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「!? た、高……!?」
予想外の言葉を口にした高利の方を再び振り向くと、高利は俺の肩から手を放し、一人、保健室の出口へと向かって歩いて行った。
そのまま、背中越しに話す。
「……悪かったよ、急にこんな話を持ち出して。そうだよな、お前だって怖いよな。あんな強大な力を持つ元・お嬢さまたちを相手に、立ち向かおう、だなんて思えるわけがねぇ。実際、こんな話をしている俺様だってそうさ。今だって手は震えるし、足はまるで、泥沼の中を歩いているみたいに重く、冷てぇ……だけどな、悲しきかな。俺様だって〝漢〟なんだよ。それに、何より……俺様はお前と違って、まだ勝利を掴めていない(、、、、、、、、、)んだ。俺様たち(、、)、じゃあ、ダメなんだよ……俺様が(、、、)、俺様自身(、、、、)が! 〝勝利〟を掴み取りたいんだ……!」
「ッッッ!!! た、高ッッッ!!!」
俺は……叫んでいた。ベッドから立ち上がり、振り返ろうともしない高利に向かって、精いっぱい。嘘偽りのない、心からの言葉を叫んだ。
「やめろ! 死ぬぞ、高ッッッ!!! たった一日起こった奇跡に捉われるんじゃない! 今までに何度も、何度も! その身を以って体験してきただろう!!? 小学生の六年間! 中学生の三年間! そして高校……合わせりゃおよそ1/3300日だ!!! そんな奇跡が、二度も起こるわけがないじゃないか! 考え直せ!!!」
「……そうだな。起こるわけがないよな」
そう、思っている限り(、、、、、、、)は。
「はっ!!?」
「……そこ(、、)、なんだよ、亮」
出口の前で立ち止った高利は、そのまま話した。
「俺様が最初に言ってた〝心〟ってのは、そこ(、、)なんだ。最初から負けると分かっている勝負に負ける気持ちで行ったって、勝てるわけがない。だけど、いくら1/3300でも、勝てるかもしれない。そう思って行けば……もしかしたら、亮。そのデカい数字、だいぶ数が減るかもしれねぇな……?」
「……ッッ!!!」
待てよっ!
ガララ。高利が扉を開けたのとほぼ同時だった。俺はまた、叫んでいた。それに高利は肩越しに振り向いて答える。
「……何だよ亮? まだ俺様を止めようってのか? いくら止めても、俺様はもう――」
「違うっ!」
「……何?」
どういうことだ? そう高利が聞いてくる前に、俺は話した。
「そこまで言うんだ。もう、俺はお前のことを止めやしないさ。……だけど! こんな情けない、意気地のない俺でもよかったら……この目で、観させてほしいんだ!!! お前の、勇気を……〝心〟を……ッッ!!!」
「亮……」
……。
……。
……。
「……へっ」
数秒の沈黙……しかし高利は、それからゆっくりと振り返り、俺の方に向かって手を伸ばしながら――
「それでこそ、〝悪友〟だな!」
「た、高……ッッ!!!」
ガッシィィイイッッ!!!
駆け寄り、伸ばされたその手を俺が握ると、高利は……笑顔だった。
その笑顔のまま、高利は言い放つ。
「さぁ、行こうぜ! 悪友よ!!!」
「応ッッッ!!!」




