5-8改
【視点・亮→〝結〟】
……〝違う〟。
――月曜日の朝。
「――すまん結。俺、ちょっとばかり高に用があるから、先に学校に行ってるよ!」
そんなことを言って、いつもより三十分も早くウチを出て行った亮の背中を見て……確かに、私はそう感じた。
……ううん、それも違う。そうじゃない。そう感じたのは、もっと前……私がおばさまといっしょにお料理教室から帰ってきた一昨日の夜……その日から、ずっとだ。ずっと……それこそ口には出さなかったけれど、私は確かに、いつもの亮とは何かが違う……〝違和感〟……というものを、感じ続けていたのだ。
――その疑念が〝確信〟に変わったのは、昨日……亮とゲームをしている時だった。
あの時、疑念のせいからか、どうしても亮の様子が気になって仕方がなかった私は、こっそりと、亮に気づかれないように度々、その横顔を……〝表情〟を見ていた。
すると、どういうことか……ある時突然、亮のその顔が、瞬間〝苦悩の色〟に歪んだのだ。
何? そう思って私はすぐにゲーム画面を見てみたけれど、もちろん、ゲームをしていて何かがあったわけではない。むしろゴールも近く、本来亮にとっては良いことばかり続いていたはずだったのだ。
……だけど、亮のあの表情……あれは明らかに、何かを考え込んでいる表情だった。
そして、それから数秒後に発せられた、あの〝言葉〟。
『……くそっ!』
……亮はあの時、ゲームで起こったできごとにうまく口を合わせていたけれど、その前の表情を見ていた私には、それが〝ウソの言葉〟であることがすぐにわかってしまった。
……あの表情……亮はいったい、何のことで悩んでいるのだろう?
…………わからない。……わからない、けれど、でも、一つだけ……亮にそれ以上、悩んでほしくない……その私の気持ちだけは、確かだった。
――だから……私はずっと、〝笑って〟いた。
とにかく楽しそうに笑って、亮に何も心配をかけないように、ずっと、笑っていた。
それが、私にできる精いっぱいの……唯一のことだった。
「…………亮……」
――いつもは私と亮の二人だけの、誰もいない通学路。私はそう小さく呟いて、遅刻をしないように気をつけつつも、できるだけゆっくりと学校へと向かった。




