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6-2



 「――はっ!?」思わず出てしまったその声と共に、我に返った俺が次に目にしたのは、変わることのない、暗闇に覆われた世界――ではなかった。

 そこに映っていたのは、〝結〟の姿だった。

 吹きつける、目を開けていることすらも困難な強風……それにさらわれまいと、絶対に離すまいと、しっかりと〝繋がれた俺の両腕の中〟……そこに、〝結〟の姿があったのだ。


 ――ああ、そっか……俺、結の後を追って……〝飛び出した〟んだった。


 瞬間、俺は現状と、そこに至るまでのその一瞬に、何があったのか? 俺自身がいったいどのような行動をとったのか? その全てを理解した。

 ――そう。俺は文字どおり、一瞬たりとも〝迷うことはなかった〟のだ。

 結が俺の視界から完全に姿を消失させた、その瞬間。俺はただ必死に〝一つのこと〟だけを考えて、結の姿を追って飛び出していた。


 その〝一つのこと〟とは――〝結を助けたい〟。ただ、それだけだった。


 ……その実、俺は今まで、一度たりとも結を助けることができてはいなかった。

 ――学校で陰口を言われた時。

 ――一人だけ仲間外れにされた時。

 ――道行く人たちに白い目で見られた時。

 ――悪質ないじめを受けていた時。

 ――そして、何より……〝白乃宮事件〟が起こった、その時。

 ……俺は、結の一番近くにいたはずなのに、何も……結を助けるどころか、そのどれもで、何もしてやれていなかったのだ。

 だから……と、俺は思った。

 だから、俺は……今まで何もすることができなかった、その分。今何もしなければ、確実に結の命が失われてしまうであろうこの瞬間に、俺の…俺自身の全てを……〝命〟をかけて、結のことを助けよう。そう思った……いや、そう〝決意〟したのだ。

 ――必ず!!

 次の瞬間、俺は半ば直感的に、地面より遥かに柔らかい人間の身体……つまりは俺自身の身体をクッション代わりにするために、結を抱えたまま中空で身を反転させ、背を地面に向けた。

 そして、同時に、心に誓ったその思いを胸に、残された僅かな時間……俺は、結に向けて、〝最後の言葉〟を、全力で叫んだ。

 結――


 「お前の〝夢〟を……〝俺たちの夢〟を、叶えてくれ――絶対に諦めるなッッ!!!」


 ……もし、この世界に本当に神様ってのがいたとしたら……お願いします。俺の命はどうでもいい。何なら死んだ後、ずっと奴隷としてこき使ってくれても構わない。だから……お願いします。結を……助けてください。最初で最後の俺の願いを、どうか叶えてください……。

 お願いします……。


 ――ドッ……


 刹那、俺の身体を凄まじい衝撃が貫いた。





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