2-12改 二話目終わり。
そう、確かに、そのとおりだったのだ。
いつまでもそんな悲しいことばかりに目を向けていても、何も変わりはしない。それならば、少しでも楽しいことに、少しでも嬉しいことに目を向けていた方が、遥かに良い人生を送ることができるのは明白だ。
まったく、こんなことに今さら気づかせられるだなんて……結には本当に、迷惑をかけっぱなしだな……。
俺は、そんな俺自身に苦笑いしながらも、結の方を向いてはっきりと答えた。
「――ありがとう、結。そうだな、今度からは、ちゃんと祝ってもらおうかな?」
「……うん!」
その瞬間、結は満面の笑顔になっていた。……まったく、本当に優しい女の子だ。
俺がしみじみそんなことを思っていると、つられて笑顔になっていた母さんが何やら思いついたらしい。「あ、そうだ!」とわざとらしく声を上げた。
「結ちゃん? せっかくなんだし、亮ちゃんに何か〝プレゼント〟でもあげてみれば?」
「〝プレゼント〟? いいですね! ……亮、何がいい?」
「え? あ、いやぁ、べつに俺は……」
急に聞かれた俺は、というか、そもそもこれまで誕生日のプレゼントといえば、母さんから貰える特別お小遣い(ボーナス)くらいしか貰ったことがなかった俺は、何がいい? などと聞かれても、そういうふうに答えることしかできなかった。……まさか、結に金をくれ、なんて言えるわけがないしなぁ……。
「べつに…って、何かないの?」
「ん~……特に」
「あら、亮ちゃん? 女の子がせっかくプレゼントをくれるっていうのに、何もないってのは男としてどうなのかなぁ~?」
「い、いや、そんなこと言われててもなぁ……」
……というか、何だ、この状況は? 何で俺は責められているんだ?
チラリ、と結を見ると、じ~、と真剣な眼差しでずっと俺のことを見つめていた。
……どうやら、何でもいいから、プレゼントを貰わないといけないようだ。俺は、えーと、と唸り、とりあえず考えてみることにした。――そうしている間にも、ずい、いや、ずずい、と結は、ついでに母さんも迫ってくる。
「りょう~?」「りょうちゃ~ん?」
……まるで、新手の脅迫だな。なんて思っていると、俺はやっと一つだけ思いついた。
――と言っても、
「……そ、そうだなぁ~、結が俺のほっぺに、〝キス〟でもしてくれたら、俺的には嬉しいかなぁ~…なんて……」
……聞いてのとおり、〝冗談〟なのだが……それを聞いた結と母さんの反応は、「え?」と口を開くだけだった。
「りょ…亮は、それがいいの?」
一応、といった感じに、結は聞いてきた。ならばと、俺も一応答える。
「ははは、してくれたらうれしいな、って、思っただけだよ。ま、もちろん冗談だけどさ」
言うと、結はなぜかうつむいた。
……やばい、怒らせたか? ――そう思い始めた、その時だった。結が、そのままの姿勢で答えた。
「……わかった」
「えっ――」
ちゅっ――
………………………………。
この時……俺は、自分の身に何が起こったのか、全く分からなかった。
ただ、とりあえず、母さんは恥ずかしそうに、あらあら、と口元を隠して笑い、俺はその後何を聞かれても、「うん……」としか答えられなかったということだけは、今でもしっかりと憶えている。
――翌日、やっとその時起こった事実が頭に染み渡ってきたと思った矢先。俺は、なぜあの時、〝ほっぺに〟、ではなく、〝唇に〟、と言わなかったのかということを、
ひどく、悔いた…………。




