3-12改 三話目終わり。
「さて、じゃあ俺は座って待ってるから、あとは結、それを皿に盛って持ってきてくれよ」
「うん、わかった!」
結の元気な返事を聞いてから俺はリビングに戻り、いつもの自分の席に座った。
……うん、まぁ、ほんの少しだけ焦げてしまったけど、初めてでこれだけできれば上デキだろう。……もしかしたら、結は料理の才能があるのかもしれないな。そのうち今とは逆に、俺に料理を教えてくれてたりなんかして……むふふ。
――そんな、未来のことに夢を膨らませていた、ちょうどその時だった。
「――お待たせ」
と、結ができた料理を俺のところに運んできてくれたのだ。
俺は今一度、運ばれてきたその料理をじっくりと観てみる。
……うん、ついさっきまで見ていたから分かるけど、形は、ぐっちゃぐちゃ、だし色は真っ黒だしこれなら――
あっれ~???
俺は、その〝物体〟を前に、驚愕した。
……な、何なんだ、この黒い物体は……!? あれ? 俺って確か、結が料理してたトコ、ずっと……見てた、よねぇ~??? あの少し焦げてたけど、黄色かったあのオムレットはいったいどこに行ったんだ? ……え? もしかして、結があの後勝手に何か材料を追加した…とか? もしくはさらに焼いた……いやいやいや! てゆーか俺が結から目を離したのって、結ができた料理を運んでくるまでの、ほんの〝数秒〟のことだよな? 卵料理って、そんな僅かな時間でここまで変化するものなのか? いや、有り得ん!! ――しかし、事実として俺の目の前にそれはあるわけだし……いったいどうなってやがるんですかコノヤロー!!???
――落ち着け!!
念じるように心の中の銀ちゃんに向かって叫んでから、俺は頬を伝う冷たい汗を拭い、それから、結の持ってきてくれたそれを、改めてよく観てみる。
「………………」
…………だが、しかし、いくら見続けてもやはりその物体は、ぐっちゃぐちゃ、だったし、とにかく真っ黒以外の何物でもなかった。
……さて、どうしようか?
色々と何だかよく分からなくなった俺は真剣にそう悩み、遂には頭まで抱え込んで……
――その時だった。
じ……と何やら、俺は背中にものすごく熱い〝視線〟を感じ取ったのだ。
えっ!? ま、まさか……!!?
――その、まさかだった。
恐る恐る振り返ると、そこには――不安そうな面持ちながらも、真剣に俺のことを見つめる結の姿があった。
……な、何だ? え? もしかして、結。これを、食え……というのか? 俺に!!???
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
だらだら、と、俺の全身を隈なく汗が伝って行くのが分かった。
……………………ま、まぁ、あれだ……しょ、所詮は、何を入れようが、どんな形になろうが、卵は卵だ……食えないわけじゃ……………い、否! そうじゃないだろう! 我が悪友、高利は常々こう言っていた!
【漢なら 譬えどんな料理が出てきたとしても それが女の作った料理であるのならば 迷わず喰すべきであるッッッッッ!!!!!】
……と!
――そう。悲しきかな俺は〝漢〟であるのだ。
ならば、目の前にあるこの料理……それは、譬え〝命をかけて〟でも、俺は完食しなければならないのだ!
――〝漢〟として…………ッッ!!!!!
「い………………いただき、ます……………!!」
カチャリ……フォークを持つ俺の手に、力が入る。
――同時に、ごくり、と大きな音を立てて、俺の喉が鳴ったのが分かった。
………………いざッッ!!
意を決し、俺はその物体を一口大に切り分け、そして――
食べた。
――ジャグッ!
――瞬間、口の中で鳴り響いたのは、そんな、卵料理とは到底思えないほどの嫌悪感に満ち溢れた〝異常音〟。
な、何だこれは!? ――思うヒマもなく、刹那、次に現れたのは、
ドロリッッ!
――先ほどのものとは全く相反した舌触りの、〝妙な液体〟。
ど……どういうことなんだ!? 全くわけが分からない!!
困惑する俺ではあったが、しかし俺はその食べたことのあるはずがないその料理に、どういうわけか〝懐かしさ〟というものを、確かに、確実に、感じ取っていた。
……この歯触り。食感! そして何に例えたらいいのかも分からないこの味……そうだ。俺は知っている! いや、〝知っていた〟んだ、この〝ナニカ〟を!!!
――そう! これは〝あの時〟の――
がっファっッッ!!!!!!!!!!???????????????




