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「――亮ちゃん。結ちゃん、起きたわよ?」
そう言って、母さんに肩を支えられながら、ふらふら、と覚束ない足取りでリビングにきた結の表情は……涙で腫れていた顔は元どおりにはなっていたものの、代わりに目の下には隅が現れ、そして精気もなく、素人目に見てもかなりやつれてしまっているような状態だった。
……これから俺は、こんな状態の結を相手にし、そして元どおりに……いつもどおりの結に戻さなくてはならないのか……。そう、今さらながら、与えられた重大な〝使命〟に、俺は思わず息を呑んでしまったが……俺は改めてそんな自分に活を入れ直し、そして、結の姿を真っ直ぐに見つめた。
「……いい目ね、亮ちゃん」
そう呟いてから、母さんは結に優しく話しかけた。
「――さぁ、結ちゃん? これからね、亮ちゃんが結ちゃんに、〝大事なお話し〟があるんだって。……聞いてあげられる?」
「……りょ……が……?」
かすれるような小さな声で答えた結に、母さんは「うん♪」とあえて元気よく答えた。
「そうよ。だからほら、さっき着替えてもらったでしょ? これから亮ちゃんとその辺を、ぶらぶら、歩いて……〝デート〟でもしながら、ゆっくり話してきなさいな?」
「……」
言葉はなかったが、こくん、と小さく、しかしはっきりと結が頷いたのが分かった。
それを確かめてから、母さんは、パチリ、とウインクし、俺に合図を送った。
……そう。これからは、俺の番なのだ。
俺は椅子から立ち上がり、結に近づいて一度「じゃあ、行こうか?」と声をかけてから、結の肩を支え、ゆっくりと外へ向かった。




