表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/223

#5,傷心。 5-1改


  【視点・〝結〟】




 ……結局、うまくいかなかった。


 はぁ……小さく、私はため息をついた。

 「……おばさま、すみません。せっかくお料理教室に連れて行っていただいたのに、私……」

 「あら、いいのよそんなこと」

 くすくす、優しく笑っておばさまは話した。

 「あのお料理教室はどーせあたしの配下……じゃなかった! 〝お友だち〟がやっているところだから、いくら失敗しても気にすることないのよ」

 「……はい…………」

 ……はぁ~……と再び。

 ……仕方ないか、と自分で思う。

 今日のクッキー……せっかく、上手(じょうず)にできたら亮に食べてもらおうと思ったのに……また、失敗してしまった。……何で、私の作る料理はあんなふうに必ず〝真っ黒〟になってしまうんだろう? 亮とあんな約束までしたのに、もし、ずっとこのままだったら……

 …………はぁ~……。

 くすくす、そんな私を見て、おばさまはまた笑った。

 「そんなに心配しなくても大丈夫よ。料理なんてものは九割は〝慣れ〟なんだから。何回もやっていればそのうちできるようになるわよ」

 「……そう、だといいんですけど…………」

 ……あれ?

 と、おばさまが言ったことに少し疑問を感じた。私はそれをすぐに聞いてみる。

 「あの、おばさま……? 今、〝九割は慣れ〟……って、言いましたよね? ――じゃあ、残りの〝一割〟は、いったい……???」

 「ん? ああ、それなら」――すぐにおばさまは答えた。

 「今の、亮ちゃんに対する結ちゃんの、き・も・ち……よ❤」

 「え……ええっ!!?」

 ――瞬間、ボンッ! と急激に上がった熱で、私の頭が爆発してしまった。

 「おおお! おばさま! いったい何を!?」

 必死に動揺する気持ちを抑えようとしてみたけど……そんなこと、無理だった。

 おばさまはそれに構わず、うふふ❤ といたずらっぽく笑って続けた。

 「ふふ、べつに間違ったことは言っていないわよ? だって、料理なんてものは誰かがそばにいて、その人のために作りたい。って思って作るのが普通なんですもの。それが譬え家庭での料理でも、商売での料理でも……もちろん、それ〝以外の理由〟でも……ね❤」

 「う……あ……あの……で、でも……そんな……」

 どう答えていいのかわからず、私はただ定まらない視線をあちこち動かしていると……ふわり、とその時。変装用に被っていた帽子越しに、おばさまが私の頭を優しくなでた。

 「――いいじゃない、そんなに恥ずかしがらなくても。今はあたしたちだけなんだし、それに、〝好き〟っていう想いは女にとってすっごく重要なことなのよ? 精神的な面でも、肉体的な面でもね?」

 「そ……そう、なんですか……?」

 「もちろんよ!」

 ぽんっ! 力強く胸を叩いて、おばさまは自信満々に言い放った。

 「この私を見てみなさい! 〝結ちゃんのことが〟好きで好きでしょうがないから、このとおり! いつまでたっても〝若さ〟をキープしていられるのよ! もはやこれは結ちゃんなしでは絶対に不可能ね!」

 「……な、なるほど…………」

 ……ん?

 と、また疑問が……。

 「……あの、おばさま?」

 「ん? どうかした?」

 「ああ、いえ、その……私のことが好きだって言ってもらえるのは、すごくうれしいんですけど……あの……〝亮のこと〟は……?」

 「……え? 亮ちゃん? 亮ちゃんは……まぁ…………」


 〝ついで〟、ね。


 ……。

 ……。

 ……。

 「…………そ、そうですか……」

 「うん♪」

 「……」

 ……………亮……。

 ……私は、それから何もおばさまに聞くことはできなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ