#5,傷心。 5-1改
【視点・〝結〟】
……結局、うまくいかなかった。
はぁ……小さく、私はため息をついた。
「……おばさま、すみません。せっかくお料理教室に連れて行っていただいたのに、私……」
「あら、いいのよそんなこと」
くすくす、優しく笑っておばさまは話した。
「あのお料理教室はどーせあたしの配下……じゃなかった! 〝お友だち〟がやっているところだから、いくら失敗しても気にすることないのよ」
「……はい…………」
……はぁ~……と再び。
……仕方ないか、と自分で思う。
今日のクッキー……せっかく、上手にできたら亮に食べてもらおうと思ったのに……また、失敗してしまった。……何で、私の作る料理はあんなふうに必ず〝真っ黒〟になってしまうんだろう? 亮とあんな約束までしたのに、もし、ずっとこのままだったら……
…………はぁ~……。
くすくす、そんな私を見て、おばさまはまた笑った。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。料理なんてものは九割は〝慣れ〟なんだから。何回もやっていればそのうちできるようになるわよ」
「……そう、だといいんですけど…………」
……あれ?
と、おばさまが言ったことに少し疑問を感じた。私はそれをすぐに聞いてみる。
「あの、おばさま……? 今、〝九割は慣れ〟……って、言いましたよね? ――じゃあ、残りの〝一割〟は、いったい……???」
「ん? ああ、それなら」――すぐにおばさまは答えた。
「今の、亮ちゃんに対する結ちゃんの、き・も・ち……よ❤」
「え……ええっ!!?」
――瞬間、ボンッ! と急激に上がった熱で、私の頭が爆発してしまった。
「おおお! おばさま! いったい何を!?」
必死に動揺する気持ちを抑えようとしてみたけど……そんなこと、無理だった。
おばさまはそれに構わず、うふふ❤ といたずらっぽく笑って続けた。
「ふふ、べつに間違ったことは言っていないわよ? だって、料理なんてものは誰かがそばにいて、その人のために作りたい。って思って作るのが普通なんですもの。それが譬え家庭での料理でも、商売での料理でも……もちろん、それ〝以外の理由〟でも……ね❤」
「う……あ……あの……で、でも……そんな……」
どう答えていいのかわからず、私はただ定まらない視線をあちこち動かしていると……ふわり、とその時。変装用に被っていた帽子越しに、おばさまが私の頭を優しくなでた。
「――いいじゃない、そんなに恥ずかしがらなくても。今はあたしたちだけなんだし、それに、〝好き〟っていう想いは女にとってすっごく重要なことなのよ? 精神的な面でも、肉体的な面でもね?」
「そ……そう、なんですか……?」
「もちろんよ!」
ぽんっ! 力強く胸を叩いて、おばさまは自信満々に言い放った。
「この私を見てみなさい! 〝結ちゃんのことが〟好きで好きでしょうがないから、このとおり! いつまでたっても〝若さ〟をキープしていられるのよ! もはやこれは結ちゃんなしでは絶対に不可能ね!」
「……な、なるほど…………」
……ん?
と、また疑問が……。
「……あの、おばさま?」
「ん? どうかした?」
「ああ、いえ、その……私のことが好きだって言ってもらえるのは、すごくうれしいんですけど……あの……〝亮のこと〟は……?」
「……え? 亮ちゃん? 亮ちゃんは……まぁ…………」
〝ついで〟、ね。
……。
……。
……。
「…………そ、そうですか……」
「うん♪」
「……」
……………亮……。
……私は、それから何もおばさまに聞くことはできなかった。




