上げていたが、あらあら、うふふ❤ と母さんはそれを、同じくいつもの調子で笑い飛ばした。……どうやら母さんは、結のかわいらしい反応を見て楽しんでいるようだ。やれやれまったく……グッジョブだぜ、母さん!!

 ぐっ! 見えない所で親指を天に向かって突き上げている俺……は、まぁどうでもいいとして、母さんはそれから、笑顔のまま続けた。

 「さ、そんなことより早く着替えていらっしゃいな♪ もうすぐゴハンよ!」

 「うぅ……はい…………」

 ……どうやら、結も結で、毎回大げさなまでに反応してしまう自分が恥ずかしくなってしまったらしい。耳まで真っ赤に染めた顔をうつむかせながら、しぶしぶ、返事をする。……当然、それを見た母さんがまたうれしそうに笑っていたということは、言うまでもないだろう。

 ……まるで、〝本当の親子〟のようだな。

 ――なんて、思ったけど、実際その〝本当の親子である俺〟が同じく帰ってきているというのに、結ばかりで未だに一言もないのは、いかがなものだろうか? とも、思った。……なぁ、母さんよ?

 …………ま、いいんだけどさ。

 はぁ、やれやれ……ため息をついた俺は、そんな母さんのことをテキトーに無視して先に玄関に上がり、そのすぐ脇にあった階段をのぼる。……それには結も、「あ、それじゃあ私も着替えてきますね?」と母さんに一言断ってから、急いでついてきた。

 ――さて、そんなこんなで場所は変わって、ここは二階。

 見渡すと、そこには扉が二つ……手前にあるのが、今は使っていない俺の父さんの部屋で、左奥にあるのが俺の部屋だ。ちなみに正面にあるガラス扉は、ベランダである。

 当然、俺は左奥の自分の部屋に向かい、その扉を開ける。

 カチャリ。――すると、そこに広がっていたのは……当たり前だが、いつもの見慣れた光景だった。

 俺の寝相(ねぞう)の悪さで、()かれた青いシーツが、ズレズレ、になってしまっているベッド。

 ちゃぶ台とも言える、小さなテーブルの前に出しっぱなしにされた、様々なゲーム機器。

 唯一いつもと違ったことと言えば、せいぜい食いかけのお菓子の袋がなかったことくらいなものだろうか……?

 そんな、いつもの光景。いつもの俺の部屋。俺はそこに足を踏み入れて、これもまたいつもどおり、制服の上着に手をかけ、それをベッドの方へと脱ぎ捨てた。

 「――あーっっ!」

 ――と、これもまたまたいつもどおり。……と言える光景だろうか? 俺の後に続いて部屋に入ってきた結が、声を上げた。

 「またそんな所に脱ぎっぱなしにして……もうっ! おばさまに怒られるよ!」

 「んあ? ……ああ~、大丈夫だって。後でちゃんと片づけるし?」

 「そんなこと言って、いっつも片づけてないじゃない! 怒られても知らないからね!」

 「分かってる。分かってるって……」

 「む~! まったく……」

 はぁ、とため息をついた結は、それから自分が着ている上着に手をかけ、脱――

 ……え? ――はっ!? いやいや! 違うぞ!? これでは俺と結が〝一つ屋根の下〟、どころか、〝同じ部屋で暮らして〟いるみたいに見えるが、断じて違うぞ!? ……そりゃあまぁ確かに小さい頃は、いっしょの部屋で、いっしょのベッドで、仲良く寝ていたことも事実としてあったが、今は違う! 結の部屋はそこの、部屋の奥にあるテレビの脇……〝(ふすま)の向こう側〟だ! だから、青少年及び男女問わずあらゆる年代の皆さん! 勘違いはしないでいただきたい! そして今一度言っておこう!


 ――この世には、そんな〝パラダイス〟は存在しないと!!






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