1-2改
「――う! ……おい、亮! いい加減起きろって! ……亮っ!!」
「はっ!? こ、ここは――づああっっ!!???」
――真っ白に、まるで霧でもかかっているかのように霞む視界の中。
誰かに呼ばれ、目を覚ました俺の頭を突然襲ったのは、文字どおり、目も覚めるような強烈な〝痛み〟だった。
いったい何が起こったんだ!? 俺は頭を押さえながら、痛みが出ないようにゆっくりと目だけで辺りを見回すと……俺が寝かされているらしいベッドのすぐ脇……おそらくは先ほどの声の主であろう。そこには、メガネをかけた顔見知りの男子生徒の姿があった。
「……あー、すまんすまん。起きろって言っても、できるだけゆっくりな? じゃねーとまた寝ちまうから……」
「高……か? ここは……俺はいったい……?」
――そこにいたのは、小島 高利。小学生の頃から、良い意味でも、悪い意味でもいっしょにいる、所謂俺の〝悪友〟というやつだった。ちなみに呼び名は通称、高。または、メガネザルという。……どうでもいいか。
「何だぁ? 憶えてねーのか???」
そんな高利は、やれやれ、とわざとらしく両手を広げ、これまたわざとらしすぎる深いため息をついてから俺の質問に答えた。
「……いいか? 今は放課後。んで、ここは保健室。そして、お前はあの〝元・お嬢さま〟の〝パンツ〟を見にいった〝クレイジー〟。……もう分かんだろ?」
「クレ……いや、分かった。なるほど、この頭の痛みはそういうことか……」
未だ俺の頭は、ぼんやり、としたままだったが……高利のテキトーな説明でも、大よそのことは思い出すことができた。
――どうやら俺は、ゴミ箱シュートに失敗した後……〝元・お嬢さま〟と呼ばれる、地元では超・有名なあの女子生徒に踏まれ、しかしなぜか俺は〝パンツ〟を見にいき、そんで頭をカチ割られて保健室へ……という流れだったらしい。……いったい何で俺はあんなことをしてしまったのだろうか?
「はぁ~……いやはや、しっかし……ホント。お前ってバカだよな~?」
――と、俺が思い出したことを悟ったのか、高利は、ニヤニヤ、とした気味の悪い、明らかに俺のことをバカにした顔で続けた。
「相手はあの〝元・お嬢さま〟だぜ!? 何でやられる危険まで冒してお嬢さまのパンツを見にいくかねぇ~? ……いや、まぁ、確かに? 普段は絶対に見れないようなお嬢さまのパンツなら、一見以上の価値は確実にあるよ? けどさ~? それなら他の、何てことのない女子のパンツ十人…いや! 〝百人〟は確実に見られるだろうに? ――ある意味俺は、お前のあの無意味な行動に敬意を表するね! はははっ!」
「……お~、そりゃまた光栄なこって」
口ではそう冷静に応えつつも、くそっ! としかし内心、俺は歯噛みをしてしまった。
……高利の言葉に? いいや、違うね。表面上の言葉なんて、俺たち悪友同士。バカにし合う言葉なんてもはや聞き慣れてしまっている。だから、今さらそんなもので簡単に怒ったりはしない。
……では、いったい何に対して怒ったのか? ――それは、高利の〝心の中〟……そう。俺はやつが〝本心〟から考えていることに気づいてしまい、怒ったのだ。
――どういうことなのか? それをより詳しく説明すると、答えは簡単だ。
実は俺には、人に自慢できるかもしれない、たった一つの特別な〝能力〟が備わっているのだ。……と言っても、どこぞの漫画やアニメみたいに、口から炎を吹いたり、手から電撃を発射できるわけではもちろんない。
――〝洞察力〟。
ある意味誰にでも備わっている、人の表情や仕草から〝本心〟を読み取る力……生まれつきかどうかは知らないが、俺はそれが驚異的に優れていたのだ。
そんな、俺の優れた洞察力……名をそのままに、〝驚異的洞察力〟で高利の考えを読み取ると、次のような言葉が浮かんでくる。
『お前、マジで頭悪いな? 転生したら蚊とかになって潰されろよ』
『毎度毎度、お前はほんっと、学習能力がなさすぎるぜ~! ……つか、毎日踏まれたり、蹴られたり、殴られたりしてるわけだろ? だったらそん時スキを見つけて、こっそりチラ見とかすりゃあいいのに……ん? いや、待てよ? もしかして〝やられたい派〟なのか? そうなのか!?』
『――で、〝何色〟だった?』
……と、まぁ、だいたいこんな感じだろう。もっとも、読み取った結果だから、正確にやつの言葉というわけではないのだが……相も変わらず、心根までもムカつくヤロウだ。
――だがしかし! 俺は知っているんだぞ、高? お前が本当は〝何を一番言いたい〟のかを! ……何しろ、お前は最後にはっきり聴いて(?)きたもんな?
『――で、〝何色〟だった?』
――ってさ?
ふふふ……俺は高利の方を見ながら静かに笑い、お返しに高利を心の中で思いっきりバカにしてやった。
どーだ! 悔しいだろ高! うらやましいだろ高! 俺は知っているんだぜ、誰も知らないお嬢さまのパンツの色をな!! ――もちろん、俺はお前〝とか〟には絶対に何色だったかなんて教えてやらないからな! あのピンク色な……否!! 〝真っ白な思い出〟は、そっと、俺の胸の中にだけしまっといてやるよ! ははははは!!
「……あん? んだよさっきから人の顔を見て……気持ち悪いな」
「ん? ――ああ、いやいや? べっつに~♪ ……いてて」
……何だか、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。気のせいかもしれないが……。