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 ……俺は、未だにその記事に書かれていた内容を信じることができずにいた。

 ……いや、白乃宮の、結の最も近くにいたはずの俺に、そんな話……とてもじゃないが、信じられるわけがなかったのだ。

 ――俺の驚きっぷりに満足したのか、意気揚々と「じゃあ、俺は買い物があるから」とそれだけ言ってすぐにどこかへ行ってしまった高利とは裏腹に、まるで身体中に巨大な重りを繋がれているかのように、重い足取りで商店街の中を進み、俺はスーパー・デラックスバリューを目指していた。

 ……無論、あんな記事を読んだ後のことだ。食欲なんてものはあるはずもなく、俺がスーパーを目指している理由はもちろん、昼食の弁当を買うためなんかじゃない。

 父さんの……そう。この町のことについて詳しく知っていて、なおかつ、俺に本当のことを……〝真実〟を話してくれそうな人物……父さんの友人であり、父さんが死んだ後も俺のことをずっと気にかけていてくれた人。


 ――デラックスバリューの店長、オカマ店長に話を訊くためだ。


 「……店長、いるかな……?」

 店に着いて、俺はすぐさま辺りを見回し、店長の姿を探した。

 野菜コーナー……いない。

 魚コーナー……いない。

 肉コーナー……いない。

 ……どこに行ったんだろう? まさか土曜日に休みというわけではないだろうし……後は惣菜コーナーとかに…………あ!

 ――いた! 間違いない。()しくも元々の俺の目的でもあった、総菜コーナー……その弁当売り場に、店長の姿はあった。

 「――店長!」

 思わず声を上げると、あらぁ~? と店長は俺の声に気づき、振り向いていつものように身体をくねらせた。

 「あらあら! 亮ちゃんいらっしゃ~い❤❤❤ あなたのママンから聞いてるわよ~? たぶん、ここにくるだろうから、お弁当を一つよろしくぅ~❤ って! 待っててね? 今すぐアタシの〝愛情〟を注ぎ込めるだけ注ぎ込んだ、できたて、ほっかほか❤ の〝愛情弁当〟を持って――」

 「――店長!」

 ピタリ、と裏に弁当を取りに行こうとした店長の足が止まった。

 「……ん? どうしたの亮ちゃん? 突然そんな大声出して……?」

 「ああ、いや……」と周りの客たちも振り返ってしまったために、俺は、すいません、と一言その客たちに謝ってから、改めて店長に近づいて話した。

 「……急に大声を出したりしてごめん店長……でも、俺、どうしても店長に聞きたいことがあるんだ!」

 「……聞きたい、こと……???」

 コク……すぐに、俺は頷いた。

 「そう、聞きたいこと……店長、〝白乃宮事件〟について、知ってる……?」

 「白乃宮……ええ、まぁ、そりゃあもちろん知ってるわよ? 有名だものねぇ……というより、この町に住んでて、あの事件のことを知らないヒトなんかいないわよ」

 「――じゃあ、その〝内容〟なんかも、もちろん知ってるんだよね……?」

 「……」

 その俺の問いかけに、一瞬、店長の表情が固まった。――しかし店長はすぐにいつもどおりの表情に戻り、ユルい感じで俺の質問に答えた。

 「あらヤダ! そんなの当然じゃなぁ~い★ だってぇ、あの事件はそりゃあもう毎日のようにニュースで放送されてたんだから、知らないわけが――」

 「――〝そっち〟じゃない」

 「……えっ?」

 ピタリ。店長の動きが止まる。

 俺はそれを確認してから、認めたくはない〝確信〟と共に、間髪を入れずに店長に向かってはっきりと聞いた。


 「――そっちじゃなくて、本当の……白乃宮事件の〝真実〟について、俺は店長に聞きたいんだ……!」

 

「……!!」

 ――刹那、店長の表情が、驚きの表情に変わった。

 ――瞬間、しまった、と思ったのだろう。店長は口を手で押さえ、しかし、それもすぐに外し、先ほどとは打って変わって真剣な表情で、俺の目を見つめた。

 「……亮ちゃん。その話、誰に聞いたの? お母さん? ……もしかして、結ちゃん?」

 ぞくっ! ――俺の背筋が凍りついたのが分かった。……こんなにも真剣な表情で話す店長を見たのは、十数年間で初めてのことだったからだ。

 俺は思わず唾を飲み込み、ゆっくりと、口を開いた。

 「……違う。その……実は――」

 「待って!」

 ばっ! と、慌てて店長は俺の口を塞いだ。

 「ここは人が多すぎるわ。……そうだ、アタシの部屋にいらっしゃい? そこで、ゆっくりお話ししましょう?」

 「……分かった」

 俺はそう呟くように返事をし、辺りを、きょろきょろ、と見回しながら裏へと入って行く店長の後に続いた。





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