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 ――突然打ち明けられたその言葉に、俺の背筋は一瞬にして凍りついてしまった。

 「こ……〝殺させた〟……って……えっ?」

 あまりにも衝撃的な事実に動揺し、愕然(がくぜん)とする中……店長はそんな俺に構わず、そこに補足を付け足すように続きを話した。

 「……そう、〝殺させた〟……それも、犠牲者たちと同じように、とても返しきれないような〝借金を背負った人たち〟に、ね……」

 「……!!」

 ……もはや、俺は声すら出すことができなかった。

 非人道的……なんてものじゃない。奪えるだけ奪った挙げ句、奪う物がなくなったら今度は〝殺人〟を強要させる……まるで〝悪魔〟だ。――そう思わずには決していられなかった。

 「……亮ちゃん、もう……やめる?」

 ――と、その時だった。店長が、そう俺に話しかけてきたのだ。

 「これ以上のことは、いたずらに亮ちゃんの心を傷つけるだけよ。今はまだこれ以上のことは知らなくてもいい……いつか、亮ちゃんの心に余裕ができた時にでもまた――」

 「ッッ――ダメだ!!」

 ――勝手に、俺の口が動いていた。

 はっ! 我に返った俺は、ギュッ! と、両手を握り締めて、叫ぶように店長に向かって言い放った。

 「――聴かなきゃ、ダメなんだ! 俺は絶対に、聴かなきゃダメなんだ! だって、俺は知っているんだ! 結の夢を……〝穢れのない、白乃宮の名前を取り戻す〟っていう夢を……だから、俺は聴くんだ……〝穢れ〟を残さないために……!!」

 「……!!」

 ……分かったわ。そう呟いてから店長は話した。

 「そこまで堅い決意があるのなら、アタシはもう止めないわ……だけど、知ってしまったら、特に亮ちゃん……結ちゃんと暮らしているあなたは、もう後には引くことができなくなってしまう……それだけは、胸に刻んでおきなさい。……いいわね?」

 「……分かった」

 俺が返事をしたのを確認してから、店長は改めて話した。

 「――それじゃあ、改めてさっきの続きからだけど……この、〝殺させた〟、っていうのには、まだ続きがあるのよ。……まぁ、もっとも、自分たちが手にかけないというだけで、これだけでは実際、いつ警察にバレるか分かったものじゃないから、当然といえば当然なんだけれどね」

 ……確かに、と俺は呟いた。

 「さっきは動揺してて気づかなかったけど……考えてみれば確かに、いくら借金を理由に使って脅していたとはいえ、そんなことをしてたらいつバレてもおかしくない……じゃあ、いったいどうやって……?」

 「それも、簡単なことよ」

 そう言い置いてからすぐに店長は続けた。

 「所謂、〝灯台(とうだい)下暗(もとくら)し〟ってやつね。――白乃宮家はね、一部の警察と〝手を組んで〟いたのよ」

 「――!!? け、警察と!?」

 ええ。店長は頷いた。

 「そんなに驚くほどのことじゃないわ。何しろ、そもそもの〝バレる〟っていうところの元を断つわけだから、これ以上手っ取り早いことはないのよ。もし被害者がバラそうとして警察に行っても、その警察自体が白乃宮家側の人間で、そこでさらに脅されようものなら……考えなくてもすぐに分かるでしょ? もはや八方塞がり状態。大半の人間はそこで諦めて言うことを聞くしかなくなるし、それでも諦めなかった人間はすぐに〝消される〟……これだけでも、もはや〝完全犯罪〟よ。――でもね、これだけではなく、白乃宮家はさらにそれを〝複雑化〟させて、事件を分かりにくくしていたのよ」

 「――事件の、〝複雑化〟……?」

 「そうよ」――すぐに店長は続けた。

 「具体的に言えば、〝事故〟として扱われるものの〝ほとんど全て〟を使って、その人たちを殺していたのよ。――つまり、交通事故だけではなく、火事や、階段からの転落といった、日常的に誰に起こっても不思議ではないような……そんなことを利用してね」

 な……なるほど、と俺は納得せざるを得なかった。

 「確かに、〝事故〟として見せかけるにしても、交通事故だけじゃ、いくら交通事故で年間何百人もの人が死んでしまっているとしても、一つの町であまりにも大勢の人が交通事故だけで死んでしまっていたら、確かに不自然だ。――でも、火事とか、事故の数自体を増やしてしまえば、不自然どころか普通……ただ単にそこで偶然、たまたま、不幸にも痛ましい〝事故〟が起こってしまった、としか思えない……いや、〝そうとしか思うことができない〟んだ! 事件のことを知らない人たちにとっては……!!!」

 「……そうよ。しかも、その〝事故〟を〝事故〟として調べるのは、白乃宮家の濃い息がかかった警察たち……周りの人間どころか、その人の家族……下手をしたら、殺された〝本人〟すらもが、これはただの〝事故〟……と、そう思わされてしまうことでしょうね」

 「……!」

 何てこった! ――怒りに耐え切れなくなり、俺は自分の膝を力いっぱい殴りつけた。

 「くそっ! 何でだ! 何で白乃宮家はそんなことをしてまで……!!」

 「……それは、アタシには分からないわ……でも、恐らく、だけど、これだけは言えるわ。――警察がマスコミや世間にこの〝真実〟を話さなかったのは、身内の中にそんな大事件に加担している人間が何人もいたことを、公表したくなかったから……でしょうね。もし、この事件の〝真実〟が公の下になったとしても、どうせ『世間に与えかねない悪影響を避けるため』……とか何とか、言いそうではあるけれど……」

 ぐ……ッッ!

 ……俺は、やり場のない怒りを、ただ何度も自分の膝を叩き、ほんの少しだけでも紛らわせることしかできなかった。

 「……これで、アタシの知っている〝真実〟は終わりよ」

 ――と、店長は立ち上がって、俺の肩を、ポン、と優しく叩いた。

 「――最初にも言ったけれど、アタシには、あの記事に書かれていることが本当のことなのかどうかは分からないわ。……どころか、どうやってこの事件が解決されたのかすらも、分からない。……あまり亮ちゃんの力になれなくて申しわけないけれど……これで、許してちょうだいね?」

 「――い、いや! そんなことは……話してくれてありがとう、店長。俺、がんばるよ。もっともっとがんばって、そしていつか、結の夢を叶えさせてやるんだ……」

 「……ええ、アタシも応援しているわ。頑張りなさい、亮ちゃん」

 ニコッ、店長は微笑み、俺に向かって手を伸ばした。

 「――さっ! そうと決まったらまずは腹ごしらえよ! 真剣になるのもいいけど、身体を壊しちゃったら元も子もないものね❤ 待っててね、亮ちゃん? 今、とっておきのお弁当を作ってくるから❤」

 「あ、うん……そうだね……そう、だよね……うん……!」

 がっしり、と、俺は店長のその手に掴まって立ち上がった。

 「じゃあ、お願いするよ店長。――って言っても、五百円しか母さんから貰ってないから、あんまり豪華なのは買えないんだけど……」

 「それだけあれば十分よ★」

 言ってからすぐに振り返り、店長は肩越しに手を振った。

 「それじゃあ作ってくるから、亮ちゃんは適当に飲み物でも選んでなさいな❤ できたらすぐに持って行ってあげるから❤」

 「うん、分かったよ」

 そう答えると、店長はいつもどおり身体をくねらせながら部屋を…………。

 ――あれ? とその時。頭の隅で〝何か〟が引っ掛かった。

 ……べつに、店長の動きがどこか不自然だったとかそういうわけではない。何か、こう……。

 「……あのさ、店長?」

 ――と、直感的に、俺の口が勝手に動いていた。

 え? と呼ばれた店長は当然、振り返る。

 「どうかしたの、亮ちゃん?」

 「あ、いや、その…何て言うか……」


 ――店長、何か…〝隠してる〟……?






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