2-6改 ウチゴハン。
「――ところで、亮。何時に出かけるの?」
――晩ゴハンの食卓にて、結が聞いた。
「ああ、そのことなんだけど……母さん?」
「ん? なぁに?」
「うん、あのさ……〝今日のやつ〟、結も連れて行っちゃダメかな?」
「えっ?」
驚いたような声を上げたのは結だ。そのまま、慌てたように話す。
「な、何言ってるの、亮? 毎年、今日は私、〝お留守番の日〟だったのに……」
「ああ、そうだな。――でも、いつかは一緒にきてほしいって、俺はずっと考えてたんだよ。それが今日でも、べつにおかしくはないだろ? それに、お前だって何で今日だけ留守番確定日なのか、そろそろ知りたいんじゃないのか?」
「え……いや、私はべつに……ま、まぁ、理由くらいは、知りたいけど…でも……」
「……決まりだな」
俺はその様子を確認してから、再び母さんの方を向いて聞いた。
「結もああ言ってるんだ。いいだろ、母さん?」
うーん、と母さんは困ったかのような顔をしていたが、それから小さくため息をついて、すぐに答えた。
「そうね、そろそろ、いいかもしれないわね。結ちゃんだって、立派な〝家族〟なんだし」
「〝家族〟……」
――俺は、結のその言葉を聞き逃さなかった。すかさず、たたみかけるように話す。
「そ、結は、俺たちの〝家族〟なんだよ。だから、今日は一緒にきてくれるよな?」
結はしばらく俺と母さんを交互に見つめていたが……最後に俺の方をしっかりと見つめて、満面の笑顔ではっきりと答えた。
「――うん、私も…行く。だって、〝家族〟……だから」
無論、その笑顔には、〝ありがとう〟という気持ちが込められていたことを、俺や、母さんが分からないわけがなかった。
ふふ、と俺がつられて笑顔になったところで、母さんが、ぱんっ、と手を叩いた。
「――よし! そうと決まったら遅くならないうちに早く行きましょ? さっさとゴハン、食べちゃいなさい」
「了解」「はい」
そう答えてから俺たちは、すぐに残りのゴハンに箸を伸ばした。
……ああ、ちなみに今日のウチゴハンは、鯵の蒲焼きと、ご飯。――以上だ。
本来、蒲焼きといえばウナギ同様串などに刺して、炭火などでこんがり焼き上げるものなのだが、面倒くさがり屋な母さんは、それをフライパンで焼く。ただし、これにはけっこうコツがあって、焼く前に醤油と酒に浸して下味をつけておかなければならない。そして余分な水分を拭き取り、片栗粉をつけて、〝上になる方〟から焼く。ちなみに今回は身の方が上だ。したがって身の方から焼く。――キツネ色になったらひっくり返して少し焼き、あとは特製醤油ダレを入れて、タレにとろみがついたら完成。この甘じょっぱさがまたご飯を進ませる……のはいいのだが、ウチの場合、一品料理のため栄養バランスが非常に偏っているのが、玉に瑕だ。
――あ、以上、ウチゴハンでした。
「ごちそうさま。結、先に行って着替えてるからな」
「ふむ……んくった」
口いっぱいにご飯を詰め込み、何を言ってるんだか分からない結の返事を、かわいいな……なんてひそかに思いながら、俺はさっさと自分の部屋に戻って、着替えを済ませた。
……残念ながら、着替えの最中に結が入ってきて、ドッキリイベント……なんてことには、ならなかったが……。
……いや、そんなことはどうでもいいとして、とにかくその数分後、俺たち三人は家を出た。




