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5-7改




 突然、その言葉が頭に浮かんだ。

 ……そうだ。〝都合の悪い〟こと。――書き込みをしようとするそいつがやられると困るようなことを……言い方は悪いが、〝脅し〟として使えばいいんだ。

 言ってしまえば、相手の弱みを握った上での、〝交換条件〟。弱みを他人にバラさない代わりに、新聞のことも黙っていてもらう……ということだ。

 ……だけど、とまたさらに問題が浮上してきてしまった。

 そう。一人や二人くらいならまだ何とかなるかもしれないが、新聞を読んだ生徒全員の弱みを握る……そんなことはもはや、現実的に〝不可能〟であるのだ。しかも、譬えそれが実際にできたとしても、俺があの新聞のことを結に……元・お嬢さまに話さないようにしろ、と脅すのには、あまりにも〝不自然〟……はっきり言って、自分から俺たちの関係をバラしてしまうも同じことだ。

 ……やっぱり、そんなことはできない……できるわけがない。

 ……くそっ!

 また口から飛び出しそうになるその言葉を、俺はどうにか呑み込んだ。

 ……何か良い方法はないのか? 結に気づかれず、周りの人間たちにも不審がられず、まるで〝何ごともなかったかのようにする〟、そんな方法が……!!

 「やった~! ゴール!」

 ――と、その時だった。結が声を上げた。

 見れば、ちょうど結の電車はゴールに止まり、多額の賞金を得ているところだった。

 えへへ~、とうれしそうに笑う結を見て、反射的に俺はすぐさまそれに拍手と、さらには場を盛り上げるための悔しさ溢れる言葉(トーク)を贈った。

 「あ~くっそ~! やっぱり先にゴールされたか~……さすがは結だな。運勝負なら、平凡そのものであるこんな俺なんかとでは相手にならんか~」

 「あはは、何それ~?」と結はそれを聞いて楽しそうに笑った。

 ……よし、と俺は、自分の電車を操作しつつも、内心ガッツポーズをとった。

 ――先ほどは危うく不審に思われるところではあったが、今度はどうやら場を盛り上げることにも成功したようだし、万事うまくいったようだ。……まぁ、だが、多少ではあるが……状況的に、下僕である俺が、まるで〝お嬢さまをもてなすために接待ゲーム〟をしているみたいだ、などと思ってしまったということは……これもまた、絶対に結には言えないことではあるのだが……。

 やれやれ、俺はそんな情けない自分にため息をついた。

 ――しかし、その瞬間だった。


 〝お嬢さまをもてなす接待ゲーム〟。


 また、突然……俺が思ったその言葉だけがなぜか浮かび上がり、頭の中でとてつもない存在感を放ったのだ。

 ……何だ? 思いながらも、俺は今一度冷静になって、なぜその言葉が浮かんだのかを考えてみた。

 お嬢さま……接待ゲーム…………お嬢さまを接待すること? そんなのべつに普通……どこかの会社の社員が、部長だの、社長だのを接待するのと同じような理由であるはずだ。それを行うこと自体には、何もおかしなことはない。

 ……いや、だが待てよ? ――俺は、その〝普通の考え〟にストップをかけた。

 ……でもそれは、〝会社の場合〟であって、〝社会〟でのことだ。同じようにお嬢さまのことをそれに当てはめて考えてみれば、確かに〝普通〟のことのように思えるが……しかし、そもそも、会社ではその接待をすることによって〝自分を相手に売り込む〟、だとか、そういう何らかの〝利益や目的〟があってやっていることのはずだ。それをお嬢さまのことに当てはめて考えてしまうと……少し、どころか、〝完全に不自然〟にすら思える――当たり前だ。事情を知っている俺であるのならばともかく、誰もあの、元・お嬢さまを相手に自分を売り込みに行くようなバカはいない。……もちろん、正真のバカである高利ですらも、だ。

 ――それならば、もし、俺以外の人間がお嬢さまを相手に〝接待する〟、ということになったのならば……それは、何でだ? 〝何のために〟、接待するんだ?

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………自分自身の、〝保身〟……のため??? そう。お嬢さまの恐怖から逃れたい、とか、そんな…………。


 ……そうか、


 刹那、俺はそのことに気がついた。

 ――あった……あったんだ! ただ一つ、結にも、他の人間にも、全く不審に思われることもなく、まるで〝何ごともなかったことにしてしまう〟ような、そんな方法が……!!

 テレビ画面を真剣に見つめる結を横目に、俺は無言で、心の中で約束をした。


 結――今度こそ俺は、お前を護ってみせる……必ず、護ってみせるからな……!!


 俺はこの日、その思いと(ひらめ)きを胸に、〝今できること〟の全力を尽くした。





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