4-2改 結ゴハン・デジャヴ。
……それじゃあ、改めて。
――皆さんお待たせいたしました。さっそくですが、毎回恒例となってまいりましたこのコーナー。我が家のウチゴハンの時間でございます!
――さて、では本日シェフとしては初登場! すでに永久〝俺の嫁〟としてカスタム登録済み! 我が愛しき結シェフが作ります料理とは……本当は昨日の夜に作ってくれるはずではあったのですが、不覚にも俺が眠ってしまうという失態を起こしてしまったばかりに、結果、本日に延長されましたこの料理、
――〝オムレット・サンプル〟にございます!
……はて? そういえば俺は何で寝てしまったのだろう? 全く思い出せない……。
――っと! そんなことは毎度毎度どうでもいいとして、この料理は、その名のとおり、日本語風に訳して〝シンプルなオムレツ〟という意味の――
――――――。
……あれ?
と、再び俺の背筋を、悪寒にも似た不気味な〝あの感覚〟が襲った。
――そう、既視感…〝デジャヴ〟だ。
……何なんだ、さっきから? この感覚……まさか、俺は本当に前にも今と同じようなことを体験していて、それで俺の身体が何らかの危険信号を伝えようと……いやいやいや! そんなわけはない! 何を言っているんだ俺は! こんな大事な時に……ほら見ろ! 結が今まさに作っているあのオムレットを! 確かに少しくらい焦げてしまってはいるが、あれくらいならセーフ、どころか、初めて作ってあれなら大したもんじゃないか! それをこともあろうに〝危険〟だなんて……まったく、今日の俺はどうかしちまってる!
ぎりり、と頬をつねり、さらには結に気づかれないよう慎重に、何度か深く深呼吸をして、俺は自分の意識を正常に保った。
――っと、ああ! そうこうしている間にも料理が完成してしまいそうだ! えー……今回は不甲斐ない俺のせいで、料理の説明もろくにできず、誠に申しわけありませんでした。大変不愉快に思われますことでしょうが、次回はより努力を重ね、皆さまに楽しんでいただけるよう尽力いたしますので、これで今回のウチゴハンの時間は終わりとさせていただきます。
――以上、ウチゴハンでした。
「――よし、じゃあ結。あとはそれを皿に盛りつけて持ってきてくれよ」
「……あ…う、うん。わかった…………」
「……?」
何だか歯切れの悪い結の返事に疑問を抱きつつも、俺はそれからキッチンのすぐ後ろにある部屋に移動し、いつもの自分の席に腰を下ろした。
……今日は、結の様子も少し変だな? 初めての料理に緊張……でもしているのだろうか?
……分からない。分からないが、しかし、料理自体は〝成功した〟と言って間違いはないだろう。なぜなら先ほども言ったが、初めて作る料理であるのにも関わらず、結はそれをほんの少し焦がしてしまう程度に抑え、見事に作り上げたのである。
……もしかしたら、結には料理の才能があるのかもしれないな。将来、今とは逆に、結が俺に料理を教えてくれてたりなんかして。
ふふふ、とちょうど、そんな未来のことに思わず微笑してしまった俺の下に、結ができた料理を運んできてくれた。
そして結は、「ど、どうぞ……」という控えめなセリフと共に、コトリ、と静かにそれを俺の前に置いた。――俺は、改めてその料理をまずは目で吟味する。
……うん! ついさっきまで見ていたから分かるけど、形はもう、ぐっちゃぐちゃ、だし色は暗黒だしこれなら……
――あっれ~???
俺は、その〝物体〟を前に、驚愕した。
な…何なんだ、〝これ〟は!? あれ? えっ!? もしかしてオムレット? あの時見た、あの少し焦げてたけど確かに黄色かったはずの、あのオムレット??? いやいやいや、そんなバカな! だって俺はあの時ずっと――
――ッッッ!!???
ズギン!! という激しい頭痛と共に、また、今日最大級の〝あれ〟が俺の身体を貫いた。
これは……〝既視感〟!? そんなバカな! デジャヴなんてオカルトチックなものが実際には存在するわけが……
「――はっ!!」
思わず声が出てしまった。しかし、今の俺にはそんなことを気にしている余裕はなかった。
そういえば昨日の夜……結と買い物に出かけたあの夜、俺は家に帰ってきて、何をした?
……寝た???
――否! 違う! 〝寝た〟のではなく、結果的に今朝、〝寝ていた〟のだ!!
ま、まさかその時、すでに結はこの料理を俺に……だとするのならば、全てのことに説明がつく! つけられる!
――今朝見たあの不気味な夢も!
――胃もたれのようなこの不快感も!
――そしてやけに余所余所しい結の態度も!
――この〝既視感〟…〝デジャヴ〟すらも、全て!!
なんてこった!! 俺は激しく両手で頭を押さえつけ、心の中で全力で叫んだ。
あったんだ〝既視感〟!! 存在したんだ〝デジャヴ〟!! 俺はそれに否定ばかりで気づかず、遂には再び同じ時間を繰り返そうとして――
「――はっッ!!!?????」
ビクン! と俺の身体が跳ね上がった。なぜならば、そう、真横から……まさに拳銃がごとく突き付けられる、凄まじい威圧感のある〝熱視線〟が俺に向かって注ぎ込まれていたからだ。
――視線の主は……言うまでもない。〝結〟だ。俺が世界で一番愛している、〝結〟だ。
……ま、まさか……くくく、食え、って、こここ、こと……なの、か…………?
〝これ〟を!!!!!??????




