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5-4改 ウチゴハン。




 ――今の俺にできることは何か?

 その答えは昨日、母さんが教えてくれた。

 ……そう。今の俺にできることは、とにかく結にあの記事のことを知られないようにすることと、そしてもう一つ……昨日のことを、結にちゃんと謝ることだ。

 ……記事のことは、俺が変な態度をとって怪しまれさえしなければ……今日は日曜日だ。必然的に結は今日ずっとウチにいることになるし、ウチではネットを見る習慣もない。そして何より、高利からもらったあの記事も、もうとっくに外で処分済み。――となれば、つまり、とりあえずは学校に行かない限り、あの記事が結の目に触れることは有り得ない、ということだ。

 ――だったら、まずは今すぐにでもできること……そうだ。結に、昨日のことを謝ろう。

 そう考えた俺は、一階に下りて顔を洗い、身支度を整えてからすぐにリビングへと向かった。

 「――結、いるか?」

 扉を開けてすぐ。俺はリビングを見渡すと……隣のキッチン。そこに、母さんの手伝いをする結の姿があった。

 「……あ、亮……お、おはよ……?」

 ……やはり、と言っていいだろう。結のその、どこか余所余所(よそよそ)しい態度……今の俺と結の間には、何かこう……気まずい〝(かべ)〟のようなものができてしまっている。

 ……当り前か、と結に見えないように、俺はそんな状況を作り出してしまった自分の背中をつねって自身を仕置きした。

 その上で、「あのさ……」と俺は結に話しかけた。

 「結……昨日のことなんだけど、その……す、すまん! 昨日は本当に悪かった! ――実は昨日、その……げ、ゲームとか、買い物とか、とにかく何をしても不運としか言えないようなことばっかり起きて、それで一日中ずっとイライラしてたんだ。それであんな大声を出してしまったんだけど……と、とにかく! 昨日のことは本当にすまん! こんなどうしようもない俺だけど、許してくれ! お願いします……!!」

 ……はっきり言えば、俺の言葉は〝ウソの塊〟……だが、こんな時だ。今だけで言えば、きっとこれは〝許されるウソ〟だろう。そう思い、ばっ! と深々と、俺はできる限り深く頭を下げた。

 ……この時、俺には結の表情は見えない。だけど、この場に流れる空気……雰囲気によって、俺には確かに、結のその呆気にとられたような表情を読み取ることができた。

 ――それから、数秒後。

 俺には数分にすら感じられるほどの時間を空けてから、結はゆっくりと口を開いた。

 ――だが、その第一声は、俺の予想とはまるで違うものだった。

 「……うん、わかった。いいよ♪」

 「……へ?」

 ……思わず、そんな間抜けな声を出して俺は顔を上げた。

 「い……いいよ、って……その……ゆ、許してくれる……って、ことか……?」

 「うん♪」結ははっきりと、首を縦に振って答えた。

 「許してあげる、ってこと!」

 「え……あ……?」

 ……どういうことだ? てっきり、相当に怒っているとばかり思っていたんだが……?

 「あの……怒ってない……の?」

 俺は恐る恐る、それを結に直接聞いてみたが……結はまたもや予想外に、にっこり、と優しく微笑んで答えた。

 「怒ってないよ? ……だって、亮が怒鳴ったのにはちゃんと理由があったんでしょ? それに今、亮は謝ってくれたじゃない。だから、怒ってないよ? ――というか、最初から怒ってなんか、いないんだけれどね?」

 「……」

 えへへ、と優しく微笑む結に、何も答えることができなかった俺までもが、思わず笑顔になってしまった。……それには、俺自身が一番驚いた。

 だけど、それ以上に、

 ――結は本当に、本当に……〝優しい〟女の子だ。

 ……俺は今日、それを改めて思い知らされてしまった。

 ――同時に、そんな結の優しい笑顔を、俺は決して消させはしない……そう、心に誓った。

 「……はい! それじゃあ無事に亮ちゃんと結ちゃんが仲直りできたことだし」

 と、突然、ぱんっ、と手を叩いて母さんが声を上げた。――見るとその手には、一枚の大皿に山積みにされたサンドウィッチが掲げられて……ああ、なるほど。

 これが意味するところは簡単だ。つまり、

 「――朝ゴハンにしましょうか?」

 ……ということだ。

 「了解!」「はい!」

 その声に同時に、笑顔で答えた俺たちは、すぐに自分の席へと座った。





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