4-8改
「――今お茶を用意するわ。とりあえず、適当にかけててちょうだい」
コク……俺が頷いたのを確認してから、店長は部屋の奥にあるキッチンへと入って行った。
俺はその後言われたとおり、部屋の中央に置いてある、テーブルを挟み、向かい合うように設置されている黒いソファーに腰を下ろした。
――ここは、店長室。
……俺がここに入るのは本当に久し振りではあったものの、子どもの頃から何度もここに遊びにきていたせいか、緊張とか、そういう類のものは一切感じることはなかった。
むしろ、昔とほとんど変わらない……自らを〝オカマ店長〟だと名乗るような人が使っているとはとても思えない、このダンディーな内装……逆に、安心感……のようなものさえ抱くほどだった。
「――ふふ、相変わらずでしょ、この部屋も。……アタシも気に入っててね、もう十年くらい模様替えもしていないのよ?」
いつの間にか戻ってきていた店長はそう呟くように言って、俺の前にお茶を置いた。
それから店長は、俺の反対側……目の前のソファーに座り、お茶を一口すすって、小さなため息と共に、静かに話した。
「……さて、じゃあ……事件のことについて、だったわね? ――さっき、結ちゃんとかから聞いたんじゃない、みたいなことを話していたみたいだけれど……それならいったい、どういうことなのかしら? まずは、アタシにその説明をしてくれる?」
分かった……頷いてから、俺は店長に、ポケットに折りたたんでしまっていた記事を開いて渡した。
「実は……この記事を読んだんだ」
受け取った店長は、記事の見出しの部分だけを見てから、改めて聞いてくる。
「……これは?」
「……それは〝情報屋新聞〟って言って……高利ってやつの話しによると、今学校中で流行ってる〝情報屋〟っていう裏の部活……みたいなところで書いてる新聞らしいんだ。はっきり言って、俺はそんなに……というか、全く詳しい方ではないんだけど……」
「……なるほどね」
ふー……店長は深いため息をついた。それから、今度は文章に目を通していく。
……普段から、こういう新聞などを読み慣れているのか、店長の読むスピードは速い。
一分も経っただろうか……そう思えるほどの僅かな時間で記事を読み終わった店長は、ふー、と再びの深いため息の後、それを俺の前に静かに置いた。
「――店長、それで……」
「――慌てないで」
未だに振りはらえない心の動揺…焦りからか、思わず動いてしまっていた俺の口を、そう店長は静止させた。
そして、何度かのため息の後……店長は、ゆっくりと口を開いた。
――だがそれは、事件の〝真実〟ではなく、俺に対しての〝質問〟だった。
「……亮ちゃん……今ならまだ、〝引き返せる〟わよ……?」
「……!」
……一瞬、俺は店長のその言葉に動揺してしまった。――しかし、店長が俺に聴いた、その〝本当の意味〟が、今の俺に分からないわけがなかった。
〝覚悟はいいか?〟
――店長は、そう俺に聞いたのである。




