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「――さて、じゃあ今日は何をやろうかな……と、ん?」
いつもゲームをしまってある戸棚を漁っていると、ふと、一つのゲームが目に留まった。
「これは……人生ゲームか」
そう。それは、電車を使って各地を回り、お金を貯めながらゴールを目指す、という昔からある有名な人生ゲームだった。
……今日は時間もあるし、こういった時間のかかるゲームもたまにはいいかもしれないな。それに、これならやりながら明日のこと……学校でのことも考えられるし……。
そう考えた俺は、すぐに結にそのゲームを見せて確認を取った。
「――結、久し振りにこれなんかどうだ? 時間もあることだし」
「ん? 人生ゲーム? ――うん。私はいいよ?」
「よし、じゃあこれにするか」
戸棚の戸を閉めてから、俺はそのゲームをすぐに準備し、結にコントローラーを渡した。
……さて。――俺は結に気づかれないように一度小さくため息をつき、こういう人生ゲームは、序盤は大きく動きにくいことから、さっそくゲームをやりながら明日の学校でのことを考え始めた。
……とりあえず、今の俺にできることの最終的な目標としては、結にあの記事のことが知られないようにすることだ。そのためにはまず……あの記事、新聞自体をなんとかしなければならない。――本来であれば出元を先に何とかする必要があるのだが、これはもうすでに母さんが動いてくれている。だから、つまり今俺がしなければならないことは、今現在までに出回っている新聞を結に見られないようにすることと、それからまだ誰にも読まれずにどこかに置かれているであろう新聞を回収、処分することだ。
これについては……まぁ、問題はないだろう。なぜなら、どうせ結はほぼ四六時中俺と一緒にいることだし、新聞があったらあったで後から回収することにして、とりあえずはそれを結に見られないように、話しかけるなどしてそこから注意を逸らせばいいだけのことだ。
……しかし、問題は新聞本体ではなく、それを見た〝多くの生徒たち〟の方である。
――そこに譬え悪意がなかったとしても、新聞で見たあの内容……それを、結に告げてしまう可能性が十二分に有り得るのだ。
……結に直接話しかける生徒はまずいないとしても、例えば黒板や机。そこへの書き込み。……悪質になれば、消されないように油性ペン……いや、そんなのはまだマシな方だ。机や椅子に直接の〝彫り込み〟。これをやられたら、もう防ぎようがない。だからといって俺がずっとそれを見張っていられるわけもないし、何よりも、俺の手の届かないような場所……女子トイレの中や、女子更衣室の中。そこに手紙の一つでも置かれたら……もはや、俺にはどうすることもできない。まさか結と一緒にトイレや更衣室に入るわけにもいかないし……。
「……くそっ!」――考えに詰まった俺は、思わず声を上げてしまった。
はっ! 瞬間我に返った俺は慌てて結の方を向いて弁解をしようとしたが……
「――あ~あ、残念」
え? とその結の言葉に、俺は逆に呆気に取られてしまった。
何だ? どういうことだ???
気になって、ふと、俺はテレビ画面の方を見てみると……偶然にも俺の電車は、ゴール一歩手前でストップし、しかもそのすぐ後に遥か彼方へとワープさせられていた。
あ! とそのことに気づいた俺は、慌ててそれに自分の口を合わせた。
「あ、あ~くっそ~! もうちょっとだったのに~! こんな遠くまできたらもう追いつけないじゃんか!」
あはは、とそんな俺の言葉を聞いてか、結は無邪気に笑った。
「そうだね。――でも、今度はそっち側に新しいゴールがくるかもよ?」
「ん~……まぁ、そうなんだけどさぁ~……」
はぁ~……とわざとらしく、大きくため息をついてから俺は正面のテレビの方に向き直った。
……どうやら、大丈夫だった……ようだな?
それから数秒……気づかれないように俺は横目で、チラリ、と結を見てみると……結の横顔はいつもどおり、楽しそうにゲームを続けていた。
……助かった、と俺は心の中で大きく、今度は安堵のため息をついて胸をなで下ろした。
危ない危ない……いくら時間のかかるゲーム中とはいえ、あまりにも不用心すぎたな。気をつけなくては……。
反省し、今度はテレビ画面をしっかりと見つつも、俺は改めて考えをめぐらせた。
……さっきは思わずイラついてしまって声を上げてしまったが……とはいえ、今一度冷静になって考えてみれば、要は書き込みだとか、そういうことを一切〝できなく〟してしまえば、問題は完全に解決してしまうわけだ。――しかし、前にも確か使ったことがあるが、言うは易し、行うは難し、という言葉どおり、そんなことができれば苦労はない。……だけど、もし、それを何が何でも行おうとするのなら、どうすればできる?
…………自分にとって、〝都合の悪い〟こと……?




